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再び出会う②

クレイハート製はあちこちあります。

 食堂の依頼の次の日、ゆっくり過ごすことになった。たまっていた洗濯をしようとすると、マリ先輩が全部浄化をかけた。…浄化の使い方がねぇ、マリ先輩は光魔法の訓練だと譲らなかった。まあ、楽できたし。昼過ぎから首都も散策することなった。せっかく首都に来ているのだか、三人で回ることになった。

 しかし、大きな街だ。野菜や果物を扱う露店や串焼きを売っている屋台。商店も多いが何より活気がある。人も多いが表情は明るい。

 そして臭いだ。ライドエルでもそうだったが、排泄物の臭いが大きな街では必ず街中に漂っていた。そんな臭いがここではしない。それはクレイハート製の水洗トイレの影響だ。これにより臭いが激減した。そして感染症による子供や赤ん坊の死亡率が減った。また水洗トイレが庶民の間に行き渡るようになり下水道の改修・改築・増築を公共事業にしたことが、経済に大きな影響を与えた。貧困層の住民を主に雇い工事を行い?貨幣の流通が王国中に広がり、徐々に好景気に転じている。貧困層の人はまともな職にありつけないため、みんな必死に働いてくれているようだ。下水道の工事は今でも行われており、慢性的に人手不足。また増築されたらそれの管理や点検、細かい修繕に引退した冒険者や、まだまだ元気なご老人、子育てを終えた主婦まで雇っていると聞いた。経済が豊かになると犯罪も減る。貧困層がひときれのパンのために盗みを働き、奴隷落ちなんてよく聞く。それが下水道工事で通貨を得ることで、そんな危険をおかさなくて済むようになったからだ。更に貧困層を牛耳っていた元締め達も摘発されたことも大きい。これによって貧困層の治安がよくなったと。これ父の受け売りです。

 あちこち見て回ると、クレイハート製の魔道具を揃えている商店があった。冒険者ギルド前の大きな商店だ。何でもクリスタム王国最大手の商店と。しかし、リツさんに対するあの態度はいただけない。しかし、大きな商店だな、出入りする人達も裕福層の平民から貴族が出入りしている。あ、リツさんを突き飛ばした男が、貴族らしい夫婦を丁寧に見送っている。なんだろう、いらっとする。隣でマリ先輩も少し難しい顔で考えている。うん、マリ先輩には似合わない顔。

「マリ先輩、あっちの露店見てみましょう」

「あ、そうね。行きましょ」

 それから買い食いしたり、露店を冷やかしたりして見て回った。楽しい。すごく楽しい。

 気がついたらすでに夕方。

 楽しい時間って、あっという間なんだな。

「マリ様、そろそろ戻りませんと」

「そうだね、あっ」

 マリ先輩が知り合いでも見つけたのか、手を振った。

 フードを目深に被った曲がった背中の人物。リツさんだ。手には籠。ポーションでも売りに来たのかな? そういえばフロイ商店が近い。マリ先輩が「リツちゃん」と声をかけると、向こうも気がついたらようで、足を引きずりながらこちらに来た。そのリツさんに大きな冒険者の男が、明らかにわざと腕をぶつける。リツさんは転倒する。マリ先輩が転倒したリツさんに向かって駆け出す。

「てめえどこ見て歩いてるッ」

【風魔法 身体強化 発動】

 こういった輩が次に出すのは、手か足だ。

 男はまるで石でも蹴り飛ばすように、右足を引いた。

 風魔法は俊敏強化に特化している。私は一気に男との距離を縮める。リツさんの体に直撃寸前で、男の足を私は足裏で受ける。

 うっ、身体強化はしているにも関わらず、かなりの衝撃が足に伝わる。男はすね当てまで着けてる、こんなのに蹴られたら骨折するぞ。

 私は男とリツさんの間に体をすべりこませる。

「誰だてめえ」

 いきなり乱入してきた私に、男はいきり立つように怒鳴る。

「この人の知り合いだ」

 背後でマリ先輩とリツさんを、ローズさんが避難誘導している。

 よし。

 周囲の安全確保。

「見てたぞ。わざとぶつかったな。情けない、こんな大男が足の悪い小柄な人に暴行を働くとはな。クリスタム王国の冒険者はずいぶんと質が悪いな」

 私の言葉に大男は顔を真っ赤にする。

「うるせえッ」

 大男は今度は右腕を振りかぶる。遠巻きに見ていた人達から悲鳴が上がった。まともに受けられない。

 しかし振りかぶられた右腕は、振り下ろされることはなかった。大男の後ろに更に頭一つ大きな男がその右腕を掴んでいたのだ。掴んだ男は右目が閉じ、瞼にキズがある。隻眼だ。

