再び出会う③
お菓子大好き
次の日、昼過ぎに手土産を確認しリツさんが間借りしている屋敷へ。
その手土産を選ぶのに時間がかかった。まあ、マジックバックから出るわ出るわ。マリ先輩お手製のお菓子が。一番初めに頂いたパウンドケーキに始まり、プレーン・紅茶・ドライフルーツなど入った様々なパウンドケーキ。丸や四角の一口サイズのクッキーはさくさく。これまた味がいろいろある。マドレーヌも柔らかくふわふわしてる。宝石のように輝くフルーツの載ったタルト。とろふわのチーズケーキ、パイはサクサク、中身はカボチャやリンゴ、洋梨を甘く煮詰めたものが入ったいた。他にもいろいろあるらしいが、テーブルに乗りきらなかったので、マジックバック内から出されなかった。
気になる。大いに気になる。てか、今日はコロッケ出てこないかな? いけない、そんな事はいけない。口一杯にお菓子を入れて、なんて厚かましい私。そう、私が食べたそうにしていたのか、一通りあーんしてくれた。マリ先輩が。こういう時、年下で良かったと思う。しかし、本当に良かった、あのジェイムス様がいなくて良かった。こんなところを見られたら視線だけで、焼きつくされたと思う。
結局、手土産はスコーンになった。見ただけで美味しいのが分かる。プレーンやベリーに、珍しい野菜のスコーンもある。オレンジとベリーの二種類のジャムはマリ先輩手作り。初めて見た白い塊、一瞬動物の油の連想したが、全然違う。クロテッドクリームとな。わぁ高級食品キター。これもマリ先輩手作り。ちょっと味見させてもらおうと、あーんのポーズで待つと入れてくれましたよ。あまりの美味しさに悶絶しました。家だと甘味はすべて弟と妹に食べさせていた。貧乏でしたので、なかなか甘味が手に入らないからね。前世関係がいつばれるが分からなかったし、いずれ家を出なくてはならなかった。せめて私のできることだ。その反動が今出ているのかも知れない。しかし、美味しい。そして何故かマリ先輩の前で、あーんなんてできる。ライドエルの両親にもそんな事していない。不思議だ。
小ぶりのバスケットにスコーンを並べて、上に白い布を被せる。
「準備オッケー」
マリ先輩がバスケットを持つ。ローズさんが持つと言ったが、マリ先輩が譲らなかった。
身なりのチェックして、いざ出発。いつも腰に下げていた剣はローズさんのマジックバック内だ。大丈夫だと思うけど。念のため。一応持っている服の中で、新しいものにし、髪もローズさんによってセットされた。
王城近くの一等地。白い塀が続く。かなり敷地が広いなあ、きっとコードウェルの家が何軒も入るだろうな。一体いくらなんだ。途方もない額だろう。想像できない。
あの正門にいるガードマン・ガーディアンは、3年前程に出てきた魔道具で、人工ゴーレム。まさに疲れを知らない警備員だ。詳しくは知らないが、できることで価格が変わると。一番価格の低いものは、小さな町位なら、いざ魔物や盗賊などに襲われた時に、命令権のあるものの指示があって初めて動く。高いものは、常時稼働できる。王城のガードマン・ガーディアンは通行証が無いものを決して通さない。高位貴族はガードマン・ガーディアンを門に置くのがステータスらしい。うち? 一番低いのも無理です。長く務めてくれているメイドと庭師(花とか育ててません、野菜育ててます)の家族に払うお給料でも大変です。ガードマン・ガーディアンは価格が低いので、400万Gとな。コロッケ何個分だ?
