鉱山⑤
トラブル
二日目、三日目、採掘は順調に進む。
リツさんのアイテムボックス、大丈夫かな? かなりの鉱石が入っているけど。
本日最後の採掘日。
もう少しでギースさんが、迎えに来る頃に、まあ、トラブルがやって来た。
坑道にアルフさんとアーサーが入っていた。
リツさん、マリ先輩、ローズさんは鉱石と片付けている。
ショウが顔を上げ、小さく鋭く、高い鳴き声を上げる。
私は気配感知を展開、何か近づいている。
マジックバックに手を突っ込む。
「敵ですよ」
小さく呟く。顔を上げる三人。
「ノゾミ、アルフさん呼んできて」
マリ先輩がそっと言うと、小さくノゾミが鳴いて坑道に向かう。
ショウは身を低くして警戒。黄金色の目が縮瞳している。
私はマジックバックから初代を引き出す。
茂みの向かうで悲鳴が上がる。
少女の悲鳴だ。
「ここにいてください。ショウ、ここにいて」
【風魔法 身体強化 発動】
私は三人に言って、茂みに駆け込む。
悲鳴を頼りに私は走る。
「キャアアッ」
「うるさいッ、黙れッ」
声の元には、地面に引き倒された少女に馬乗りになる男三人。
私は一気に駆け寄り、男一人を蹴り倒す。身なりからして、浮浪者や盗賊ではない様子だ。だが、だからと言って、容赦はしない。
突然の乱入者に、驚く残りの男二人。
私の無言劇が始まる。
鞘に収めたままだが、初代で滅多打ちにする。伊達にレベル50を越していない。ぶれなく顔面直接的し、前歯が飛し、顎を蹴り上げる。膝に一撃入れ、仰け反った瞬間に腹に一発柄を叩き込む。始めに蹴り飛ばした男が、私を見て、青ざめ逃げようして、立ち止まる。そこにはそびえ立つように立ちふさがるアルフさん。
「ヒイッ」
「さあ、覚悟は出来とるか?」
アルフさんの拳が、容赦なく決まり、鼻血が噴き出した。
「もう大丈夫だからね」
私は出来るだけ優しく言って、少女に声をかける。未成年だよ、どうみても。
ガタガタ震える少女に私はマジックバックから、カーディガンを出して肩にかける。
「ルナ、縄あるか?」
「はい」
私はマジックバックから縄を出して、アルフさんに渡す。男達は気絶はしていないが、抵抗することなく、手荒く締め上げられる。
「立て」
冷たく言って男達を立たせ、小突きながら歩かせるアルフさん。
私は少女に手を貸して立たせる。
「おんぶ、しようか?」
「だ、大丈夫です……」
微かに聞こえる声で答える少女。
ちょっと違和感あるけど、私は少女と歩く。
茂みを抜けると、アーサーが薙刀を構えていた。
歯は欠け、鼻血を出し、足を引きずる男達。ショウが警戒するように翼を広げる。いつでも不可視の刃を飛ばす気だ。男達はアルフさんに任せる。リツさん達が私と少女に駆け寄る。
「ルナちゃん、怪我は? 貴方は怪我はない?」
「私はありません」
少女も大丈夫と言うが、膝や手は傷だらけだ。
「ダメよ。ちゃんと治しましょうね」
リツさんは魔法で水を出して、傷を洗う。マリ先輩とローズさんがポーションをガーゼに染み込ませ、そっと当てる。
「怖かったわよね、でも、もう、大丈夫だからね」
優しくマリ先輩が言うと、少女はわなわな泣き出した。
男達はアルフさん、アーサー、ショウに囲まれぶるぶる震えている。
「おい、俺達に手を出したらどうなるか、分かっているのか?」
鼻血を出してる男が、虚勢を張る。
アルフさんは無視。無言で魔鉄の槍を持つ。
まあ、奴隷落ちだね。情状酌量余地なし。
しばらくして、ギースさんが、迎えに来てびっくり。
「バティちゃん?」
「ギースさあん……」
バティちゃんと呼ばれた少女は、ギースさんを見て泣き出す。
「知り合いか?」
アルフさんが聞くと、しがみついてきたバティの肩を持ち、驚いた表情のギースさん。
