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女神?の①

 金髪の青年は部屋に入るなり、高級そうな絨毯に膝をつき両手と額をこすりつける。

「家のものが、大変なことをしました、申し訳ありません」

 申し訳ありません。

 そう繰り返す金髪の青年、ナリミヤ氏は繰り返す。何度も繰り返す。必死に繰り返す。

「ナリミヤ先輩、私はあなたにどうこう言うつもりはありません。ただあの人たちだけは許せないだけです」

 リツさんの言葉に、ナリミヤ氏は、言葉に詰まるように黙りこむ。

「なんで、私はこんな目に合わなくてはいけないんですか? 私はどうしてこんな姿になってしまったんですか? どうして私は人に嫌われるんですか?」

 最後の方は涙声だ。

 ん? リツさんの言い方だと。

「リツさん、もしかして、何かの理由で今の姿になったってことですか?」

 私の言葉にリツさんは頷く。

「どういう事?」

 マリ先輩が聞く。

「私はもともとこの世界の住人ではないんです」

 は?

「高校時代の友達の結婚式の帰りに、ナリミヤ先輩に地下鉄で挨拶しようとしてたら、急に光って」

 はぁ? 何、コウコウ? チカテツ? 何それ?

「ちょっと待って、もしかしてリツちゃんも日本人なの?」

 マリ先輩が驚いたように声をあげる。ニホンジン? 聞いたことない人種だぞ。いや待て、『リツちゃんも』って。

「いやいやいや、ちょっと待って下さい、何を言っているのか説明してください」

 私がたまらず声をあげる。ローズさんも混乱したような表情だ。

「あ、えっと、なんて説明したらいいのかな? いえ、それより今はリツちゃんの事だよね」

 まあ、そうだけど。

 マリ先輩がリツさんに、どうしたいか聞く。

「直ぐにどうしたいか分からないです」

「リツ様、参考になるか分かりませんが、あの人たちは犯罪奴隷になる十分な理由がありますよ」

 ローズさんの言葉に、リツさんは冴えない表情で「奴隷」と呟く。そうだろうね、抵抗できないリツさんをなぶり殺そうとしていたし、私達も大怪我したし。

「確かに犯罪奴隷になる理由はありますが、私達の怪我は綺麗に治りましたから、どこまで信用されるかですね。訴えるにも怪我がない」

 私が冷静に返す。

「それにかなり財力が有るようですし、奴隷になっても買い戻すことはできる。恐らくそれくらいの手を回す事も可能なのでしょう。エクストラヒールなんて使えるなら『解除』の術だって使えるはず。そうなればすぐに奴隷から解放されますよ」

 いまだに絨毯に額をつけているナリミヤ氏がピクリと震える。かまをかけただけだが、出来るんだな。

 リツさんは少し考えこむ。

「とにかく、ここにいたくありません」

 とりあえず出た答えだ。

「じゃあ、今私達が泊まっている宿にくる? 4人部屋を3人で使っているから、ベッド空いてるし。ルナちゃん、ローズ、いいかな?」

「大丈夫ですよ」

 マリ先輩の提案を私は受け入れる、ローズさんも賛同している。

「いいんですか?」

「大丈夫だよ。これからの事考えましょう。そうだ。慰謝料。いっぱい考えましょうね」

「マリさん…」

 額をつけていたナリミヤ氏が顔をあげる。紫の目を持つ、かなりの美形だよ。

「サイトウ君、本当に申し訳ありません。僕の出来ることは何でもしますから」

 サイトウ? ああリツさん名字あるのか。ならそのニホンとやらで、貴族だったのか。名字は貴族しか持てないからね。

「ナリミヤ先輩…」

「宿の滞在費や生活費は全て出させてくれ。後、一つ確認したいから、君に『解除』をかけてもいいかい? もしかしたら呪いの類いがかかっているかも知れないから」

 呪いか、昨日ローズさんと話した事を思い出す。何故リツさんは人に嫌われるのか、もしかしたら呪いかもと。

 ナリミヤ氏はリツさんに『解除』の魔法をかける。これは呪いや、魔法の罠・扉・補助支援等をかき消し元の状態、魔法がかかる前に戻す。奴隷にかけられいる隷属魔法を解くにも使用される。

 光がリツさんを包むが変化なし。呪いじゃないのか?