それが二体もいます。高い方ね。高い方。
初めて間近で見た。結構迫力ある。私達が前に立つ前に手にした長槍を交差した。
「リツさんとお会いするお約束をしています」
ちょっと引きながらマリ先輩が伝えると、少しして、正門の横の通用口からリツさんが顔を出す。リツさんが顔を出すと、ガードマン・ガーディアンは槍をもとの位置へ。
「マリさん、ローズさん、ルナさん、いらっしゃい。こちらへ」
リツさんに案内され、私達は屋敷内に足を踏み入れた。
「うわあ、すごく大きなお屋敷だね」
マリ先輩が感嘆の声をあげる。ローズさんはいつも通り、私はあまりのすごさに絶句。そこには、青い屋根、白い壁は宮殿を思わせる佇まいの屋敷。デカイ、とにかくデカイ。2階建てだろうが、天井が高く作られ、3階建て並みにデカイ。窓は質の良さそうなガラスがはまり、すべてにレースのカーテンが下がっている。縦にも広いが横も広い。庭も手入れされ、庭園のようだ。慣れてない私は、後ろでキョロキョロするしかない。あの右手にあるのって倉庫の様だけど、あれでも14年過ごしたかつての我が家よりデカイ。とにかくデカイ。
リツさんの誘導のもと、私達は屋敷の左手から奥の方へ向かう。うーん、広いなあ。チラッと部屋の中も見えたが、白いグランドピアノがあったよ。グランドピアノって王城や高位貴族の屋敷くらいにしかないと思うけど。ありましたよ。実物初めて見た。本当にお金持ちなんだな。
屋敷の横を通り抜け、庭を通り抜け、案内されたのは小屋。
え、これ、庭仕事の道具とか入れる小屋だよね? 間借りしてるって、これ? これ?
「どうぞ、中は広いですから」
リツさんは驚く私達を小屋の中に案内する。
「あ、すごい、広いね」
マリ先輩が何故だかはしゃいでいる。
「これって、空間拡張?」
私が聞くとリツさんは頷いた。中はおよそ10畳程、小さなキッチンにベッド、チェスト、テーブルがある。なんと奥には水洗トイレとシャワーブースもあると。十分生活できる。
「家主さんが準備してくれたの?」
マリ先輩は興味津々でキョロキョロしてる。
「はい、そうです。どうやったかわかりませんけど。どうぞ」
すごい家主だな。空間拡張された小屋を用意するなんて。普通にこのサイズの小屋を準備すればいいのに、とも思うが。リツさんに促され小屋の中へ。手土産を渡すと、リツさんは嬉しそう。いかんせん顔が歪んだだけにしか見えなかったが、気持ちは伝わって来た。椅子を勧められるが、お茶の準備を始めたリツさんを本職のローズさんがサポート。マリ先輩と私は皿にスコーンを並べる。遠慮しているリツさんだったが、いいからいいからとごり押し。
家主さんの準備してくれた茶葉が、ローズさんの手により最高の状態で品のいい茶器に注がれる。紅茶もスコーンもいい匂い。
リツさんが挨拶し女四人のお茶会が始まった。
うまい、紅茶が、スコーンが。プレーンのスコーンにベリーのジャムをつけてくれるマリ先輩。何でもベリーのジャムは自信作と。もちろん一つ残さず頂きますよ。むしゃむしゃ。ごっくん。
「マリさんのスコーン、とても美味しいです」
リツさんはカボチャのスコーンをクロテッドクリームをつけ食べてる。次それにしよう。
「ありがとう。リツちゃんの紅茶も美味しいよ。家主さん優しいんだね。いろいろ準備してくれて。直接ご挨拶できないのが、申し訳ないけど」
「伝えておきます。本当によくしてもらって、ナリミヤ先輩には、お世話になってばかりで…」
マリ先輩とローズさんの手が止まる。
「え、ナリミヤって、ソウタ・ナリミヤ様の事?」
「そうです。マリさんお知り合いですか?」
「知り合いも何も、家の」
いいかけたマリ先輩に私はストップをかけるように、手をつき出す。それに戸惑うマリ先輩とリツさん。
ピリッと肌を刺す感覚。僅かだか殺気、もしくは悪意。そんなのが伝わって来たのだ。ガードマン・ガーディアンがいるから不審者が入り込めると思わないが、でも感じる。しかも一つではない。
「剣を」
短くローズさんに伝えると、スッと剣が差し出される。
「皆さん、奥に隠れて」
「あの、どうしたんですか?」
一番混乱しているリツさん。
再度促そうと口を開きかけると。
ドンドンドン
乱暴に叩かれるドア。びくりと震えるマリ先輩と混乱しているリツさんを、ローズさんに顎で小屋の隅に誘導するように促す。
「いるのは分かっている。早く出てこい」
鋭い女の声が小屋の中に響き渡った。