「よさんか、こんな子供に手を上げるのは」

 穏やかな口調で隻眼の男は言う。

「うるせえッ、離せこの野郎ッ」

「だからよさんか」

 大男は掴まれた右腕を動かそうとするが、びくともしない。必死な形相だが、まったく動かない。

「よさんか」

 一瞬、殺気を感じる。角度で隻眼の男の顔が見えないが、大男がびくりと震える。掴まれているところから、骨の軋む音がした。

「離せ、もう何もしない」

「分かってくれたか、良かった」

 ようやく解放された大男は、右腕を押さえて逃げるように立ち去る。

「さて、お嬢ちゃん、大丈夫かの?」

 隻眼の男が私に話しかける。二十歳そこそこの穏やかな顔立ちの青年だ。話し方はちょっと年寄りくさい。背中には槍に大きなバック。

「はい、助けていただきありがとうございます」

 私はお礼をいう。

「構わんさ、だけどな、お嬢ちゃん」

 隻眼の男は私の前に片膝をつく。

「あんな風に焚き付けてはいかん。ケンカで済まされなくなるぞ」

 まるで子どもに言い聞かせるように続ける。

 隻眼の男の左目は澄んだような赤色。優しい色だ、何だか引き込まれそうだが、子ども扱いされたことを思い出す。

 あ、私、今未成年だった。素直に聞いておこう。

「はい、気を付けます」

 私の返事に納得したのか、隻眼の男は私の頭をポンポン。恥ずかしい。でも、なんだかドキドキする。なんだろうドキドキする。胸焼けか、さっき串焼き食べたし。

「ではな」

 隻眼の男が立ち去ると、改めてその背の高さに驚く。多分2メートル近くはあるぞ。骨を軋ませるほどの握力もあるようだし、なんとなくだが、いや、私よりレベル高いだろう。去っていく姿を眺めていると、ローズさんが駆けつける。

「ルナミス様、お怪我は?」

「あ、大丈夫ですよ。あの人が助けてくれましたから」

 私はローズさんとリツさんの元に移動。

「リツさん。大丈夫?」

 声をかける。リツさんは小さく震えていた。怖かったのだろう。

「ありがとうございます、ありがとうございます。また助けてもらって…」

「気にしないでください。けがないです?」

 マリ先輩が、大丈夫と答える。治癒術かけたようだ。

「本当にありがとうございます」

 何度もお礼をいうリツさん。優しくリツさんの背中をさするマリ先輩。なんとか落ち着きを取り戻したリツさんを、間借りしているという家の近くまで送る。

 なんと王城近くの一等地。貴族屋敷の建ち並ぶ、おそらく一番大きそうな屋敷だ。

 え、ここに間借り? もしかしたらとんでもない人が親戚なのリツさん。うわあ、正門にいるガードマン・ガーディアンの持ってる槍、私の剣より絶対高いぞ。いや、ガードマン・ガーディアンが二体もいる時点で、大富豪決定だよ。

「大きなお家だね」

 マリ先輩はのんきに聞いてる。

「はい、私は敷地内の小屋を借りてます」

 え、小屋? なぜ?

「えっと、知り合いなのは家主さんなんですが、他に住んでる人から煙たがられて、小屋を貸してもらってます」

 そちらの方が気が楽だそうだ。

「今日はありがとうございました。では明日」

「うん、またね、リツちゃん」

 そう。ここまで来る間に、明日お茶をリツさんがご馳走してくれることになった。リツさんから私達の話を聞いて、知り合いの家主はいつでも連れてきていいと言われ、茶葉や茶器まで準備してくれたと。しかも明日は家人が出掛けていない。家主以外はみなリツさんを毛嫌いしていて、私達の話を聞き、来訪は全員一致で拒否。ちなみに家主以外は女性しかいない。家主はあまりの剣幕にたじたじ、結局家主は自分達がいない時に、とこっそり言ってきた。なので、明日しかない。

 リツさんはぎこちない動作でお辞儀をして屋敷の中に入っていった。それを確認し、春風亭に戻った。


「あの、ルナミス様。少しお聞きしたいことが」

「はい、何ですかローズさん」

 寝る直前にローズさんが声をかけてきた。マリ先輩はすでに夢の中だ。ローズさんはマリ先輩を気遣い小声だ。

「あのリツという方、どう思われます?」

「ああ、うーん、見た目がかなりあれですけど悪い人ではないかな」

「そうですか」

「どうしたんです?」

「初めてお会いした時にはすごく嫌な気持ちになりました。お嬢様に近づけたくもありませんでした」

 ああ、私も初めてリツさんと向き合った時、嫌悪感が溢れてきた。でも、今ではそんな嫌悪感はない。

 ローズさんは言いにくそうに続ける。

「でも、今日、あまりそんな気持ちにならなかったんです。お嬢様がリツ様を見つけた時は、なんというか、すごく嫌な気持ちになりましたけど騒ぎの後になるとそんな気持ちがなかったのです。それになぜリツ様は、あれだけ不当な扱いをされなくてはならないのでしょうか?」

 確かにそうだ、見た目がかなり醜いが、それだけであそこまでの扱いされるだろうか? 冒険者ギルド前の大きな商店、おそらく家主は上客か何かだろうが、その知り合いのリツさんを突き飛ばして追い返したのだ。普通ならあり得ない。今日の大男も故意にリツさんを傷つけようとしていたし。なぜリツさんがそうなる? 顔を隠しただ歩いてるだけなのに、回りの人達も嫌悪の表情を浮かべてた。なぜ、どうして? 初めは嫌悪感を持った私、嫌な気持ちになったローズさん。

「『呪い』とか?」

 私が考え出せる可能性はこれだけだ。人を不快にさせる呪い、そんなのがあるとは聞いたことないが。

「『呪い』ですか」

「こればっかりは私もちょっと判断つかないですね。でも、マリ先輩は何も感じないようですから、違うかも」

 そう、マリ先輩だけが、他の人と同じようにリツさんとは接している。初めから。呪いならマリ先輩にも私達のような気分になるはずだが、そんな素振りはない。

 うーん。わからん。

 いろいろ可能性を考えたが、結局まともな考えが出ず。

「ルナミス様、申し訳ありません。夜分遅くに」

「いえ、私も気になっていたことですし。まさかリツさん自身に聞くわけにもいかないし。マリ先輩に害をなす人でないならもう少し様子を見ては?」

「そうですね。しばらく様子を見ます」

 結局様子を見るで話は終わり、ベッドに潜り込む。


 運命の朝を迎える。

 私、マリ先輩、そしてリツさんの、運命の朝が。

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