「違うみたいだね。うーん、サイトウ君。『鑑定』してもいいかな? ちょっと詳しく見てもいいかな? 何か分かるかもしれない」

 リツさんはちょっと戸惑っている。人に鑑定できるとは、このナリミヤ氏もレアスキル持ちだな。しかも無機物ではなく、人を鑑定出来るのならかなりスキルが高い。鑑定スキルはアイテムボックスと同じように先天性スキルだが、基本的には無機物に対して、経験を重ねれば詳しく分かるが、人には使える程までレベルは上がらない。人に対しての鑑定はレアスキル中のレアスキルだが、成長させないと名前位しか分からない。対象のスキルレベルや状態が分かるようになるには、かなりレベルを上げなくてはいけない。つまりナリミヤ氏自身レベルが高いのだろう。あのエルフが旦那様と呼ぶ位だし、高位鑑定スキルを持っているから。

「その人の状態を見るだけだから、過去とか心とか分からないから」

「なら、お願いします」

 リツさんの了承は得てナリミヤ氏は紫の目を向ける。

 へぇ、鑑定ってあんな風に目が縮瞳したり拡大したりするんだな。

 ナリミヤ氏は絨毯に足に折り畳むように座り、リツさんを見上げるように『鑑定』を続ける。

 暫く鑑定を続け、ナリミヤ氏が唸り声をあげ、眉間を押さえる。

「あの、ナリミヤ先輩? 大丈夫ですか?」

「大丈夫だよ。サイトウ君。今鑑定して分かったことはある。でも、僕じゃあどうしようもない。だけど、手が無いわけじゃない。サイトウ君、宿に行く前に教会に一緒に行ってくれないか?」

「教会?」

 訝しげにリツさんは首を傾げる。

「そう。何とかなるかもしれない。これしか今は思い付かないんだ」

 教会でどうにかなるのか?

「何が分かったんですか?」

「称号というか、加護が、おかしいんだ。ぼやけてて『女神?の』ってあるから、多分それだと思うんだけど、教会でちょっと伝があってね。詳しく分かれば対応方法を考えられると思って」

 ナリミヤ氏の話で、リツさんは少し考え込む。

「私達もついて行きましょうか?」

 リツさんの不安を汲んでマリ先輩が声をかける。

「二人ともいいかな?」

「もちろんです」

 ローズさんは当然の様に頷く。私も異論はない。

 その言葉にリツさんは安心したのか、教会行きを了承した。

 それからリツさんは荷物をまとめた。と言っても僅かな着替えとポーション作りのための鍋、そのポーションの空き瓶、ポーションで得たお金。それだけだ。

 私はナリミヤ氏から服を借りた。血はナリミヤ氏の浄化魔法で消えたが、エルフの風魔法でぼろぼろだった。

「僕の昔の服で申し訳ないけど」

 シルクの服でしたよ。どうやって洗えばいいんだ?

 ちなみに真っ二つに切られた剣は、後日ナリミヤ氏が修復して返してくれると。腕のいい鍛治師のようだ。

「貴方にも家のものが申し訳ありません。僕の出来ることは何でもします」

 リツさんが準備している間に、ナリミヤ氏は私にもそう言って来た。

 一瞬考えた。現金もらってライドエルの家に送るかとも思ったが、あの両親は受け取らない気がした。少し考えると、ピランと閃いた。

「あのエルフの持っていた剣は?」

「ああ、あれは僕が作ったんだ」

 なるほど。魔鉄の混じった剣を紙の様に切り裂いたエルフの剣。同じのは嫌だが、是非欲しい。

「なら、あの剣にひけをとらない一振りを。それと今の私に釣り合ったものを」

 我ながら無茶ぶりかなとも思ったが、ナリミヤ氏はそれだけ?見たいな顔をするので、ナイフと槍、ラウンドシールドまで追加してみた。ナリミヤ氏は私の手のサイズや腕の長さを測定。付与魔法までつけてくれるとな。…いいのかな? 私、一応この家の住人である赤髪エルフの耳を切り飛ばしたのだけど。ナリミヤ氏にそれを言うと、エクストラヒールで治しているから、気にしないでほしいと返事が来た。しかし、付与魔法の付いた武器に防具はめっちゃ高価なんだけど。私の思いをよそに、せっせとサイズをメモしていくナリミヤ氏。槍の長さや盾の大きさも希望に添ってくれるようです。材質まで聞いてきたので、そこはおまかせしました。

 リツさんの荷物をまとめると、ローズさんのマジックバックに入れた。ナリミヤ氏がリツさんを背負って、私達は近くの教会に向かった。

なるべく毎日更新目指します

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