作戦②
ランク。
流血表現あります。ご注意ください。
「私がマリ先輩のふりして連中を引き付けて、倒しますから。錬金術で私の髪、脱色できません?」
「ならん」
「ダメよ。絶対ダメよ」
アルフさんとマリ先輩が、真っ向から反対する。
いい手だと思うけどなあ。
どうせ、襲われるなら、襲わせてこちらが優位になるように誘導した方がいいと思うけど。
「大丈夫ですよ。アルフさんが守ってくれるでしょう」
「お前なあ…」
アルフさんがため息をつく。
「それにショウもいるし、アーサーもいるし」
「ぴぃ」
「はい、大丈夫です」
ショウも反応して鳴き、アーサーも薙刀を握り締める。
「それに何も全員で馬車に乗る必要ないでしょう」
そう。何も全員で迎え撃つ必要はない。
それからバタバタと準備した。
ドラザールの鍛治師ギルド全面協力で鬘が製作される。黒髪と茶髪の鍛治師が髪を提供してくれた。
つるぴかになった鍛治師は、真面目な顔して私達を心配してくれた。ありがたい、髪を全部提供してくれたのに。
リツさんとマリ先輩、ローズさんによる錬金術で二つの鬘が出来上がる。
最後までマリ先輩は反対していたが、ローズさんに説得されている。
「ルナちゃん、サイズどう? 本当に大丈夫? アルフさんがいるから心配ないとは思うけど」
心配そうにリツさんが聞いてくる。
「問題ありません」
鬘ぴったり。マリ先輩のマントは羽織る。
「アーサー君も大丈夫?」
「はい、リツ様」
やる気満々のアーサー。最終的にはリツさんを守ることに繋がるので、気合が入っている。
「じゃあ、リツさんとマリ先輩はここで待っててくださいね」
魔法馬の引く馬車に乗ったのは、マリ先輩のマントと茶髪の鬘をつけた私、アルフさん、アーサー、そして黒い鬘に私のマントを身に着けたローズさんが乗り込んだ。ショウは飛行してついていく。リツさんとマリ先輩、ノゾミはドラザールの鍛冶師ギルドで待機。わざわざ危険な戦闘に二人を連れて行けるわけない。
「ショウ、気を付けるのよ。ルナちゃんを守ってね。アルフさんの言うこと聞くのよ」
「ぴぃ」
マリ先輩はショウの首に巻いたギレイキルスパイダーのバンダナを確認する。もちろん、いろいろ付与つきです。心配そうにショウに何度も言い聞かせているが、ショウはさすが知能が高いグリフォンなだけあるのか返事をしている。主人であるマリ先輩だけではない、ショウは私たちの言うことをきちんと理解している。
「行ってきます」
心配そうなリツさんとマリ先輩に見送られ、ドラザールを出発した。
予想以上に簡単にひかかってくれた。
おそらく弓を使ってくることを予想し、ショウに弓を使う動作をする連中を行動不能にするように伝えていた。私が弓を引く動作を見せると、すぐに理解。時折幌から顔を出し、マリ先輩のふりをする。基本的に従魔は主人の言うことしか聞かないと思われているが、ショウは別だ。特別だ。黄金色の目が縮瞳したのを確認、敵が近い。おそらくこの中で索敵能力が一番高いと思われるショウがすっと上昇する。
「来ました。アーサー」
「大丈夫です」
幌の中に引っ込み、御者台のアルフさんとローズさんに小さく声をかける。マリ先輩のマントのした、二代目を確認。手を差し出すと、アーサーがすっと握る。
「ヒートアクセル」
支援魔法発動。アーサーはそのまま移動し、アルフさんとローズさんの背に手を当て支援魔法発動。
【風魔法 身体強化 発動】
【火魔法 武器強化 発動】
我が守護天使バートル様、皆をお守りください。
森の奥で悲鳴が響く。
気合の入ったアーサーが薙刀を握りしめ、私とともに馬車の外へ。
顔を布で巻いて隠した連中が森から出てくる。数は10人。
「ストーンバレットッ」
アーサーが容赦なく魔法を発射。次々に命中していく。
私はあくまでマリ先輩のふりをするため、アーサーの後ろで控える。
無傷の連中が、アーサーに向かって武器を振るうが、アダマンタイトの武器に勝てるわけないし、アーサー自身のレベルがすでに連中のなかで一番強い元Dランク並みの強さを持つ。しかも、大切なリツさんを好きにして性奴隷にして売る、なんて聞いた以上、容赦する理由がない。ためらいなく薙刀を振るい、闇ギルド連中を切り裂いていく。迷いもなければ、冷静だ。
馬車の前方で、アルフさんとショウが展開している。あちらは心配ないだろう。
半数以上地面に倒れ伏したのを確認。
「アーサー、行くね」
「はい。お気をつけて」
私は単独で森の中に。私の気配感知と索敵に何人か引っ掛かっている。残党だ。アルフさんも後で合流予定。多分すぐ来る。
追いかけようとする連中は次々にアーサーの魔法の餌食になる。
少し開けた場所で、残党を確認。
2人が剣を持ち、近づいてくるが、私はマントの下で二代目を抜く。
負ける気がしない。
一気に駆け抜け、二代目を振りぬく。弾みでフードが翻り、鬘が落ちる。
「ぎゃああぁぁぁぁぁッ」
悲鳴を上げる剣を持つ2人。私が腕を斬りつけ、一人は腕は切り落とされ、もう一人はばっくりと腕に傷が入り、血が噴き出す。
「こいつ。テイマーじゃないぞッ」
「ふざけやがってッ」
何をぬかす。人をすきにして、性奴隷で売るって言っていた奴が。
私だって、リツさんやマリ先輩、ローズさんは大切な人だ。そんなこと言うやつを許すわけない。後悔させてやる。私たちを狙ったことを、人をおもちゃにしようとしたことを、金で命を奪おうとしたことを。ナイフや斧で襲い掛かるのを避け、一人ずつ斬りつける。さすが二代目、切れ味抜群。
地面に倒れ伏す男たちを尻目に、3人が逃げ出す。
馬鹿ね、その先には仁王立ちしているアルフさん。
石の礫が、2人の命中し行動を止め、残ったの1人。たぶん、身なりが一番よさそうだからリーダー格の元Dランク冒険者だと思われる。
「元Dランクか?」
アルフさんの心底冷たい声に、最後の1人は、剣を抜く。
「うおおおおぉぉぉぉ」
剣を振りかざして飛び掛かるが、呆気なく避けられ、アルフさんの魔鉄の槍が強かに打ち据えた。一撃、二撃、三撃。膝をついたところで、鉄板の入りブーツの蹴りが入り、撃沈した。
「これが元Dランクか。たいしたことないな」
「アルフさんが、強いだけですよ」
たぶんアルフさんのレベルならシェラさんが言っていたように、Cランククラス以上なんだろう。このDランク、本当にたいしたことない。身体強化もしている様子もなかったし。
「ルナ、ケガはないか?」
アルフさんがわざわざ顔のかかった髪を払ってくれて、確認してくれる。
「大丈夫です。アルフさん、どうします、これ?」
「自力で歩けるものだけ連れて行こう。できなければ野垂れ死にだ。おい、聞こえたか、立て。死にたくなかったらな。お前は、いろいろ吐いてもらうぞ」
アルフさんは元Dランクの襟首を掴み、馬車まで引きずった。
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