パーティー?⑤
ブラッディグリズリーのワイン煮込みを、それぞれ好みをおかわり。満足していただいてくれたみたい。皿に残ったワイン煮込みを、バケットでなぞって残さず食べてる。気持ちいいくらいのたべっぷりだ。
ローズさんがお茶の準備に入る。バーンがそわそわしている。デザートだ。
マリ先輩がケーキの乗ったワゴンを押して入ってくる。
おお、すごい。
バーンとショウが同じ動作で首を伸ばす。
下処理に手間がかかっていた栗のケーキ。ちょっぴり栗のクリームをあーんしてもらった。栗の優しい甘さが広がって絶品。ちょっと小さな丸いケーキ。
「栗のケーキ、モンブランです」
わーい、楽しみにしてました。
「で、こちらはアップルパイです」
いつも四角のアップルパイが、ホールのアップルパイ。今回はたっぷりリンゴが入り、カスタードクリームも入っています。分厚いなあ、食べご耐えありそう。バーンとショウが同調したような動きで、挙動不審になる。
「こっちはカボチャのケーキです」
滑らかにしたカボチャに下のクッキー生地の間には、トレントの実が砕いて入っている。鮮やかな彩りのホールケーキだ。
ローズさんが淹れたお茶をアーサーが配る。
「どれも美味しそうだね」
バーンがワクワク。私もワクワク。ショウもワクワク。
「皆さん、全種類行きます?」
こくこく頷く『ハーベの光』と私とショウ。
私も配膳お手伝い。ショウがついて回る。
リツさんはカボチャのケーキ、マリ先輩はアップルパイ、ローズさんはモンブラン。アルフさんはアップルパイとモンブラン。
「どうぞ」
配膳終了。待ってました。
いただきます。
「美味しそうだね。どれから食べようかな」
ワクワクバーン。
「ぴぃぴぃぴぃぴぃ」
ショウはモンブランをつついて食べている。
「この栗のケーキ、深みがあって」
マルコフさんが栗のクリームに感動している。確かに深みがある。この栗の処理、大変そうだったし。
「リンゴが甘い。甘い、お茶に合う」
「ああ」
イレイサーとバラックがアップルパイをパクパク食べる。
「カボチャのケーキって、こんなに美味しいんだね」
バーンがしみじみ言ってる。
カボチャ甘い、美味しい、じゃがいも並みに万能だね。料理にデザートにもなるしね。
「あの、マルコフさん、ちょっとご相談したいことがありまして」
リツさんがアップルパイにフォークを入れているマルコフさんに切り出す。
「なんだい? リツ君」
「実は、私達パーティーを組もうと思っているんですが、リーダーを誰がするかで悩んでまして」
「ああ、ギルドマスターの話か。てっきりリツ君がするものだと思っていたが」
「え? 私ですか?」
マルコフさんの言葉にリツさんが首を傾げる。
「何となく、リツ君がまとめているじゃないか」
「そうですかね。リーダーって何をするとリーダーなんでしょうか?」
「そうだな。リーダーに大切なのは、管理力だな」
「管理力?」
マルコフさんが紅茶を一口。
「そう。管理力だ。チームメンバーの力量を把握し、調整が主だな。強い、レベルが高いだけでは務まらない。リーダーの裁量で、パーティーの生存率を変える」
なるほど。
「まあ、優秀なサブリーダーを置くのもある。うちはバーンがしている」
え、バーンが?
ケーキを平らげたショウから、モンブランを守っているバーンにみんな集中。
「任せているのは、食糧やポーションの管理だな」
「なるほど」
「後は交渉力だ」
あ、なら、リツさんだね。あの押しの強い笑顔、逆らえない時あるしね。
「もしリツ君がリーダーをするなら、サブリーダーはどうする?」
「えっと、それは…」
リツさんが悩む。
「儂がやろうか? 武器や防具類の管理はできるぞ」
「あ、はいはい、私は食糧管理します」
「備蓄管理はお任せください」
アルフさん、マリ先輩、ローズさんが手を上げる。
え、私は、えっと。
「食材、魔石、原材料確保に回ります」
「あ、自分も」
「ぴぃ」
アーサーとショウも手を上げる。
「メエ~」
ノゾミはリツさんの膝にすがりつく。癒し担当だ。
「みんな頼りになるじゃないか」
「もう、私がやる前提じゃない」
リツさんが笑ってノゾミを撫でる。
「じゃあ、リツちゃん、ランク上げないとね」
「あ、そうだった。まだ、Gランクだったわ」
マルコフさんは笑って紅茶を飲む。
「今度、魔の森でレベルアップとランクアップに挑戦ね」
何故かウキウキマリ先輩。
ショウがパッと胸を張る。守る気満々だ。で、バーンのモンブランの頂点に乗ってた栗をぱくり。
「あーッ、最後にとっておいたのにーッ」
バーンの悲鳴が上がって、笑い声が上がった。
「リーダーが決まれば、次はパーティーの名前だな」
「パーティーの名前? 『ハーベの光』や『紅の波』ですか?」
名前かあ。
「そうだ。リーダーの特権だ。うちは俺がハーベの月生まれだから、『ハーベの光』にしたんだ。まあ、リツ君の好きな名前にすればいいさ」
なるほど。
リツさんがマリ先輩とケーキを食べながら悩み出す。
横でマルコフさんがアルフさんに、武器の話をしている。
「鍛治師ギルドで依頼したいが、大丈夫か?」
「大丈夫だ。何を作るんだ?」
「実は今のサブウェポンのショートソードが折れてしまってな。長く使っていたから限界だったんだろうな。新調しようと思ってな」
それから柄のサイズや、剣の長さ、魔法金属など細かく聞いている。うーん、鍛治師のアルフさんだ。かっこいいなあ。
それからしばらくして、食事会はお開きに。
マリ先輩がしっかりお持ち帰りのアップルパイを渡している。バラックが大事そうに抱えている。
「リツ君、ご馳走になったな。とても美味しかった。パーティーの件で何か分からないことがあれば、いつでも聞いてくれ」
「ありがとうございます」
「アルフ、後日、正式に指名依頼させてもらう」
「分かった。任せてくれ、応えてみせる」
「アルフ、かっこいいなあ。早く僕もお金貯めて指名依頼しよう」
バーンが魔法で灯りを出しだから、羨ましい顔をしている。
それぞれ挨拶をして、皆でお見送りし、『ハーベの光』は帰っていった。
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