「鍛治師ギルドの事務の見習いです。なんでこんなところに、あ、お前ら、またやりやがったなッ、よくもうちのもんに手を出したなッ」
ギースさんが縛り上げられた男達を見て声を荒げる。
どうやら常習犯のようだ。
「警備兵の詰所に連れていくか」
「そうですね。今回は金でどうにかなると思うなよ」
ギースさんが吐き捨てるように、縛られた男達に言う。
荷台の後ろに男達を転がし、前に私達、その間にアルフさんとアーサーがそれぞれの得物を向ける。
馬車のすぐ後ろに、ショウが警戒するようについてくる。前門をアルフさん、後門のグリフォン。
ギースさんの話だと、この男達は婦女暴行を未遂を含めて、何件も騒ぎを起こしているらしい。なんで、奴隷落ちしていないのかな、と思うと、ギースさんが答えてくれる。
いつも狙うのは孤児院の子供や、低階層の女性で、多額の示談金でなんとかしている。一度起こすとほとぼりが収まるまで大人しいらしい。しかも、厄介な事に、男達の親が商人ギルドのお偉方だったり、親族に爵位のあるものがいて、ある程度は揉み消してもらっていると。だから、さっき、「手を出したらどうなるか」なんて言ったのね。また、私達はそんな脅しに屈するわけないけど、問題はバティちゃんだよね。彼女は孤児で、鍛治師ギルドで事務の見習い。更にまだ小さな弟が二人と妹も二人いるから、下の子達を思って示談金を受けたりするかも。
どうなるんだろう?
黙ったままのバティちゃんが心配だが、町に到着。まっすぐ警備兵の詰所に。
アルフさんとギースさんが三人の男達をつき出す。
二人の警備兵は、またか、みたいな顔で、軽蔑した顔で男達を見ている。
「パパに、パパを連れてきてくれ」
「おば様を呼んで来い、お前ら、どうなるか分かっているんだろうな」
「お母さまを呼べ」
床に転がされ、男達が喚きたてる。
歯が欠けたのが、父親を。鼻血が出したのが、叔母を。足を引きずるのが、母親を。もうめんどくさい。歯がその一、鼻血がその二、足がその三でいいや。
「被害者は?」
警備兵の年上の方が聞くと、ギースさんが、バティちゃんを引き寄せる。
「彼女です。鍛治師ギルドで見習いをしています」
小さく頷くバティちゃん。
「話は大丈夫かな? まず、椅子に座って」
年上の警備兵は椅子を進める。
小さくなって座るバティちゃんに、年上の警備兵は、優しく話しかける。
ギースさんが、若い警備兵に何か話し、バティちゃんにすぐ戻ると声をかけ、詰所を出ていく。私がバティちゃんの側に立つ。
喚きたてる男達は、アルフさんが睨んで黙らせ、ショウが仁王立ちする。
「まず、怪我はないかな?」
「はい。この方達が治してくれました」
「話しを聞いても大丈夫かい?」
「…はい」
「無理そうなら、言ってくれてもいいからね。まず、こいつらはいつ君に接触してきた?」
「孤児院に帰る途中に、路地に引っ張り込まれました。それから、森に連れていかれました」
バティちゃんが震える。
「恐くて、悲鳴を上げました。そうしたら、この人が助けてくれて」
私をちらっと見る。
「そうだったんだね」
年上の警備兵は息を吐き出す。ちらっと軽蔑した目で男達を見る。
その一が、声を張り上げる。
「殴られたんだぞ。そいつに。歯が欠けたんだぞ」
だから何よ。こんな小さな女の子を三人で襲っていたくせに。
「歯ぐらいで、ガタガタ言うな。首が良かったか?」
私が冷たくいい放つ。
その一は顔を青くするが、それでも睨もうとする。
「なんだ、足りんかったか? どれ、儂がもう一発殴ってやろう」
アルフさんが拳を音を立てて握りしめる。ショウも目を細めて、その一の顔を覗き込む。
その一の顔色がますます悪くなる。
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