サーシャ⑦
おじちゃん
「少し、席を外しましょうか」
リツさんが言い、マリ先輩も立ち上がる。ローズさんがサーシャのお茶をさっと準備して立ち上がる。
「私たち、ちょっと作業するから、ゆっくり兄妹で今後の事とか話すといいわ。後で声かけるからね」
呆然と立ち尽くすサーシャに声をかけ、私たちは居間を後にする。
台所に移動し、リツさんのアイテムボックス、ローズさんのマジックバックから魚介が出てくる出てくる。
「さ、処理しましょう」
はい、なんでもお手伝いします。きりっ
ふりふりエプロン装備し、私は恒例のエビの殻むき。
アルフさんは鱗をひたすら取り、リツさんはどうするかマリ先輩と相談。ローズさんとアーサーはイカの処理をしている。
「今日は、そうね、白身魚でポアレにしましょうか? 寒いからグラタンもいいし」
どちらでもいいですよ。むきむき。
結局グラタンに。
リツさんは鱗が取れた魚を捌き、マリ先輩が切り分ける。
アルフさんは鱗取り後に、工房へ籠る。サブウェポンの作製に入らしい。今日はアーサーのナイフと、自身のナイフとを作り直すらしい。どんなナイフになるんだろう。
しばらく作業し、魚介の処理終了。リツさんはグラタンの作製に入り、マリ先輩、ローズさんは燻製器の設計に入る。アーサーはリツさんのお手伝い、私はアルフさんに温かいお茶を持っていく。
ノックしてドアを開けてもらう。
「アルフさん、お茶です」
「ああ、ありがとうルナ」
私はお茶をテーブルに乗せる。
すでにナイフが一本出来上がっている。
少し黒みがかった刀身。
「アーサーのですか? アダマンタイト含んでます?」
「ああそうだ。アーサーの魔法スキルなら問題ないしな」
高価なナイフが出来上がったね。
「柄にマナ・グラントレント使えば魔力の乗りもいいだろうしな。問題は鞘だな、革がいいのがない。できればこだわりたいんだがな」
「コブラの革って、残ってないんですか?」
アーサーの鎧に薙刀に使用したダークフォレストコブラの革。
「もうないんだ。そうそういる魔物でもないしな。ボア系の革にするにしても、ナイフが突き破りそうだしなあ。いっそ内側に薄い鉄板に仕込むか」
どんどん、高価になっていくアーサーのナイフ。本人には黙っておこう。
「そういえば、あの三兄妹はどうした?」
「まだ、話しているみたいですよ」
「そうか」
アルフさんはお茶を一口。
「どうかされました?」
「実はな、風呂でいろいろ話を聞いたんだが、あのサーシャってのは斥候として能力がほぼあるから、どうなかと思ったんだが。痩せてはいたが体つきも悪くないしな。本人は妹達のそばから離れたくないようでな。実の子でもないのに、育ててもらった恩があるから、せめて下の妹が成人するまでは見守りたいと」
「そうですか。妹思いですね、アーシャもミーシャもサーシャを大事に思っているようです」
いい兄妹だと思うよ。サーシャはきっとぎくしゃくしてても、両親に大事に育ててもらったって思っているんだね。
「斥候の能力って何があるんです。暗視はあるとは思いますが」
ミーシャの話で検討はついているが。
「罠感知、瞬力、暗視もある。あとは種族特有の聴覚・嗅覚の感覚特化」
「純粋に斥候ですね」
うわあ、マリ先輩がダンジョンいいそう。いや、そのうち潜るけどさ。
瞬力っていうのは、瞬発的に身体能力を高めるスキルだが、これも種族特有で獣人や、パワー職の魔族が持つ。もちろん肉体に負荷はかかるけど。たしか、サーシャは水と光魔法使えるって言ってたよね。この二つの身体強化の特徴って回復力促進とか毒などの異常状態の回復じゃなかったっけ? あれ、瞬力で負荷をおった体を常時回復できるって、すごくない? あれ、すごい逸材じゃない?
