春に向け③
アント
ごうううぅぅぅぅぅんッ
白いアント達が吹き飛んでいく。
アルフさんの前までに迫っていた、アント達はかなりの後列まで、吹き飛ばされ地面に叩きつけられ、もしくは木に叩きつけられていく。硬いはずの甲殻を持つアントが、あらぬ方向に関節を向けている。
すごい威力だ。
私は衝撃斬刃、アーサーはストーンバレットを休まず放ち、後方からも魔法が飛ぶ。
数が一気に減る。
「サーシャ前に、アーサー後退しろ」
アルフさんが指示を出し、アーサーは後退し、ナイフを抜いたサーシャが駆け込んでくる。交差する瞬間アーサーがサーシャの肩に触れる。多分支援魔法だ。
私は二代目で次々にアントを切り裂く。アルフさんは魔鉄の槍で、アルフの甲殻を突き破る。
「サーシャ、儂らの後ろにおれッ」
「はいッ」
アント等の虫系はしぶとい。生命力が。真っ二つになっても、まだ、脚を動かしている。それにサーシャがナイフを突き立てていく。
しかし、本当にサーシャは身が軽い。無傷のアントが来ても、軽く跳躍し頭に蹴りを入れ、空中で回転しナイフで切り裂く。
私とアルフさんは、火魔法で武器強化。サーシャはおそらく光魔法の武器強化だろう。僅かにナイフが白く光っている。光魔法の武器強化の特徴は破壊力だ。強化された武器で切り裂くと、連動して体内を破壊する。レベルが低いとたいした威力ではないけど、スキルアップの為に、サーシャは光魔法を使い続ける。途中で魔力回復の為にポーションを飲む。枝に片手をかけて、くるっと逆上がりだ。枝の上でポーション飲んで息を整え、ナイフを真下にしてまっ逆さまに落ちる。ナイフの先にはアントの頭。深く突き刺さり、体をバネのようにして引き抜く。
「ヒートアクセルッ、リードッ」
アーサーの支援魔法が飛ぶ。え、あの子、支援魔法まで飛ばせるの? いかん、私の存在意義がなくなる。
私はちょっと躍起になってアントを切り裂いていった。
あらかた片付いて、まだ、かろうじてカサカサしているアントにサーシャがナイフを突き立てていく。
「ねえ、アルフお兄ちゃん、私もしちゃダメ? 私もレベル上げて役に立ちたい」
後方でおとなしく控えていたミーシャが必死に訴える。
アルフさんは盾を持ち直し、仕方ないとミーシャを連れて回る。槍の柄でアントを押さえて、ミーシャがナイフで切る。と、言ってもあんまりキズつかない。かつんかつん言ってる。本人は至って本気なのが、かわいい。
「いいか、ミーシャ、これはなあんまり誉められた事じゃないから誰にも話してはならんぞ」
「うん、分かった。えいっ」
かなりの数のアントが転がり、リツさんがアイテムボックスに入れている。アントの肉はいい堆肥になるらしい。甲羅も硬いが砕いて堆肥らしい。鎧とかにならないのかな? アルフさんに聞くと加工に手間はかかるし、熱に弱いため向かないと。小さいが魔石あるため、全部回収だ。
アーシャもパワーレベリング対象なので、こちらはショウがついて回っている。鉤づめで押さえ込み、アーシャがナイフを刺す。アーシャもサーシャ程ではないが、獣人特有で身体能力は高い。出来れば後衛でローズさんとならんで、魔法職のリツさんとマリ先輩を守って貰えるとありがたい。
すべてのアントを回収し、トウラに戻る。冒険者ギルドにアントを提出し、魔石は回収の件を伝える。そしてサーシャのランクが無事にFとなる。もともと薬草採取をしていたので、G直前だったらしい。アーシャはもう少しでランクアップと。
「アーサー、堆肥はいいの?」
私が聞くと、アーサーは首を横に振る。
「トレントの堆肥がかなりあるので、大丈夫です」
アーサーはよく庭で作業している。何を作っているか、わからないけど。リツさんが喜ぶものだろうな。
屋敷に戻りそれぞれお風呂に入って汚れを落として夕食となる。
本日はブラッディグリズリーのワイン煮込みと蒸し野菜でした。
はい、残さずいただきます。きりっ
寒い日が続く。
雪かきした後に、私はアルフさんと槍の模擬戦をしていた。
「どうしたルナ? 焦っとるぞ」
私は必死に槍を振るう。最近、アーサーとサーシャが仲良く?模擬戦しているのを見て、私は焦っていた。お互いいい刺激になっているのか、メキメキ伸びてる。そう、メキメキ。
いかん、私のアタッカーとしての存在意義が。
槍を弾かれ、こつん、とアルフさんの槍が頭を軽く叩く。
「どうした?」
「………だって、このままだと私の存在意義が………」
「はあ?」
思わず呟くと、アルフさんは肩を落とす。
「なんだ、そんなことか。いっそ後衛になるか?」
「やです」
即答すると、アルフさんは苦笑い。
「ルナ、アーサーはアーサー、サーシャはサーシャだ。分かっとるだろう?」
「そりゃ分かってますけど」
前世では基本的に常に前衛だったし、今でもその感覚だし、今さら後衛はちょっと無理かな。まあ、後衛がしっかり守ってくれるからの前衛なんだけどね。頭、使うからなあ後衛は。私は脳筋だから無理だ。
「焦るなルナ、いいな?」
「はい」
アルフさんの言うことわかるけど。どうしよう、要らないって言われたら。不安だ。ポツリ。
「リツやマリがそんな事言わんだろう?」
「そうかも、しれないけど」
ああ、嫌だ。思い出す。
代わりはいくらでもいる。
ずきり
私は頭を振る。
「どうした?」
アルフさんが心配そうに聞いてくるから、私は笑顔を浮かべる。
「何でもないです」
「そうか? ルナ、いいか、儂を頼れ、いいな?」
「はい」
アルフさんは変わらず優しい。確かにあの二人はそんな事言わないよね。いかん、記憶が一瞬ごちゃごちゃになってしまった。
あの赤髪エルフ問題が片付くまでは、私はここにいて見届けないと。それまで、どれくらいレベルが上がるだろうか? 後、二年ちょっとだ。
「アルフさん、もう一戦お願いします」
「構わんが、これで最後だぞ」
私は模擬の槍を構えた。
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