プレゼント①
プレゼント?
「ルナちゃん、アルフさんのお弁当お願いね」
「はい」
リツさんがいつものお弁当を渡してくれる。ローズさんのお茶の準備オーケー。本日はお魚メインのメニューのようだ。
昨晩、アルフさんが、あっという間に鍋を作製。
喜んだのもつかの間に、リツさんが叫ぶ。
「いけない、お豆腐がないわッ」
「大丈夫よリツちゃんッ、錬金術があるわ。大豆もあるわッ」
マリ先輩も叫ぶ。
で、次の日に、リツさん、マリ先輩、ローズさんが大豆と格闘している。錬金術で。
トウフってなんだろう? 大豆をどうにかして作るんだろうけどね。
「行ってきます」
「はーい」
私は外套を着て、屋敷を出る。本日アンナとクララは無料教室だ。ノゾミとルドルフは、ホリィさんが見守る中、遊んでいる。
そうだ、アルフさんにお世話になっているから、何か贈った方がいいなあ? うーん、アルフさんが喜ぶ物ってなんだろう? ワイン煮込みくらいしか思い付かない。うーん、思い付かない。帰って、すき焼きの準備を手伝うかな? でも、それがプレゼントではないよなあ。
悩んでいると鍛治師ギルド到着。
「こんにちは」
「あら、いらっしゃい」
顔見知りの受付女性が笑顔で迎えてくれる。すぐにおじいちゃんドワーフダビデさんが、出てきて、応接間に案内される。
「アルフは、ちょっと立て込んでいるからな。さあ、豆だよ」
「あ、はい」
相変わらず豆だ、いただきます。
そうだ、聞いてみよう。ダビデさんなら、アルフさんと私より付き合い長いから、知っているかも。
「あのダビデさん」
「なんじゃお嬢さん?」
「あの、アルフさんって、何を上げたら喜びますかね? 今日、リツさん達がアルフさんのお誕生会するって言って。私も、アルフさんには迷惑かけているから、何か、その、プレゼントしたいなって」
「ほうほう、そうか、プレゼントか」
ダビデさんは豊かな白いひげを擦る。
「うーん、ドワーフの贈り物なら定番は酒だが、アルフは呑めんな。しかも物欲もあまりないしなあ。着た切り雀だったが、最近身綺麗だしのお」
あ、ローズさんがヘアカットしてるし、服やブーツも提供してくれているし。
「あいつはなあ、なんだかんだで、かなり持っておるしなあ」
お金ね。
「そうさなあ」
ひげを擦るダビデさん。
「やっぱり肩を揉んだほうがいいですかね?」
アルフさんの肩、固いもんなあ。
「身体強化すれば、かなり気持ちいいかも」
「待て待てお嬢さん、それはな、小さな娘が父親にするもんじゃろう? 肩揉みに身体強化はちょっと」
「ダメですかね?」
「別の機会にしてやっておくれ。そうだ、取って置きのプレゼントがあるぞ」
ダビデさんが思い付いてくれた。
「なんですか? 私に買えますかね?」
「買わんでもいい。お嬢さんが、アルフのここに」
ダビデさんが自分の頬をつつく。
「キスをすればいい」
ブハアッ
噴き出す私。
「キ、キスですか?」
「そう、ちょっとしてやれば、きっと喜ぶぞ」
「いやいやいやいやいや、ドワーフ的にあんまり接触はよろしくないのでは?」
エレがそんなこと言ってたはず。
「お嬢さんはまだ14だろう? 特権だよ」
あ。未成年特権。でも、ちょっと、恥ずかしいなあ。
「ちょっと恥ずかしいです。見られたら、気絶します」
「誰に?」
「リツさんやマリ先輩に、あの生暖かい目はちょっと来るものがあるから」
「なら、アルフを一人になったら、呼び出せばいい。ちょっとめかし込んで、な」
「めかし込んでって」
うーん、私の持ってる服って、基本的に冒険者スタイルなんだけどなあ。ワンピース関係はローズさんが管理してくれているから、一着も手元にないから、ローズさんにお願いして出してもらうしかない。
……………
絶対に勘ぐられる。
でも、そんな事して、大丈夫なんだろうか?
「本当に、喜んでくれますかね?」
「保証するぞお、ほっほっほっ」
あっけらかんに笑うダビデさん。ダビデさん、アルフさんの『惚れた女』さんがいるの、知らないのかな?
確かに未成年だし、特権なのかな?
「検討します」
やっと出した返事。
そこにアルフさんがやって来る。
「ルナ、待たせたな」
「い、いえ、はい、お弁当です」
私はお弁当と水筒をアルフさんに渡し、そそくさと鍛治師ギルドを出た。
どうしよう。うーん、あ、そう言えば、コードウェルでも誕生日でエリックとジェシカがキスしてくれたな。最後の誕生日は、照れてなかなかしてくれなかったけど。そうだよ、私はあの時のエリックとジェシカだ。よし、そうだ、そうだよ。いざ、未成年特権。ダビデさんはめかし込んでって言ってたから、詰襟ワンピースでいいよね。うん、そうしよう。
私は帰って、作業しているローズさんに申し訳ないが声をかける。
「あのローズさん、すみません、あの詰襟のワンピース、後でいいので出してもらえません?」
ピタリ、と止まる三人。
「どうしたのルナちゃん?」
優しいリツさんが、迫ってくる。
「ルナちゃん、おめかしするのね?」
マリ先輩は何か描いているような顔で聞いてくる。
「ルミナス様、新作でございます」
手をさっと洗って、真っ白なワンピースを着たトルソーを出す。
いつ作ったのよ。
「デザインは私が」
「でしょね」
なんか上品なお嬢様感溢れるワンピース。ローズさんはセンスがいいもんなあ。後は胸元がね。
「あの、白は汚れがですね」
「浄化君がございます」
さっと装備するローズさん。
「詰襟のやつが…………」
マリ先輩がよよよと泣く。
「ルナちゃんに似合うと思って作ったのに」
「えー……うっ」
ショウがマリ先輩の後ろで翼を広げている。
「着させていただきますッ」
やめて、付与が全くない装備品で、さすがに避ける自信ない。
結局、着ました。ローズさんによるヘアセット完了。
ホリィさんが真面目に、
「お見合いですか?」
聞いてきて、私は気が遠くなりそうだった。
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