「罠感知ばかりは、儂らは誰も持っとらんしな。今はうちの斥候はショウがやっているようなもんだが、さすが罠ばかりはどうにもならんし」
うーん、マリ先輩が迫ってないよね、大丈夫よね、ミーシャまだ12だしね。アーシャだっているし、この2人を残して私たちに着いてくることないよね。うん、きっと。
「アルフさん」
「なんだルナ?」
「なんでしょう、何か起きる気がします」
「偶然だな、儂もだ」
なんて話していると、工房のドアが叩かれる。
『ミーシャです。お願いがあります』
一番下の子のミーシャだ。なんだろう?
アルフさんと顔を見合わせる。
「どうした?」
アルフさんがドアを開けると、きらっきらっとした表情のミーシャ。眩しい。
「あのね、ミーシャ、冒険者になりたいから、アルフおじちゃん保証人になって下さい」
「お、おじちゃん・・・」
ぐさり、みたいなアルフさん。
確かに未成年の冒険者はCランクの冒険者の保証人が必要。現在Cランクはアルフさんだけだ。
「ええっとな、理由を教えてもらえるかの?」
ミーシャのきらっきらっビームに目を細めるアルフさん。
「あのね、リツさんとマリお姉ちゃんと話をしたらね、お兄ちゃん、斥候にならないかって言われてね。でも、私ね、お兄ちゃんとお姉ちゃんに置いて行かれたくないから、一緒についていきたいの。私、水の魔法使えるよ、だからお願い連れてって。お願いおじちゃん」
そのおじちゃんあたりで、アルフさんがぴくぴく。年齢的にそうかもしないけどね、見た目二十歳前後だけどね、ミーシャの3倍生きてるけどね、受け入れがたい言葉なのかな? 純粋にお願いしているミーシャの後ろに、申し訳なさそうなサーシャとアーシャ。そして、きらっきらっとしたマリ先輩。
まあ、奴隷狩りの被害にあって、両親は殺され、村は焼かれ、残された兄姉と離れたくないんだろうね。
「ミーシャちゃん、アルフさんはお兄さんで」
マリ先輩、いらんアドバイスをする。
「あ、ごめんなさい。お願いアルフお兄ちゃん」
う、かわいい。首を傾げて言ってくる。
アルフさんがため息。
「危ないと思うがな・・・」
「大丈夫だよ。私、瞬力あるから逃げれらるもん。弓も短剣も使えるよ」
必死にアピールするミーシャ。
「お願いアルフお兄ちゃん」
ミーシャが悩むアルフさんの手を引く。
ちらっと私を見るが、私は肩をすくめる。私自身は未成年だしね。後方できらっきらっしたマリ先輩みるとなんだかもう、って感じになってきた。
「はあ、条件があるぞ」
ため息をつくアルフさん。
「なあに?」
「まず、絶対に単独行動はしないこと」
「うん」
「後方で指示以外は動かないこと」
「うん」
「戦闘には儂とルナの許可がなければ、参加は許さん」
「うん」
なぜ私?
「それからマリ」
「あ、はいはい」
「常にショウを警戒に当たらせろ」
「了解です」
びしっと敬礼するマリ先輩。見えないけど「ピィ」って聞こえたから、近くにいるね。
「なら、約束できるか?」
「うんっ」
いい返事のミーシャ。
結局、その日のうちにアーシャとミーシャは冒険者登録を済ませた。アーシャは成人しているから保証人はいらない。ただ、冒険者カードを手に入れたミーシャの喜びはひとしおで、アルフさんに抱きついて喜んでいた。それから、サーシャとアーシャに見せている。もちろん、我がリツさん率いる瑠璃色のリリィのメンバーです。ちょっと、メンバー多い気がするが、まあ、いっか。無事に斥候が入ったし、ダンジョンについても当初の予定と変わりなし。私の成人の報告後だ。アルフさんがダンジョンと興奮するマリ先輩に、これだけは譲れないと交渉した結果だった。三兄妹の装備、ないしね。製作陣は忙しくなりそう。私ができるのは魔石確保かな? 今度、魔の森で狩りだね。
読んでいただきありがとうございます。
明日の更新お休みします。すみません。