パーティー依頼③
もりもり。
昼過ぎ、一旦休憩。
アルフさんはよく寝てる。起こさないように、みんなで下車する。
リツさん達が昼食の準備を始める。
こういった合同のクエストの際は、食事は各パーティーで持つ。
「リツ君、いただけないよ。こちらでも食事の準備はしてあるから」
マルコフさんが遠慮しているが、視線はサンドイッチも釘付けだ。
「私達は『ハーベの光』の補助パーティーですよ。これは皆さんの補助です。ちゃんと栄養とって、明日の掃討作戦に備えてもらわないと」
押しの強い笑顔のリツさんに負けるマルコフさん。きっとサンドイッチが輝いていたからだ。ローズさんがお茶の準備。わいわいとしていると、
「ルナ君、ちょっと話ができないかい?」
ライナスさんが話しかけてきた。
リツさんとマリ先輩がちらほら見てくる。
「何でしょうか?」
「ちょっとこっちで」
「ここじゃダメですか?」
「少しでいいんだが」
なんだろう。うーん、少しならいいかな。まあ、だいたい予測着くけど。
「少しなら」
「ありがとう、すまないね」
「リツさん、ちょっといいですか?」
「いいわよ」
リーダーリツさんの許可もあり、私はライナスさんの後に続く。
「何でしょうか?」
「君の噂を聞いたよ」
「はあ」
何の噂よ。
近くに『暁』のパーティーメンバーがいる。
「改めて言うけど、うちのパーティーに来ないかい?」
「お断りします」
きっぱり断る。
「うーん、ダメかい? 失礼だけど、あのリーダーの女性とは、レベルの差があるようだし、合ってないようだし。生活の心配はさせないよ」
「以前もお話しましたが、私はあのパーティーから離れるつもりはありません」
「あんたさ、何が不足なの?」
アルフさんに突っかかった女性が聞いてくる。
「不足とは?」
逆に聞く。
「私達は今はBランクパーティーだけど、多分これでAランク確実なんだよ。生活面だって保証するし、かなり優遇してるんだよ」
ランクに生活面か。
多分。この女性の言うように優遇されている。
「生活面は別に困っていません。ランクなんて私は気にしないし」
リツさんの屋敷にいれば、食事に着るもの、お風呂付き、全く困ってない。それにランクは私は気にしない。
「あのさ、今がよくてもいつか綻びが来るよ」
「確かにそうでしょうね。いつか解散するでしょうけど、私は最後まで付き添うだけです」
私の決意は変わらない。そのうち解散になるだろうけどね。あの赤髪エルフの件が片付くまで。
「どうしてそこまで彼女達に着く」
リツさんのご飯、マリ先輩のお菓子、ローズさんのお茶。いや、違う。
「私は恩がありますから。それを返すまでは。向こうがいらないって言われるまでは」
そう、恩がある。マリ先輩には。
「そうか、恩か」
黙って聞いていたドワーフが口を出す。
ローブの男性も肩をすくめる。
「ライナスさん、お誘いしていただいたのはありがたいのですが。私の決意は変わりません」
息を吐き出すライナスさん。
「残念だよ」
諦めてくれた。
女性はまだ何か言いたそうだ。
そこに、起きたのか、アルフさんがやって来る。
「ルナ、飯の準備が出来たそうだぞ」
「はい、行きます。失礼します」
サンドイッチが待ってる。
いそいそと向かう。
アルフさんとサンドイッチの元に。
マリ先輩の隣に座る。
「どうぞルナちゃん」
「ありがとうございます」
マリ先輩の食パンに挟まれているのは、しゃきしゃき野菜と、ホワイトトレントのチップで燻製されたハムサンドと、卵サラダがたっぷり挟まれている卵サンド。
いただきます、キリッ
パクっとな、うんハムが柔らかく、微かに芳しい香りがする。ちょっと厚みもあるから、食べ手応えあり。もりもり。卵も美味しい。もりもり。
「ねぇルナちゃん、やっぱりスカウトの話だったの?」
