表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
162/386

サーシャ③

仲間?

「エビッ、エビくださいッ」

「ひーっ」

 リツが人で溢れるマルシェの中を突き進む。アーサーは人波に揉まれて、もみくちゃになる。毎回毎回、凄い人波。

「アーサー君、次行くわよッ」

「は、はい……」

 何故かフルスロットルのリツに、必死についていくアーサー。マリにはローズとショウが着いているが、グリフォンのショウですら臆さない主婦に、ピィピィ鳴いている。多分、たすけてーって言っているとアーサーは思う。

 前回は吹雪いて中止になったため、リツはこれでもかと買い物をしている。

 他の買い物客も同じだ。

「イカがあったわ、行くわよッ、イカリングッ」

 なにかの魔法の呪文を唱えるリツ。

「お供しま、わーっ」

 人波に飲まれるアーサー。

「リ、リツ様ーっ」

 わちゃわちゃ。わちゃわちゃ。

 結局、ついて回るだけで、精一杯。

 いつも、しっかりねと、ルナとアルフが見送ってくれる。

(こうなるって分かっているんだ、あの二人)

 温かい眼差しの二人を恨みがましく思う。

「アーサー君、大丈夫?」

 イカを購入したリツが、心配そうに聞いてくる。

「は、はい、大丈夫です………」

 優しいリツに、アーサーは嬉しいが、次の瞬間、リツの目が獲物を狙うような目になる。

「青魚よッ、アンナちゃん達の栄養の為にッ」

「リ、リツ様、待って、わーっ」

 もみくちゃわちゃわちゃ。

 見失った。

(しまった、リツ様)

 頭から血の気が引く。

 必死に人混みを探すが、いない、わからない、どうしよう。

 アーサーはオロオロするしかない。

(どうしよう……)

 リツの銀髪を探すがわからない。

(あ、あれだ)

 視界の端に銀髪の髪。慌てて駆け寄ると、違う。

「サ、サーシャさん?」

 そこにいたのは、ミュートで奴隷狩りの被害に合った獣人少年だ。誰かと言い争っている。相手は二人、獣人のようだが。

「ふざけるなっ、金を返せ、俺達の大事な金なんだぞッ」

「そんな証拠がどこにある」

 二人の獣人がバカにしたように言う。

「ミーシャがお前達を家に入れたら、押し入れに押し込められた。その間に盗ったんだッ」

 サーシャは叫ぶ。

「俺達に挨拶来たなんて嘘だ、ミーシャが一人の時を狙いやがってッ」

 掴みかかるサーシャを、獣人は二人がかりで蹴り倒す。

「サーシャさんッ」

 アーサーが倒れたサーシャに駆け寄る。土で汚れたサーシャの肩に手をかける。

「アーサー?」

「大丈夫ですか?」

 少しやつれたサーシャの顔に驚きの表情を浮かべている。

 騒ぎに聞き付けた警備兵がやって来た。

「なんの騒ぎだ」

「こいつが、俺達が金盗ったんだと言いがかりをつけてきて」

「言いがかりじゃないッ」

 叫ぶサーシャ。

「ふん、子供の言うことなんて信じられるか。それとも、俺達が盗った所を実際見たのか?」

 ぐっ、と詰まるサーシャ。

「お前達が帰った後に金が根こそぎなくなったんだぞ、ミーシャを押し入れに閉じ込めておいてッ、お前達じゃなければ誰なんだよッ、仲間だと思っていたのに、同じ村の仲間だと思っていたのにッ」

 サーシャは叫ぶが、獣人二人は鼻で笑う。

「お前は親が誰だか分からないじゃないか。リイシャさんが、連れてきたどこの誰が生んだか分からない、赤の他人でよそ者だ」

 アーサーの手に伝わるほど、サーシャの体が震える。

「お前は、父親がわりのナットさんにも見限られて、狩りを教えてもらってなかった。ナットさんだって、内心お前の存在がうざかったんだよ、目障りだったんだよ」

「黙れえぇぇぇぇッ」

 サーシャが咆哮のような叫びを上げる。

「だ、ダメですサーシャさんッ」

 咄嗟にアーサーがサーシャの体に腕を巻き付ける。サーシャの手がベルトに差したナイフにかかる寸前で、アーサーが押さえつける。もし、ナイフなんて抜いたら罪に問われるのはサーシャだ。

「離せッ、アーサーッ」

「ダメですサーシャさんッ」

 激しく抵抗するサーシャは、アーサーを巻き込み倒れる。必死にもがき、起き上がろうとするサーシャ。

 警備兵が、念のために獣人をチェックするが、持っていたのは大した額でなかった。

「ふん、お前はよそ者なんだよ。言い様だ。あ、アーシャなら俺達が引き取ってやってもいいんだぞ」

「誰がお前らなんかに妹を渡せるかッ」

「ふん」

「おい、行こうぜ。馬車が出る」

 二人の獣人が地面に転がるサーシャをバカにしたように笑う。

 ギラギラと睨み付けるサーシャを、必死にアーサーはしがみつき押さえ込む。

「なんだお前?」

 獣人の声に、アーサーは視線を上げる。

「リ、リツ様」

 獣人の前に立ち塞がるのは、厳しい顔のリツだ。初めて見た。気が付いたアーサーに視線で、そのままと言っている。

「因果応報」

「は?」

「私の国に伝わる言葉よ。自分の犯した業は、いずれ己の身に降りかかる。覚えておきなさい」

「なんだと?」

 獣人は立ち塞がるリツに手を出そうとしたが、地響きを立て、空から急降下した白い塊に引く。ショウだ。回りから悲鳴が上がり、野次馬の人混みが割れる。

 リツの後ろに空から着地し、ゆっくり翼を広げる。威嚇だ。

 獣人二人は狼狽え、逃げるように去っていく。

「ショウ、守ってくれたのね、ありがとう」

「ピィ」

 優しくリツがショウを撫でると、獅子の尻尾が左右に揺れる。

「ここで、待っててね」

「ピィ」

 リツの言う通りに臥せるショウ。

(賢いな)

(やだ、かわいい)

 囁く声が聞こえる。

 リツは地面に転がるアーサーとサーシャの元に膝をつく。

 ショウの登場に呆然としているサーシャに、リツは優しく笑いかける。

「アーサー君、起こして上げて」

「あ、はい。すみませんサーシャさん、痛かったですよね」

 土まみれのアーサーが、サーシャを座らせる。

 サーシャが頭を抱える。

「サーシャさん?」

 顔色が悪く、痩せ、沈黙するサーシャの肩をアーサーがさする。

「明日、家賃払わないと追い出されるのに、アーシャとミーシャを守らないといけないのに……」

 呟くサーシャの声は震えいる。見守っている警備兵も気の毒そうに見ている。

 しばらくして、サーシャが顔を上げる。思い詰めた顔で。

「アーサーのご主人様ですか?」

「そうです」

「あの、俺を買って貰えないでしょうか?」

読んでいただきありがとうございます

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