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鉱山⑦

続々トラブル

 私の頭の中に浮かぶ、ほっほっほっと笑うおじいちゃんドワーフダビデさん。Sランクの鍛治師なんだ、本当にすごい人なんだ。いかん、豆をくれるイメージしか湧かない。

「なんなの、汚ないなりの癖にッ」

 そりゃギリギリまで採掘していたから、仕方ない。

「儂はトウラの鍛治師ギルドで世話になっとる。お前さんの言うダビデ殿が保証人をしてくれとる。さあ、ダビデ殿はどちらに味方するかな?」

 鍛治師ギルドカードで突き出す。ハララナイ子爵夫人が、穴が空く程カードを見て、汗を流してアルフさんを睨む。ダビデさんなら、絶対アルフさんの味方だね。

「おばはま、ぼくは、このほんなとこいふにけられたんら、はなぢがでたんら」

「そ、そうよ。マクシミリアンに傷を負わせたのよ。きっと彼らのケガだってッ」

 だから、何よ。

 急に胸を張るけばいハララナイ子爵夫人。

「そうだ、歯が折れたッ」

「足が痛いんだッ」

 その一、その三も勢いづく。

「ルナ」

 アルフさんで静かに私に振り返る。

「はい」

「随分手加減したな」

「ええ、手加減しました」

 鞘に入れた剣で殴ったからね。

「嘘だッ、きっと殺す気だったんだ」

 その一が吠える。

 うるさいなあ。こいつら程度、私が本気出したら、こんなケガでは済まされないんだよ。どうやって、教えてやるかな? あ、いいものがある。

「あの、鎧リンゴ、一個ください」

 成り行きを見守っていた、年上の警備兵に言うと、不思議そうな顔をしたが、

「どうぞ」

 と、言ってくれる。

 私が指した先には、テーブルの上の籠にある鎧リンゴ。これはとにかく皮が硬い。果肉は甘いが、皮が硬い。ナイフ等で、叩き割り、果肉をスプーンで抉って食べるのだ。

 私はマジックバックから、初代を引き抜く。

「ヒィッ」

 悲鳴を上げるその一。

 鎧リンゴを一つ手に取る。

【風魔法 身体強化 発動】

【火魔法 武器強化 発動】

「はっ」

 鎧リンゴを上に投げて、初代で一閃。

 色んな視線の中、鎧リンゴは、真っ二つ。果汁を滴らせながら床に転がる鎧リンゴ。

「こうなりたかったのか?」

 初代を鞘に戻しながら言う。

 泡を噴きそうなその一、その三。

「こ、この片目に、なぐられたんら、こいふはぼくをころふきだったんらっ」

 まだ吠えるその二。

「アルフさん」

 今度は私がアルフさんに訪ねる。

「なんだ?」

「手加減しましたね」

「まあな」

「うそらっ」

 アルフさんはため息一つ。

「儂にも鎧リンゴもらえるか? 床を汚すが」

「どうぞどうぞ」

 年上の警備兵が、さっと鎧リンゴを渡す。

 大きな手で見せつけるように持ち、アルフさんの腕に力が入る。

  メリメリ、グシャ

 硬い鬼リンゴが、握り潰される。改めてすごい握力。

 男三人は青を通り越し、顔面蒼白になる。

「分からんか? 儂らには、お前らの首くらいどうにでもできる力がある。物理的にな。何故せんかったか分からんのか? ここに突きだして、洗いざらい白状させるためだ。あんな子供を襲っておいて偉そうに言うな」

 アルフさんの氷のように冷たい声が、ハララナイ子爵夫人から余裕を剥ぎ取る。

「子爵夫人。彼らは、あの少女を救出したんですよ。これだけの力があるんです。一撃で命を奪える力です。そうしなかったのは、殺意はないと言うことです。因みに彼らはおとがめありませんよ」

 年上の警備兵が説明してくれる。 

「ぼくはおそってなひっ」

「まだ、言うか、このくそがきがッ」

 鬼ドワーフがハンマーを振り上げる。

「そこまでです」

 それを止めたのは、落ち着いたリツさんの声だ。外から戻って来たみたい。ナリミヤ氏と連絡取れたんだ。

「これ以上は無意味です。少しよろしいですか?」

 リツさんが年上の警備兵と話し、こちらに振り返る。警備兵の表情が、驚きの表情を浮かべている。何を話したのかな?

