鉱山③
コテージ
ドラザールの町の中に入る。鉱山関係のような人が多く、また、商人も?町中だから、アルフさんは馭者台から降りて、歩いて手綱を引く。マリ先輩もショウのリードを引きながら歩く。私も一緒に並んで歩く。まあ、ちらちら見られた。仕方ないよね、グリフォンがおとなしくリードに繋がれて歩いているのが、珍しいからね。
まず鍛治師ギルドに向かう。流石鉱山の町、大きいなあ。
「ルナ、手綱を頼む」
「はい」
アルフさんから手綱を預かる。アルフさんは鍛治師ギルドに入って行く。
しばらくして、若い人族男性の鍛治師を連れてアルフさんが出てきた。
「魔法馬と荷馬車は鍛治師ギルドが預かってくれると。リツ、ショウ達も大丈夫な宿もいくつかあるそうだが、どうする?」
「そうですね、コテージタイプがいいです。お風呂とトイレ付きで」
「なら、山茶花亭のコテージがオススメですよ。ここをまっすぐ行って、三つ目を右に曲がったら突き当たりにあります」
手綱を預かってくれた若い人族男性が教えてくれた。
山茶花亭でコテージを聞くと、ふくよかな女将に笑顔で直ぐに案内される。数分歩いた所にあったのは、ログハウスタイプのコテージだ。
「こちらでございます。四泊でよろしいですか?」
「はい、お願いします」
リツさんが鍵を受けとる。
「では何かあれば、フロントまでお願いします」
「はい」
ふくよかな女将が笑顔で帰って行った。
コテージの中は一階に広いリビングとダイニングキッチン、風呂とトイレ。二階は寝室広いのと、一回り小さな部屋。ベッドはそれぞれ二つ。広い部屋はマリ先輩、ローズさん、ショウにノゾミ。もう一つの部屋は私とリツさん。リビングで簡易ベッドを広げて、アルフさんとアーサーが寝ることに。
「すみませんアルフさん、ちゃんとしたベッドじゃなくて」
「構わんさ、十分だ」
寝床が決まり、早めの夕食となる。明日から朝から採掘となるからだ。
私はローズさんのお手伝いをして、皿を並べる。
リツさんのアイテムボックスから出てきたのは、パン粉に包まれ油で揚げられたものだ。あう、いい匂い。
「明日から力仕事だからね、がっちりお肉よ。オークのロースのトンカツと、とボアのカツレツよ」
リツさんが説明してくれる。
キャベツの千切りにポテトサラダを載せ、トンカツとカツレツが並ぶ。男性陣は多め。後はホカホカご飯に野菜たっぷりの味噌汁。
豪華だ、いただきます。
まずトンカツを茶色っぽいソースをつけて一口。サクッ。
「あ、柔らか、このソース美味しいですね。お味噌の味がします」
「分かる? 味噌ソースよ。あ、いけないゴマ出してないわ。どうぞ、これもまぶして食べて」
マリ先輩が磨り潰されたゴマを出してくれる。
では、遠慮なく、ぱらりして、ぱくり。
「ん、香りが違いますね」
隣でアルフさんもゴマをかけて食べてる。
「確かに香りがいいな」
「うふふ、良かった」
マリ先輩と嬉しそうに笑う。うん、かわいい。
カツレツは塩がオススメよ、と言われ、ぱくり。うわあ、肉汁が美味しい、塩つけてるのに甘味がある、不思議。
「どっちも美味しいです」
きりっ
どちらもご飯が進む。
私もアルフさんもご飯おかわり。アーサーは言い出せなかったが、優しいリツさんが手を差し出したので、おずおずとお茶碗(ご飯用のボウルの名前)を渡していた。
確かにリツさんの奴隷の扱いは破格だ、本当に家族のようにせっしている。普通奴隷はお腹一杯食べれない、しかもこんな豪華な食事を主人と同じテーブルを囲めないのだ。私は別に抵抗ないけどね。
コードウェル家の元奴隷のターニャは、長く勤めてくれているから家族も同然だけどね。借金奴隷として、私の祖父に買われたが、いつも祖父に感謝していた。父も信頼してたし、常に子育てで疲れている母をサポートしていたし、私達姉弟も大好きだ。だから、リツさんの対応に抵抗ない。アルフさんはリツさんの流儀に合わせているし、がんばり屋のアーサーをなんだかんだと可愛がっているみたいだし。
いかん、思い出してしまう。
「今度は、トンカツソースの再現ね。あ、焼き肉のタレも」
「そうね。料理のバリエーションが増えるわ。あ、照り焼きソースとかも」
リツさんとマリ先輩が美味しい作戦会議に耳を傾けながら、私はもぐもぐ食べた。
次の日。
鍛治師ギルドで許可の出た坑道を確認。
ドラザールには、何本も坑道がある。
取れるのは鉄、銅、銀、金、魔鉄、ミスリル、宝石も採れるらしい。狙いは魔鉄、ミスリル、アダマンタイトだが、全て揃って採れる坑道は三つ。一番採掘されていない坑道をアルフさんが聞き出す。きっと紹介状のおかげだし、採掘日数が、限定四日間だから、たいして採掘できないだろうと踏んだんだろう。教えてもらえた。
一応つるはしを持たされたが、アルフさんには秘策があるらしい。なんだろう? 短期間で採掘できる方法が、あるんだろうけど、ドワーフ秘伝なのかな?
