炊き出し①
炊き出し準備。
短いです。
次の日、気がついたら朝だった。
どうやって部屋に戻ったかわからない。でも、ちゃんとパジャマだ。
で、寝坊した。
「す、すみません……」
慌てて起きた。
リツさんもマリ先輩も怒らなかった。
本当にごめんなさい。
「で、ルナちゃん」
「はい」
リツさんが出してくれたトーストを齧っていると、マリ先輩が聞いてきた。
「なんですか?」
「昨日、アルフさんと二人をお話したの?」
トーストが詰まった。
何で知ってるの?
噎せる私、ローズさんが、背中をさすってくれた。
「何でって、昨日、アルフさんがルナちゃん抱えてローズの部屋を訪ねたのよ。ルナちゃん、話の途中で寝ちゃったから、着替えさせて寝かせてって」
「全く記憶がございません」
私は即答する。だって本当に記憶が、途中からない。しかし、どうやって戻ったか謎は解けた。私、なんで、寝たんだろう?
「本当に?」
リツさんが優しい眼差し。
昨日の件は話さないよ。絶対に。
私は生やさしい視線の三人から、知らぬ存ぜぬを決め込む。
「全く記憶がございません」
「ルナちゃん、ニンジンお願いね」
「はい」
朝ごはんの攻防を、なんとか終え、炊き出しの準備に入る。
マリ先輩とローズさんはパンの準備。私とリツさんはスープだ。
大量の野菜を同じ大きさに切るため、皮を剥く。リツさんと手分けして作業する。ある程度皮を剥き、リツさんはミキサーに野菜をかける。あっという間に野菜が小さくなる。ニンジン、玉ねぎ、かぶ、カボチャ、じゃがいも。それから豆、その豆の大きさにしたウサギ肉。フライパンで炒めて、鍋に入れる。リツさんがハーブと『ハーベの光』からもらった岩塩を入れて味の調整。具だくさんスープだ。
パンの方はアーサーが加わり、発酵を飛ばす。飛ばす。次々に焼き上がるパン達。
うん、いい匂い。
味見させてもらった。優しいスープだ、美味しい。
出来上がったスープとパンはリツさんのアイテムボックスに入れられる。
「これで、明日は大丈夫ね」
「リツ様、後は私が片付けます」
掃除を終えたホリィさんが、片付けをしてくれた。リツさん達は工房に籠り、鉱石の抽出作業だ。アーサーも参加する。
私はお弁当の配達だ。
………うわあ、顔を会わせずらい。
でも、仕方ない。昨日、アルフさんを煩わせたからね、謝らないと。
リツさんからお弁当も渡され、渋々鍛治師ギルドへ。
満面の笑顔のおじいちゃんドワーフダビデさんが登場。
「さ、おいでお嬢さん」
「はあ」
いつもの応接間。もう、お弁当おいて帰っていいかな?
「あの、ダビデさん」
「なんじゃお嬢さん?」
「いえ、なんでも」
ダビデさんから聞いたアドバイスだったけど、実行すると決めたのは私だ。ここで、ぐちぐち言ったらダメだよね。
「そうか? アルフはじき、来るからな」
もう帰りたい。
「お弁当、渡して頂いたら、いいんですが…」
「そんなわけいかんじゃろう。おお、来たかアルフ。爺は退散しようかの」
待ってダビデさん。
ほっほっほっじゃないから、おいていかないで。
「どうしたルナ?」
「お、お弁当です、どうぞ。昨日のご迷惑をかけました」
いかん、顔を直視出来ない。
「気にしておらん」
アルフさんは変わらない。あんまり、気にしてないか、そうだよねえ。身内の子供が、ちょっと、ちょっとしただけだし、私が変な意識をしているだけか。
さあ、渡した、さあ、帰ろう。
じゃあ、と、そそくさ帰ろうとすると、アルフさんがやんわり止めてきた。
「ルナ」
「は、はい」
「昨日、覚えておるか?」
「全く記憶がございません」
私は即答すると、アルフさんは苦笑い。
「そうか、まあ、いいか。ルナ、お前成人の祝いは何が欲しい? 儂も贈り物がしたいんだがな」
「そんな。気にしなくていいのに」
全くお金かけてないし。ものすごい経済的よ。
視線を外したまま、答える。アルフさんが私の前に屈みこむ。赤い目が、私の顔を捕らえる。う、やっぱり恥ずかしい。
「それでは、儂の気がすまん」
そんな事言われても、欲しい物。うーん、ナイフかなあ。ナリミヤ印のナイフはほぼローズさんに貸し出してるしね。いや、いかん、恐ろしく高価ナイフが来そうだ。アルフさんの納得するもの。うーん。うーん。あ、そうだ、ものじゃなくてもいいよね。
「隣に」
「ん?」
「私が成人した時、隣に、いて欲しいです」
マダルバカラにその時まで、帰らないで欲しい。
アルフさんは驚いたように、目を見開いている。経済的だから、驚いているんだろいな。
「わかった」
嬉しそうにアルフさんが笑う。
ゴツゴツした手が、腹の前で握っていた、私の手を取る。は、恥ずかしい。
「ルナの隣にいよう。ルナが望むままに」
私は声が出なくて、無言で頷いた。
後で、とんでもなくこっぱずかしい事を言ってしまったと、激しく後悔した。
その日のアルフレッドの機嫌は、周りの鍛治師達がドン引きするほど良かった。
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