表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
146/386

作戦④

 なんだろう?

「ドラザールはな、鉱山だけが名物ではない。これはホワイトメープルの蜜だ。儂等からの礼だ。受け取ってくれ」

 革袋から出てきたのはガラス瓶に入った、白っぽい密。

「懐かしいな。クリスタムでも見られるとは」

 アルフさんが懐かしそうに見ている。なんでもマダルバカラでも名産品らしい。きっとマリ先輩が美味しいお菓子にしてくれる。うふふ、楽しみ。

「ありがとうございます」

 リツさんが受け取る。

「それと冒険者ギルドには、闇ギルドの件を報告しておいた。きっとランクアップに役立つはずだ」

 これでランクが上がるなあ。きっとアルフさんはC確実だね。ミュートの件もあるし、アーサーも上がるだろうね。

 鍛治師達に見送られ、鍛治師ギルドを後にして冒険者ギルドへ。

 すぐに応接間に案内される。

「今回の闇ギルドの件、シルバスさんから伺っております」

 対応してくれたのは事務方の年配男性、副ギルドマスターのキリクさん。

「拠点はトウラでしたかね?」

「ああ」

 こちらはアルフさんが対応。

「闇ギルドの持っていた証明書を確認しました。シェラさんに連絡しましたら、トウラに戻ってから正式にランクの話をするので、戻ったら『すぐに』冒険者ギルドに顔を出してほしいと」

 キリクさんが、すぐに、を強調する。

 何となく、シェラさんの迫力ある顔が浮かぶ。

「承知した。伺う」

 アルフさんも観念したように答える。

 それから、もう一泊することになったため、屋敷で待つホリィさんに連絡してもらうように依頼すると、快く受けてくれた。

 鍛治師ギルドが、昨日までお世話になったログハウスのコテージを借りてくれたそうだ。キリクさんに見送られ、冒険者ギルドを後にして、山茶花亭に向かう。あのふくよかな女将さんが、分かっているのに案内してくれる。

「何かありましたら、フロントまでお願いします」

「はい、また、お世話になります」

 リツさんが鍵を受け取る。

「さあ、今日はお疲れ様。先にお風呂に入る?」

 リツさんが聞いてくるので頷く。確かに汗かいてるから、お風呂に入りたい。ローズさんが準備に向かう。リツさんが夕飯の確認、マリ先輩がショウのブラッシングを始める。

 さて、私はリツさんのお手伝いでも、と思っていると、アルフさんが私を呼ぶ。

「はい、なんでしょう?」

「ちょっといいか」

「はい」

 なんだろう? アルフさんと共にコテージの外に。

「ルナ」

 立ち止まり、振り返るアルフさん。

「はい?」

「なぜ、お前は自分を大事にしない?」

「え?」

 なんのこと?

 首を捻る私。

「ミュートでもそうだが、今回も簡単に囮役を買ったな」

「だって、それが、手っ取り早いというか、なんというか」

 私は見た目がっちり子供だから、相手が油断するし、一応女ですから、誰でもいいと思っている下心ある連中にも、多少効果あるかなって思って。モゴモゴ言い訳のように答えると、アルフさんはちょっと辛そうな顔をする。

「ルナ、確かにお前には、戦闘力はある。多少の連中なら撃退できるだろう。だがな、問題はそこじゃないんだ。お前が自分からなんの迷いがなく、危険な役をする事だ。どれだけリツやマリがお前を思っていたか、分からんか? トレントの時も、無茶をして、リツがどれだけ自分の言葉に後悔したか」

 う、返す言葉がない。鬘を被って出発した時、リツさんとマリ先輩が最後まで他に方法がないかと考えてたが、私が大丈夫だと押しきったのだ。

「ミュートも今回もたまたま上手く行った。もし、とは思わんのか?

そうなれば、自分がどんな目に合うか」

「そうなる前に自害する覚悟あります」

 私が即答すると、アルフさんの表情が固くなる。

「ルナ」

 咎めるようなアルフさんの声。

 だって本当のことだし。私が囮になって上手くいくなら、安いもんだし。代わりはいくらでもいる、散々言われてきた。前世の事だ。思い出していると、ゴツゴツした手が私の頬を包み込む。

「頼むから、そんなこと言わんでくれ」

 アルフさんが、すごく苦しそうな表情で言ってくる。

 あ、しまった、私はアルフさんの身内認定されていたんだった。

「お前に何かあれば、みんな、悲しむ、分からんか? 儂もそんなことになれば、相手を生まれたことを後悔させてやる。だがな、何より、儂自身が許せん、お前を守れんかったことに」

「あ、あの、アルフさんが責任を感じることはないですよ」

「ルナ」

「ご、ごめんなさい…」

 思わず謝る。

「ルナ、お前を失ったら、儂は立ち直れん。みんなもだ。頼むから、もう少し、自分を大事にしてくれ」

「………ごめんなさい、約束できません」

 私はアルフさんの手を、頬からそっと外す。

「私は決めているんです。リツさんやマリ先輩達はこれからも、人の役に立つ功績を残すけど、私はただ、殺すだけしか出来ない。だから、せめて、リツさんやマリ先輩達を守るくらいしないと、生まれ変わった意味がないから。リツさんにも、マリ先輩やローズにも、こんな私でもよくしてくれたから、これくらいして、役に立って死なないと、意味がないんです」

 ゴツゴツしたアルフさんの手を握って、私の意思を伝える。

 しばらく、アルフさんの赤い目と見つめあう、こればかりは譲れない。先に折れたのはアルフさん。

「なら、儂が、そんなお前を守ろう。そうすれば、後衛のリツ達も守れる。すべての敵からお前を守ろう。ドワーフの盾で、すべてから」

 アルフさんが再び、私の頬に触れ、引き寄せられる。

「儂が、ルナ、お前を守ろう」

 なんだろう。すごくすごく嬉しい。身内認定されているから、こういってくれているんだよね。私は、手がかかる子供だから。そう、勘違いしそうで、怖い。

 アルフさんの顔が近づいて、息が、かかりそう。ああ、この、まま、じっとしていたら。私は目を閉じる。アルフさんの息が、私の口にかかるけど、それだけだ。数秒、鼻先が触れ合う寸前まで近づいていたけど、アルフさんが体を離す。

「ルナ、お前は一人ではない。いいな? みんながおる」

「アルフさんも?」

「当たり前だ。だから、儂を頼れ、いいな?」

「はい」

 息がかかるほどの近さで、私はされるがまま、アルフさんだから、されるがままだ。でも、嫌じゃない。むしろ、ずっと触っててほしい、子供特権で。


読んでいただきありがとうございます

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