向かう坑道は端っこらしく、あの若い鍛治師がトウラの魔法馬で送ってくれることに。
ギルドの前で待っていると、ぞろぞろと鎖で繋がれて歩く汚れた奴隷達。首の奴隷紋が幅広く、犯罪奴隷だ。薄汚れ、足はぼろ布を巻いているが傷だらけ、顔には生気がない。
男は坑道、女は鉱石の分別かな。何となく見送っていると、女の奴隷の一人が私を睨んできた。
なんだろう? まったく見覚えないけど。首を傾げると、更に睨まれる。バサバサの髪、汚れて疲労が滲み出た顔、干からびた口が、何か言う。
「あんたのせいでッ」
は? てか、誰? まったく誰か分からないが。
「あんたのせいでッ」
女の奴隷が列から飛び出してくる。足に鎖が繋がれているから、特に構えたかったけど。さっとアルフさんが私の前に立つ。
「あんたのせいでッ、あんたのせいでッ」
鎖に繋がれているから、結局他の奴隷を、巻き込んで転倒。他の奴隷はいい迷惑だね。ギラギラと睨み付けられるが、どこかで見たことあるような。ないような。
「………あ、ガイズの」
あのニヤニヤ笑いの受付嬢だ。こんなところで、作業してたのか。あの時はきれいに髪をアップし、化粧も完璧だった、顎のほくろで思い出した。あまりの変わりように、気がつかなかった。
「あんた、あんたのせいでッ」
「身から出た錆でしょう」
私が呆れたように言う。
鎖に足を拘束されながらも、元受付嬢はこちらに向かおうとする。アルフさんが魔鉄の槍を持ち上げようとしたため、私はその腕に手を添える。犯罪奴隷が、一般人に害をなそうとした、その場で切り捨てても罪には問われない。気にしない人が多いが、私はあまりいい気分ではない。後ろには、リツさんやマリ先輩、アーサーがいるからだ。それに、罪には問われないとはいえ、騒ぎを起こしたくない。
「アルフさん、大丈夫です」
私が言うと、鋭い視線で元受付嬢を射ぬいていたアルフさんは、魔鉄の槍を下ろす。
「何をしているッ、列を乱すなッ」
騒ぎに気づいて飛んできた、鞭を持った主人らしき男が、その鞭で元受付嬢を打ち据える。
ばちんっばちんっ
後ろにいたリツさんとマリ先輩が息を飲むのがわかった。アルフさんの背中があるから直接見えないだろうけど、音で分かったはずだ。
打ち据えられた元受付嬢は踞りながらも、私を睨み上げる。たいした根性だ。
「すまない、うちの奴隷が失礼を」
「構いません。鎖に繋がれてましたからね」
奴隷の主人が謝罪してくる。私は手を振って答える。奴隷の主人は深く会釈し、元受付嬢を怒鳴りながら立ち上がらせる。元受付嬢は最後まで、私を睨んでいた。
「あれが、本来の奴隷の扱い、ですか?」
硬い声で聞いてきたのはアーサーだ。初めて見た犯罪奴隷とその扱いなんだろう。まあ、借金奴隷でも、あの扱いは、あり得ないわけではないからね。
「あれは、犯罪奴隷よ。アーサーとは違う。罪を犯してああなったの」
私が言うも、アーサーは硬い表情だ。
「大丈夫よ、アーサー君。私はあんなことしないからね」
リツさんが沈黙したアーサーに、優しく言う。確かに優しいリツさんがするわけないな。
「はい、リツ様。自分はリツ様に買われて、幸せです」
心からのアーサーの言葉を、リツさんは嬉しそうに受け取っていた。
読んでいただきありがとうございます