マリ先輩が聞いてくる。一斉に視線が集まる。
「そうです。お断りしました」
「そうなの、良かった」
ほっとした表情のマリ先輩。
「まあ、ルナ君は優秀なアタッカーだからな」
マルコフさんがなんとなく納得の表情。
「スカウトなんて、出来るんですか?」
アーサーが聞いてくる。
「出来るよ。ただ、無理な勧誘はダメ。パーティーに所属していたら、パーティーリーダーの許可もいるしね」
「ふふ、うちの大事なアタッカーだからね」
リツさんが笑う。うん。かわいいけど、逆らわないでおこう。もりもり。オルファスさんまで食べてる。自然に馴染んでいて、逆にびっくり。
昼食を片付けて、再び馬車に。程よい揺れだから寝るかも。
でも、寝る前にしなくてはいけないことがある。アルフさんが起きたので、自己紹介だ。
まず、マルコフさん達『ハーベの光』。
「リーダーのマルコフです。剣士だ。タンクのバラック、剣士のイレイサー、斥候兼回復役のバーン」
どうも、と、ご挨拶する『ハーベの光』。
次に『暁』が自己紹介を始める。
「リーダーのライナスです、タンクだ」
うん、盾が背中にあるからね。
「斥候のクリタナ」
「クリタナです」
女性、クリタナが挨拶。
「魔法使いのシンザ」
無言で会釈する、渋々男性。
「アタッカーのトルバ」
「よろしくな」
斧を持つドワーフが軽く会釈する。
うん、みんな手練れ感ある。
「リーダーのリツです。魔法使いです。今回はヒーラーとして補助をさせていただきます」
我らの紹介が始まる。
「まず。テイマーとして参加します、マリちゃん」
「はい、マリです。こちらがノゾミで」
「メエメエ~」
「飛んでいるのがショウ」
「ピィッ」
ノゾミとショウも返事があり、慣れない『暁』は驚いている。
「剣士のローズさん」
「ローズでございます」
きちっとご挨拶のローズさん。思わず、どうも、と返事してる。
「アタッカーのルナちゃん」
どうも。知っているだろうけどね。
「バランサーのアーサー君」
「アーサーです」
ペコリ、アーサー。奴隷紋に気付いているだろうが、詳しく聞かれなかった。
「斥候のアレクサンドル君。後衛のアーシャちゃん、ミーシャちゃん
。アーシャちゃんとミーシャちゃんは夜営地で留守番です」
ペコリ、三兄妹。
「最後にタンク兼オブザーバーのアルフさん」
「よろしく」
「タンク? 盾はどこにあるんだい?」
女性、クリタナが眉を寄せて聞いてくる。
「私がアルフさんの装備品は預かってます」
マジックバックだけどね。
ギリギリまで鍛治師ギルドでお仕事だったからね。
「ふーん」
物凄く疑いの眼差し。
「アルフ、まさか盾作ったの?」
バーンが聞いてくる。バーンだけではない『ハーベの光』全員が興味津々だ。
「まあな、明日見せる」
「うわあ、なんかすごいの出てきそう」
うん、すごいよ、多分口がしまらないようなことになるよ。
本当に鍛治師なんだな、みたいな視線が『暁』から来る。
シェラさんからアルフさんが鍛治師と冒険者の兼用しているのは、聞いていると思うけど。
それから元気なノゾミが、可愛く鳴いて、ひとしきり撫でなれる。
「グリフォンとカラーシープか、また、すごい組み合わせだな」
ライナスさんがボンボンのついたしっぽを揺らすノゾミを見ながら呟く。
「仲良しなんですよ、ノゾミとショウは」
「そ、そう」
にっこり笑って説明するマリ先輩、あまり納得してないライナスさん。まあ、仕方ないね、捕食者と捕食対象だからね。
「メエメエ~」
「か、かわいいね」
さっきまで、アルフさんに疑いの眼差しを向けていたクリタナも、笑ってノゾミを撫でる。渋々のシンザも眉をピクピクさせながら撫でていた。
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