表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
133/386

帰途⑤

帰る

 バルハさんが、城門前で、誰かと言い争っている。

 髪からして、女性みたいだけど。何事?

「残念じゃったな、アルフをここのギルドには所属させんぞ。トウラの鍛治師ギルドのものだ」

「うるさい、おだまり、このミュートだって将来有望な街なんだよ。こちとら、向こうの条件全部飲むんだからね」

 あ、女性のドワーフだ。ちょっと白髪の混じった髪を縛って、片手に槌を持ってる。ミュートの鍛治師みたい。

「はん、アルフはな、トウラにすでに部屋を手に入れておるんだよ。最高に旨い飯つきのな。しかも、これまた将来楽しみなて」

  ガツンッ

 アルフさんの槍(柄の部分ね)がバルハさんの頭を直撃。

 え、ギルドマスターだよね。

「………ギルドマスター、余計な事、言わんでもらえるかな?」

 妙に迫力のあるアルフさん。

 バルハさんが、汗を流してすまんすまん、と繰り返す。

「それと、アイランさん、儂はトウラから離れるつもりはない。話は有り難いがな」

 アルフさんの言葉に、バルハさんが、へへーん、みたいな顔をして、アルフさんの槍(柄の部分ね)が足の甲を直撃。

「アグッ」

 だから、ギルドマスターだよね。なんか、子供みたい。

 アイランさん、と呼ばれた女性ドワーフは、ミュートの鍛治師副ギルドマスターで、アルフさんをミュートに勧誘していたみたい。まあ、アダマンタイト扱えるしね。

「く、仕方ないね。で、そのて」

「アイランさん」

 アルフさんの迫力ある笑顔が、アイランさんを黙らせる。

 なんだろう?

 足を擦って、バルハさんが、顔を上げる。

「あ、そうだアルフ、あのからくりの枷は持っとるか?」

「ルナに預けておる」

「そうか、トウラに戻ったらダビデ爺に渡すから無くさんでくれな」

「はい」

 マジックバック内だから、大丈夫ですよ。

 来た時と同じ、魔法馬の荷馬車が乗り込む。商人ギルドの依頼で、野菜が積み込まれている。開拓農民達が作った野菜だ。やっと出荷できるまでにこぎ着けたようだ。じゃがいもにかぼちゃが、豆に、かぶ等だ。ミュートとトウラの間の道は整備され、驚くほど揺れないから、野菜にもダメージないだろうね。

「あの護衛についたマルコフさん達は、今回の依頼どうなるんですか?」

 私が気になっていたことを、バルハさんに聞く。

「ああ。そのことか。事情が事情だからな。冒険者ギルドと相談して、鍛治師ギルドから依頼を途中から断った形にしておいた。アルフに頼まれたからな。そうすれば、彼らの経歴にキズはつかん」

 そうなんだ、良かった。鍛治師ギルドの納品の護衛依頼途中で、指名依頼来たからどうなるんだろうって思っていた。ごくたまにこう言った事があるから、それに対しては、ギルドや行政が柔軟に対応していると。