「ハラヘッタ子爵夫人でしたっけ?」

 リツさん、微妙に違いますよ。でも、噴き出しそうになる。リツさん真面目に言うんだもん。

「ハララナイ子爵よッ、無礼者ッ」

「どちらでもいいですよ。子爵だが、ししゃもか知りませんが、反省なさい。いえ、後悔なさい」

「なんですってッ」

 高音の金切り声。耳に響く。

 掴みかかろうとするハラヘッタ、じゃないハララナイ子爵夫人。リツさんに向かって扇を振りかざすが、アーサーが寸で掴む。うん、冷静に動けたね。二人の警備兵が夫人の腕を掴む。

「奴隷風情が、穢らわしいッ、何をするのッ、私を誰だと思っているのッ」

 喚き散らす夫人。本当に品がない。

「吠えていなさい。さ、皆、帰りましょう。ギルドマスターさんも、さあ。よろしくお願いしますね」

 最後は警備兵と言う。

「おまかせください」

 年上の警備兵が丁寧に答える。

 確かにこの金切り声、もう嫌だし。

 さっさと詰所を出るリツさんに、ぞろぞろと続いた。


 外でギースさんとバティちゃんがいた。

 不安そうなバティちゃん。

 それから馬車。多分ハララナイ子爵夫人のだね。馭者とそこそこの年のメイドさんが、申し訳ない顔で小さく頭を下げてる。

「もう大丈夫よ。悪さができないようにしたからね」

 バティちゃんに、リツさんのいい笑顔。

 何をしたんだろう?

「皆、バティちゃんの孤児院に寄っていいかしら?」

「構いませんよ」

 全員異論はない。ギースさんと鬼ドワーフも着いてくる。

「お嬢さん、何を根拠に言っている?」

 鬼ドワーフがバティちゃんと手を繋いで聞いてくる。

「ちょっと権力者に知り合いがいまして、力を貸してもらいました。あのハラヘッタ子爵はしばらくしたら潰れるそうですよ」

 わーお、私の真っ黒な笑顔でも勝てないリツさんの笑顔。きっとナリミヤ氏関係だろうけど。

「権力者?」

「うふふ」

 鬼ドワーフが聞くも、リツさんは笑って誤魔化す。

 コテージに戻って、詳しく聞こう。

 暗いなか、アルフさんの槍の穂先の火と、リツさんとマリ先輩の光魔法の灯りで孤児院まで歩く。

 孤児院は教会に併設されていた。前世の私もそう言った孤児院で育った。中年のシスターが血相を変えて飛んできた。ショウを見てのけぞっていたけど、マリ先輩が説明。ショウは大人しくマリ先輩にすりすりしているのを見て、落ち着いた。

 バティちゃんは鬼ドワーフから預かり、説明を受けて、真っ青になる。

「皆様、バティを助けていただきありがとうございます」

「これ以上、子爵夫人が何かすることはありません。あ、これをどうぞ。屋根が、壊れているようですね。修理の足しにしてください」

 リツさんがシスターに小さな包みを押し付ける。お金ね。

「まあ、ありがとうございます」

 感動し、涙を浮かべそう。深く頭を下げるシスター。

「助けてくれて、ありがとうございます」

 バティちゃんもお礼を言ってくる。

 うん、良かった。良かった。

 バティちゃんとシスターに見送られ孤児院を後にする。

「明日、馬車を受け取りに来るだろう? その時に礼をさせてくれ」

 鬼ドワーフがリツさんにそう言って、ギースさんと暗い中を帰って言った。大丈夫かな、灯りもないのに。

「大丈夫だろう。ドワーフは種族的に暗い中でも見えるものがおる。坑道とかで行動しやすいように、そう進化したんだ。儂は見えんがな」

 なるほど。アルフさんはハーフだもんね、仕方ないよね。

「さあ、帰りましょう。明日にはトウラに帰らないと」

 なんか、最後に、あれだったけどね。

 私達は再びぞろぞろと移動した。

読んでいただきありがとうございます

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