パーティー依頼④
浅い付与。
夜営地に到着。時刻は夕方。
先にヴェルサスさん率いる騎士団が到着していた。ショウの姿を見て、一斉に攻撃体制になったが、マリ先輩が「大丈夫です、私の従魔です」とショウを抱き締めて安全性を訴えた。なんとか納得してくれたけど。
馬車を止めて、まず、オルファスさんがヴェルサスさんと話している。
「ルナさん、ビルツさんがいますよ」
アーサーに言われて、視線を動かすとビルツさん。向こうも気づいたみたいで、小さく笑っている。私とアーサーは軽く会釈して返事をする。
「ねえ、アルフお兄ちゃん、ミーシャも行ったらダメなの? おとなしくしてるから、着いていった、ダメ?」
ミーシャが保証人のアルフさんにお願いしてる。
「ミーシャ、お前さん、ゴブリン10匹一度に相手して倒せるか?」
「できない」
「オークっていうのはな、一匹がゴブリン10体の強さだ。そんなのがわんさかいるんだぞ。そんな所に若い娘を連れてはいけん」
「ルナお姉ちゃん行くのに?」
「じゃあ、ルナに勝ったら連れてってやる。出来るか?」
「出来ない……」
「今回は留守番だ。いいな、また、魔の森に連れってやるから。いいな」
「分かった」
渋々納得するミーシャ。後でサーシャがアルフさんにすみませんと謝っていた。
それぞれ簡易テントを張り出す。夜営の番は騎士団が請け負ってくれた。
リツさんのアイテムボックスから、すでに組み立てられたテントが出てくる。あ、新しく作ったのね。三倍くらいの大きさになってる。高さも十分だ。マリ先輩曰く、付与にどうしても空間拡張を着けたいらしい。だが、時空間魔法のスキルが高くないと出来ないらしい。今は小さなマジックバックが限界と。グレイキルスパイダーの布を使用し、付与は中の結界、消音、自動修復、温度調整。中もキレイだよ、仕切りを着けたら私達が全員寝れる。
「各パーティーリーダー、よろしいですか?」
夕食の準備をしていたリツさんが呼ばれて向かう。
私はマリ先輩のお手伝いだ。ローズさんがお茶を淹れて、アーサーがお手伝い。三兄妹はノゾミとショウのブラッシングだ。アルフさんは火を起こす。
しばらくしてリツさんがマルコフさんと共に戻ってくる。
「何のお話だったの?」
マリ先輩が聞いている。
「明日の作戦よ」
でしょうね。
残りの『ハーベの光』のメンバーも、やって来た。いそいそ嬉しそうに。
リツさんが夕食の準備に加わり、配膳開始。
本日はカボチャのニョッキに、ボアとオークの合挽き肉のミートボールの煮込み、マッシュポテトだ。
物凄い視線が来るが、無視していただきます。キリッ
うん、自然にオルファスさんがいるよ。
「すまない、リツ君、夕食まで」
「気にされないでください。さ、沢山召し上がってください」
「リーダー、アルフに補助メンバー依頼して良かったね」
ミートボールで食べながら、バーンが心から言ってる。
カボチャのニョッキは甘味があり、ミートボールはあつあつジューシー。いくらでも入ります。マッシュポテトもパクパク。ミートボールと一緒にパクパク。
「明日は私達はどう動くの?」
マリ先輩が聞いている。
「私達はマルコフさんの後ろで移動よ。戦闘になったら、私達は援護よ」
「出来れば、アルフは前線に立ってほしいが」
「構わないぞ」
私も前線だね。衝撃残刃で初撃参加だね。
「ルナ君」
「はい」
マルコフさんがミートボールを食べている私に聞いている。
「ゴブリンの巣で使ったあの衝撃残刃を使ってもらえるかい?」
「構いません、大丈夫です」
オークだろうが、なんだろうが、スッパスッパだ。ゴブリンの巣からかなりレベルが上がっているしね。待ってろハムども。
「ルナ、顔」
分かってますよ。
「マリ君、ショウ君には掃討作戦中に周囲の警戒を頼めるか? 撃ち漏らしがないようにしたいんだが」
「はい、大丈夫よねショウ」
「ピィッ」
頼もしく鳴くショウ。
「アーサーとサーシャを後ろにつかせたいが」
「構わないさ」
明日の行動を聞きながら、わいわいと夕食と済み、マリ先輩がデザートでクッキーを振る舞う。はい、いただきます。さくさく。
クッキーを食べていると、ビルツさんがやって来た。
「アルフレッドさん、お久しぶりです」
「ああ、ビルツ殿。お久しぶりだな」
「ルナ君、アーサー君も」
「はい」
「お久しぶりです。ビルツさん」
私とアーサーもご挨拶。
リツさんもご挨拶する。ちょっとビルツさんが、びっくり。
「ずいぶんお若い方ですね。とてもお美しい」
「まあ、お上手な方ですね」
ふふふ、と笑うリツさん。
アーサーが微妙な顔をする。
スルッとリツさんの後ろにショウが移動して、う、と怯むビルツさん。
「では、明日よろしいお願いします」
いそいそとビルツさんが帰っていった。
そんなに急いで帰らなくてもいいのに。
デザート終了後、片付ける。
「ねえ、アルフどう?」
バーンが自分のナイフを、アルフさんに見せている。
「これは、うーん。新調しろ」
「それだけッ」
「金属にかなり負荷がかかっとる。大事に手入れはされているが、魔力による負担で、おそらくすぐに折れるぞ」
「そんなあ…」
「自分の得物だろう? それくらい持っとるだろう」
「そ、それは……」
バーンがゴニョゴニョ言ってる。それを聞いてアルフさんは息をつき、バーンのナイフに何かしてる。付与だ。
「そら、今回くらいはなんとかなるが、近々必ず新調しろ」
「え、いいのアルフ。あ、ありがとう、あ、おいくら?」
「いらん。浅い付与だ。長くは持たんぞ。いいな。必ず新調しろ」
「あ、ありがとうアルフ」
抱きつきそうなバーンを、アルフさんの長い腕でガードする。
バーンはナイフを受け取り、ぴょんぴょん。
「アルフさん、浅い付与って?」
私が聞くと、教えてくれる。
「浅い付与はその場しのぎだ。長くは持たん。あの金属の状態ならそれが精一杯だ」
こっそり教えてもらった。バーンは可愛がっている実姉の娘、姪がめでたく嫁ぐことになり、できるだけのことをしたいと。バーンとその姉とは年が離れていて、両親が続けて亡くなった後は親代わりで育ててくれた。せめての恩返しを含めて花嫁衣装と持参金を持たせたいと、必死に貯金していると聞き、アルフさんがナイフに浅い付与をつけたらしい。本当に、根はいい人だね。あの人。
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