「盗賊の心配も無くなったが、アルフがおるし、嬢ちゃん達もおるしな」

 荷馬車に乗り込もうとすると、ビルツさんが、見送りに来てくれた。

「皆さん、お世話になりました。お気をつけてください」

「ビルツ殿、こちらこそ世話になったな」

「また、ミュートに来てください。いつでも歓迎しますよ」

「感謝する」

 アーサーがビルツさんの元に。

「あの、ご迷惑をおかけしました」

「いや、君のおかげで、残党狩りが早く終わりそうだし、助かる人もたくさんいる。君のおかげだ」

 ぽんと肩を叩く。奴隷に対しても、気さくな人だ。

「アーサー」

 アルフさんが呼ぶ。

「呼ばれているよ」

「あ、はい。失礼します」

 アーサーが荷台に乗り込む。私は馭者台、アルフさんの隣。

 うん、無心で座る。

「さ、トウラに帰るか」

  ガラガラ

 魔法馬に引かれ、私達を乗せた荷馬車が、出発した。


 帰りはなんの問題もなく進む。

 トウラの城壁が見えてきた。

 ああ、やっと帰って来た。食料足りて良かった。バルハさんが、美味しい美味しいって食べるんだもん。いいけどさ、あ、でもリンゴと洋梨あるから、魔法馬にあげようかな。

 なんて思っていると、アルフさんが私の腕を掴んできた。

 いきなり、だからびっくり。

「なんです?」

「ルナ、あれ」

 珍しく硬い顔のアルフさんの視線の先に、白い翼を広げて飛ぶ物体。あ、ショウだ。ん? ん? んん?

 私の口から、自分でも聞いたことがない奇声が上がる。

「おかえりー、ルナちゃーん」

「はよう降りてらっしゃいッ」

 呑気に手を振るのは、ショウの背中に乗る、ライドエル王国屈指の財力を持つ、クレイハート伯爵令嬢だった。

 絶叫する私。

 飛んでるんだよ、空を、鞍もない、不安定なグリフォンの背中に。

 アルフさんが頭を抱え、アーサーが口を開けたまま見ている。

 ショウがゆっくり旋回して、荷馬車と並走するように、低空飛行して着地。

「おかえり、ルナちゃん」

「おかえり、じゃないでしょッ」

 私は止まった馭者台から、飛び降り金切り声を上げる。

「あのね、落ちたらどうするんですかッ、鞍もなし、ショウはまだ子供でしょうがッ」

「え、えと、私くらいなら、飛べるみたいで……」

「飛べるみたいで、飛んじゃダメでしょッ」

「いや、あの、ルナちゃんくらいも大丈夫よ、アルフさんは無理だろうけど…」

「当たり前でしょッ、あんな筋肉ですよッ、浮かぶわけないッ」

 後ろで、アルフさんがアーサーにゴニョゴニョ聞いてる。

「儂、そんなに太っておるか?」

「いや、その、あ、仕方ないかと思いますよ。アルフさん、背があるし」

「アーサー、こっち見て返事してくれんか?」

 そんな会話にバルハさんが、入ってくる。

「アルフ、気を抜いたら、儂みたいな腹になるぞ」

 ぼよん、と出た腹を示すと、アルフさんは自分の腹を確認。ばっきばきに割れた腹筋です。バルハさんが、すごいな、と一言。でも、想像できない、お腹が出たアルフさん。

 いや、だめだ。今はこの人だよ。

「そんなに怒らないで…」

 マリ先輩がうるうる。後ろに隠れているショウは頭しか隠れてないから、獅子のしっぽを丸めたお尻が出てる。

「ショウなら空飛ぶ馬車が行けるかなって……」

「はああぁぁぁぁ? 空飛ぶ馬車ぁぁぁぁ?」

 またとんでもないこと言い出しまよこの人。

 空飛ぶ馬車?

 マリ先輩が馭者台で笑顔で手綱を握り、馬車の中で、しっちゃかめっちゃかなってる私達の姿が瞼に浮かぶ。

「うん、まだ、先になるだろうけど、せっかくショウは飛べるし……」

 私の形相にさすがのマリ先輩も沈黙。

 落ち着け、ふー。

「ローズさんは、ショウに乗ってることは、知ってるんですか?」

 ぎくうっと、マリ先輩。

「な、内密に………」

「んな訳いかないでしょ、さ、帰りますよ」

「ロ、ローズには、どうかご内密に………」

「ダメです」

 バッサリ断る。

「どうか、御慈悲を………」

 何を言ってるの。ダメなもんよ、ダメ。

「うわあああぁぁぁん、アルフさん………」

「すまん」

「アーサーくーん………」

「ご、ごめんなさい……」

 私の『ねえ様こわい、いや』全開の笑顔で、助けを求められた二人は明後日の方向を向く。

「さ、帰りますよ」

「うわあああぁぁぁんッ」

読んでいただきありがとうございます

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