成人③
私は成人の日を迎えた。
「はい、ルナちゃん」
リツさん達から頂いたのは、ベルトだった。うわあ、綺麗だけど、派手じゃない。小さなユリがついてる。良かった、ものすごくかわいい服が来たらどうしようかって思ってた。
「さ、新しいワンピースです」
キター。
ローズさんデザインらしい青いワンピースだよ。
着ましたよ、着られましたよ。
「似合うよルナお姉ちゃん」
ミーシャが誉めてくれたよ。うん、ありがとう。
アーサーからは前から準備していたんだろうな、ポプリだ。ありがとう部屋に飾るよ。
ホリィさんから手袋、アンナ達から似顔絵。
サーシャ達からはポーション、何故? なんか怪我しそうな気がすると。返す言葉ありません。
テーブルに並ぶのは私の好物。
「アルフさん、今日は遅いのかしら」
リツさんが顎に手を当てる。
忙しいみたいだからね、鍛治師ギルド。仕方ないよね。風邪で半数になった鍛治師ギルドもずいぶん復帰したみたい。ダビデさんも無事復帰したと。良かった。うん、あの、ほっほっほっと笑う顔、好きだもんな。
アルフさんは待ったけど帰って来なかった。うん、仕方ないよね。お仕事だもん。私はプレゼントを一旦部屋に。
「さ、今日はルナちゃんのお誕生日よ、そして成人ね、おめでとうルナちゃん」
「ありがとうございます」
皆、お祝いの言葉をくれる。嬉しい。
成人になって何が変わるか分からない。
あ、スキル、未成年が使えない。あと、しばらくしたらグラウスバッシュが使えなくなる。
「ルナちゃん、なんのスキルよ」
マリ先輩が呟く私の言葉を広い上げる。
アルフさんは帰って来なかったけど、ご馳走美味しかった。
リクエストしたマッシュポテトのグラタンに、コロッケに、西京焼き、エビフライ。はい、いただきます。きりっ
満腹満腹。
デザートはマリ先輩特製ケーキでした。たっぷりのクリームと果物が乗ってる。
フォークを入れる。ふわふわだあ。
ローズさんのお茶は定番に美味しい。
綺麗に平らげます。
「なんか、胸焼けしそう」
サーシャは呟く。聞こえません。パクパク。
「お兄ちゃん、美味しいよ」
「やるよ」
ミーシャの口元にクリームの付いたをアーシャが拭いて、サーシャは自分の皿をミーシャに押し出す。
うん、いい兄妹だ。
ショウがすり寄ってくる。はいはい、お裾分け。ノゾミも食べてる。
リツさんとマリ先輩が笑い、ローズさんも微笑む。
途中からアーサーも参加。皆でこれからの話をして、盛り上がる。
「いつ、マリベールに行くの?」
ケーキを平らげたミーシャが聞く。
「ハーベの月よ。今は雪が降っているからね」
リツさんが答えている。
冬場の移動は危険だし、寒いしね。
少し話し込んだけどお開きになった。
結局、アルフさんは帰って来なかった。
アルフさん、本当に忙しいだね。
大丈夫かな? また、魔力枯渇してないよね。
ベッドで寝返りを打つ。何度も打つ。
寝つきいいのに、何故か寝れない。
「喉、乾いた」
私は起き上がり、ガーディアンを着る。
音をたてずに一階に。
階段を降りる途中で、玄関のドアが開く。
「あ、お帰りなさい」
アルフさんが、そっと入って来る。
私の声に、アルフさんが驚いた顔をする。
「ルナ、起きとったか」
「お疲れ様です。お仕事大丈夫なんですか?」
「まあな。ルナ、ちょっといいか?」
「あ、はい」
手招きされて、私は階段を降りて、アルフさんの元に。
「間に合って良かった」
「はい?」
安心したような顔をしている。
アルフさんは私の前に屈む。
何?
右手を取られる。
「剥き出しで悪いな」
チャリ
掌に乗せられるたのは、銀色のチェーンだ。
ペンダントだ。赤い石のついたペンダントトップは、小さな銀色の羽根いや、翼。色的にミスリルかな。
「あの、これ」
「儂からの祝いだ。成人おめでとう」
「そんな、こんな高価なもの…」
「儂が作ったから、元手タダだ、心配するな」
指名料が必要な鍛治師が作ったペンダントって。いくらよ。
「いや、だって、私、確か。その、確か、隣にいてって、それだけしか言ってない」
それしか、欲しくないというか、なんと言うか。
「ルナ」
私が掌に乗ったペンダントをどうしていいか分からず、口ごもっているとアルフさんは優しく私の手を包む。
「それじゃ儂の気がすまん。だから、ルナ、成人おめでとう」
今まで見たこと無いくらいの優しい顔のアルフさん。
う、直視出来ない。
「あ、ありがとうございます。アルフさん」
受け取ろう。
アルフさん製のペンダント、うん、嬉しい。
あ、嬉しい。ものすごく嬉しい。
顔が歪む。嬉しくて、顔が歪む。
「あの、着けていいですか?」
いかん、誤魔化そう。
「もちろん」
いそいそと着けようてしたが、上手くいかない。不器用だからだ。
「貸してみろ」
「あ、すみません」
もたもたしていたら、アルフさんが着けてくれる。
何故前から?
近いって。だから。恥ずかしい。
チャリ
あ、綺麗だ。
赤い石、銀色の翼。
「あ、ありがとうございます。凄く綺麗」
「気に入ってくれたか」
「はい、ありがとうございます」
私は嬉しくて、嬉しくて、笑顔が隠せなくなる。
「良かった」
アルフさんが、笑う。
あ、赤い石、アルフさんの目の色と同じだ。
そっと、銀色の翼を、ゴツゴツした手が掬い上げる。
「風属性が良かったが、儂には無いからな」
「この赤い石、火の付与付きですか」
わお、高価だ。アルフさんが付けたのか。
私を見上げるようにアルフさんが言う。
「お前を守ってもらうように、ハバリー様に祈りを捧げよう」
あら、なんだか、めちゃくちゃ恥ずかしくなって来た。
「ルナ」
「はい」
「成人、おめでとう」
アルフさん、いっぱい言ってくれる。
頷く私の頬に、ゴツゴツした手が触れる。
息が、触れるくらいに、近くなる。いつも、触れるくらいで離れていく。
「ルナ」
「はい」
アルフさんのちょっとかさついた唇が、そっと、私の頬に触れる。
あ、記憶が甦る。
お前が成人を迎える時、儂もお前にキスを贈ろう。
うわあ、いらんこと思い出した。
アルフさんの手が頬から、背中に回る。
い、いかん、顔に血がのぼる。
私はアルフさんの分厚い肩を押す。
恥ずかしい。嬉しい、違う、恥ずかしい。恥ずかしい。
「どうしたルナ?」
どうしたって。顔が近いって。
私はパニックを起こしかける。
いくら、身内に入れたからって、これはアウトだよ。うん、アウトだよ。
嬉しい、いや、違う。嬉しい。違うって。
ダメだ、ダメだ。誤魔化そう。
「あ、ありがとうございます。私、もう、寝ます。おや、おやすみなさい」
アルフさんの顔が直視出来ず、必死に肩を押す。びくともしない。
多分、顔色がおかしなくらい真っ赤だ。
「ルナ」
優しく言うアルフさん。
「おやすみなさい、おやすみなさいアルフさん」
私は逃げるようにアルフさんの腕から逃れて、部屋に戻った。
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