パーティー依頼⑧
壁
最後のオークを斬り倒し、歓声が上がる。
後ろで肩で息をするサーシャに声をかける。
「大丈夫?」
「はあ、はあ、なんとか・・・喉が焼ける・・・」
私はマジックバックから水筒を出しサーシャに渡す。浴びるように飲むサーシャ。
さあ、これからが大変だ。
ヒーラーは治療に走り回り、生き残りのオークがいないか回る。
「ショウ、えらいわ、よく頑張ったわね」
マリ先輩は降り立ったショウを抱きしめ優しく撫でる。それから、治療に回る。ローズさんは治療に回るマリ先輩に着いて行きながら、オークをマジックバックに入れていく。その前にアルフさんに水筒を渡している。
「君、大丈夫かい?」
ヴェルサスさんが気にかけてくれる。
「はい、大丈夫です。お怪我は?」
「たいしたことない」
そう言っているが、満身創痍な感じで、あちこち打撲や切り傷がある。
「リツさんが治療してくれますよ」
「私は最後だ。部下を見てくる。大丈夫だと思うが、残存しているオークがいるかもしれない。誰かと一緒にいるんだ」
「はい。オークの死体は回収でいいですか? 私マジックバックあるので」
「頼めるかい?」
「はい」
ヴェルサスさんは指示を出し始める。
私もマジックバックにオークを入れていく。入れながらアルフさんの方に移動する。
腰を下ろしたマルコフさんに、アルフさんは膝をついて様子を見ている。
「すまないアルフ、命をまた助けてもらった」
「構わんさ、儂はそれが仕事だ。さ、飲んでくれ」
アルフさんが水筒の水をマルコフさんに差し出す。
ゴールドオークに肩を切り落とされる直前だったマルコフさん。顔色は悪いが、負傷した肩は動いている。バーンの初期の治療と、マリ先輩のミドルヒールのおかげだろう。
他のメンバーも水分補給。
『暁』もポーションを飲んでいる。
「アルフさん」
「ルナ、無事か」
「はい。私、オークの回収に回ります」
「付き合おう。奥の巣も気になる。必要なら潰さんといかんからな。サーシャも来い」
「はい」
私はそれからオークの回収に回る。アルフさんとサーシャが周囲を警戒。ショウが上空で旋回し警戒している。あの子、本当に劣化個体なのだろうか?
「ルナ、ゴールドオークは武器ごと回収してくれ。後で確認したいことがある」
「はい」
せっせと回収し、50体程でマジックバックがパンパンになる。後何体かで許容オーバーだ。
巣の近くになると、サーシャが顔をしかめる。
「う、臭い」
でしょうね。嗅覚の鋭い獣人だもんね。
「サーシャ、奥にまだオークはおるか?」
自分の鼻を詰まんでいるサーシャにアルフさんが聞く。
「ちょっと待ってください、いいえ、俺の聞こえる範囲ではいないようです」
「そうか。さて、これどうするかの」
アルフさんの視線の先には、大口を開けた穴。オークがわらわら出てきた穴だ。
「残していたら、また棲家にされたらいかんしな。一応、ヴェルサス殿と相談するか」
「なんとかできるんですか?」
「全部は無理だろうが、入り口付近なら潰せる」
さすが。確か採掘の時も魔法でゴリ押ししていたしね。
一旦、騎士団に合流する。そこで絡まれていますアーサーが。騎士団とシンバに。
「君、君の支援魔法で助かったよ」
「その年ですごいな、動きも悪くないし、奴隷にしておくには勿体ない」
「団長に言って騎士隊に入らないかい?」
「少年、我らのパーティーに入らないか? 君は恐ろしいほど才能がある」
わたわたしているアーサー。
最後の方は、支援を飛ばしまくっていたしね。確かに、支援魔法を飛ばすなんで魔法師団にもいないはずだ。アーサーは生まれつきに魔法系のスキルが高いし、何より本人が努力を惜しまないからできることだ。シンバはそれがわかっているはずだ。
「よさんかっ」
ヴェルサスさんが言うが、止まらない。
「隊長、この子すごいですって」
「絶対に隊に一人は欲しい人員ですよ」
「少年、君はいくらで買われたんだい? ライナスに言って交渉してもうぞ。もちろん悪いようにはしない」
ひー、みたいなアーサー。
「やめてもらおうか? うちの大事なホープだ」
割って入ったアルフさんの後ろに、アーサーは隠れる。
「お主の奴隷か?」
騎士隊はあきらめたようだが、シンバは血走った目で迫ってくる。
「違うが、こいつはやれん」
「よせ、シンバ。すまない」
ライナスさんまでやってきた。
「くっ」
悔しそうなシンバ。
「しかし、本当に君たちはすごいパーティーだな。とても補助パーティーとは思えない」
「儂らはまだ冒険者として日が浅いからな」
アルフさんは肩をすくめる。
「ヴェルサス殿、奥の巣はどうする? オークは残っていないようだが」
「ああ、潰したいが、頼めないだろうか? 君は確かかなり土魔法レベルが高かったな。入口付近だけでも構わないのだが」
「承知した」
アルフさんは奥の巣の前に移動。私も続く。
「さて」
巣の前でポーションを飲んだアルフさんは魔鉄の槍と十文字槍を持つ。
「我は力を示す。大地よ砕けよ、すべてを飲み込め」
二つの穂先を巣の入口に向けると、地面が揺れる。
「アースディスラクトランクション」
ゴウンッ
破壊音と共に、地面が陥没する。かなりの規模で。地面に亀裂が入り沈んでいく。
「すご…」
サーシャの思わずといった声が漏れる。
入口がふさがり、土煙を上げて地面が陥没、隆起する。
アルフさんのスキルレベルの高さと、槍の付与による補助のなせる技だ。
「ふう」
アルフさんは息を吐き出し、膝をつく。
「大丈夫ですかアルフさん」
私は慌てて駆け寄る。サーシャも心配そうに覗き込んでいる。
「ああ、少し休めばいい」
額の汗を脱ぐっているアルフさん。胡座をかき、大きく息をすっている。
しばらくして治療を終えたリツさんがオークの回収を始める。
何が何体か不明だが、とにかくすべて回収する。
後で確認だ。
「全員いるな。負傷者を真ん中に帰るぞ。日が落ちる前に」
ヴェルサスさんの号令で移動開始。
回復したアルフさんの横を歩く。マルコフさんも自身が足で歩いている。元来た道を戻る。
重症者もいたが、死傷者はいない。支えられながらも、全員自身の足で歩いている。リツさんとマリ先輩が魔力回復ポーションを惜しまず治療したからだ。
光魔法を使い続けたリツさんにはアーサー、マリ先輩にはローズさんが付き添いながら歩く。
休み休み歩いてもう少しで野営地というところで、マリ先輩に寄り添っていたショウが突然羽ばたき空に駆け上がる。真っ直ぐ野営地の方に。
「野営地が…」
マリ先輩の呟く前にサーシャが反応。駆け出したので私も追いかける。サーシャの足には素では誰もついてこれない。風魔法で身体強化した私くらいしか着いてこれない。
数人が追いかけてくる。
野営地には数人の騎士達がいるし、副ギルドマスターのオルファスさんもいる。大丈夫だと思うが。まだアーシャは戦闘はまずまずできるが、ミーシャは保護対象だ。
私は腰に下げた二代目を確認。いつでも抜刀できる。
野営地にたどり着くと、私は柄に手をかけたまま、どうしようか戸惑ってしまった。
読んでいただきありがとうございます
明日の投稿はお休みします、すみません