サーシャ①
計画
年末に向け、穏やかだが、慌ただしく過ぎていく。皆で大掃除した。私はエントランスをせっせと掃除した。うん、ピカピカ。磨いた後に、ノゾミがとっとこ歩いて足跡が着いた。
「メエメエ~」
私の足にすがり付く。
……………
怒れない。く、かわいい。また、拭き上げる。
数日間で掃除をあらかた終えて、もう一つの孤児院への炊き出しも終わり、今年最後の魚の日を無事迎えたのは昨日。
工房では、リツさん、マリ先輩、ローズさん、アーサーによるインゴット作製が進む。アルフさんは鍛治師ギルドだ。今日が今年最後らしい。
遅くなるが帰って来る言っていた。
私はお茶を淹れて工房に。
「お疲れ様です。お茶です」
「あ、ありがとうルナちゃん」
マリ先輩が汗を脱ぐって私のお茶を美味しそうに飲む。ローズさんより劣るのに、マリ先輩はいつも美味しそうに飲んでくれる。ローズさんがマドレーヌをさっとお茶請けに出している。
「どんな感じですか?」
マリ先輩にマドレーヌをあーんしてもらい、聞いてみる。リツさんが、リストをチェック。
「鉄、銅、銀、金、アルミニウムに錫、魔法金属以外はほぼ終わったわ。今、ミスリルに取りかかっているの」
あれだけの鉱石を大分処理したね。
「お疲れ様ですリツさん」
「なんとか今年中にミスリルだけでも終わらせたいからね。さ、もうちょっと頑張りましょう」
リツさんの号令で、作業再開。
私はどうしよう? あ、窓、拭こう。
今年最後の日。年越しそばと出されたのは、そば粉のパスタだった。リツさんとマリ先輩的には、こんぶという海藻を手に入れて出汁を取りたいらしいが、ない。これでも十分美味しいけどね。こんなに遅くに食べてもいいのかな? 美味しいから、いいか。暖かいローズさんのお茶もいただき、居間で穏やかに時間がすぎる。ホリィ一家はお休みしている。年越しの鐘の音がなり、うつらうつらしていたショウとノゾミがほわっと起き上がる。
今年が終わった。
「明けましておめでとうございます」
リツさんが挨拶。
「明けましておめでとうございます」
私も挨拶。皆も挨拶。
なんだか、いろいろあった一年が終わった。今年もなんだかいろいろありそう。そして私は成人かあ。なんだか、実感ないなあ。何か変わるのかな?
「どうしたルナ?」
ぼうっと考えていると、アルフさんが声をかけてきた。
「いえ、なんかいろいろあったから、今年もいろいろありそうだなって」
「そうだな。今年も忙しいだろうな」
マリ先輩がダンジョン言ってるけど、スルー。アルフさんはその様子を苦笑いで見ている。
「まあ、儂もレベル80越したからな、上がりにくくなるな」
「でしたね。でも、アルフさんが飛び抜けて高いから、出来ればあまりレベルの差があるのも良くないですよね」
リーダーのリツさんとアルフさんのレベルの差がありすぎる。60以上あるから、バランスが悪い。
「ダンジョンダンジョン」
「ダメですよ。まず、レベルを底上げしてください。後、気配感知を取得、アーサーの闇スキルレベルが30越えての進入の魔法を得てからです」
「ぶれないねッ」
当たり前でしょう。
「まず、装備を作らないと。それからマリベールに行ってルナちゃんの成人の報告したら、一度ミーナのダンジョンに潜ってみない?」
リツさんまで言い出す。
「いいんじゃないか? その頃なら、アーサーのレベルも上がっておるだろうし」
アルフさんまで、もう仕方ない。
「なら、そうしましょう」
「やったやった、ルナちゃん。ありがとう」
マリ先輩が飛び上がって喜んでいる。まあ、かわいいから、いっか。
年明け初日。
リツさんはちびっこ達に『お年玉』というお小遣いを渡している。ホリィさんが慌てて断っていたが、なんでもリツさんの故郷の風習らしい。ちびっこ達は嬉しそう。
お節料理も凄かった。四角の箱に様々な料理が美しく詰まっている。おお、凄い。リツさんの納得する内容ではないらしいが、凄いよ。
「お節料理っていうより。オードブルね」
シーフードマリネ、二種類のテリーヌ、白身魚のポワレ、ブロッコリーサラダ、ポテトサラダ、リツさん特製腸詰め、ベアー肉の野菜巻き、ベアー肉のソテーにロースト、卵焼き、ミニグラタン、チャーシュー、焼売、春巻き、ウサギ肉の唐揚げにエビフライがぎっしり詰まっている。うわーい。ご馳走だあ。ホリィ一家とアーサー用にも作っていた。はじめは一緒に食べようとリツが誘ったが、さすがにお断りしていた。
「今日はお休みにします。ゆっくりしてくださいね」
「はい、リツ様」
ホリィさんとアーサーがオードブルを持って下がる。
「さ、今年もよろしくお願いいたします」
「お願いいたします」
挨拶すみ。
「いただきましょう」
「はい」
きりっ
ふう、満腹、満腹。
片付けて、食後のお茶。
「ねえ、リツちゃん。今年の年間計画たてましょう」
「いいわね。そうしましょう。まず、アルフさんの盾と鎧ね」
「儂か?」
お茶を飲んでいたアルフさんが顔を上げる。
何を言っているんですか、みたいなリツさん。
「盾職がいつまでも無盾はダメでしょう? アルフさん、大丈夫だと思いますがあんまり太らないでくださいね」
「う」
アルフさんは手にしたホワイトメープルのパウンドケーキを、そっとショウに渡す。
「次はルナちゃんのね」
「え、私?」
いや、今のグレイキルスパイダーの装備品で十分なんですが。
「何を言ってるのアタッカーが」
「いや、軽いからこのままがいいんですが」
「大丈夫よ、重量はギリギリ少なくするから。もちろん動きやすさ重視よ」
「はあ」
なんだか、ルンルンだから、いいや。
「リツ、いいか」
「はい」
「儂とアーサーのサブウェポンも作らんといかん。特にアーサーには薙刀しかないしな」
「え。自分ですか?」
「いつまでも無盾ではいかんだろう? アーサーにいつまでも儂のナイフを貸し出すのはな。サイズだって合わんだろうし」
「じゃあローズのナイフも作らなきゃ」
マリ先輩が手をぽん、と叩く。
「そうですね、マリ様、いつも借りてばかりですから」
ローズさんのナイフ製作も決定。リツさんの剣も。
「一応の区切りは、ルナちゃんの成人報告ね。バートルの移動は厳しいから、ハーベになってからね」
とりあえずの行動計画がたった。
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