帰途①
マルシェ
うーん、足りない。
宿にチェックインして、私はマジックバックの食料を確認。
食料が足りない。トウラを出発前にかなり持たされた食料が足りない。微妙に足りない。スープ鍋はすべて、パンとお菓子はほとんど獣人達に放出した。きっとリツさんもマリ先輩も許してくれるはず。予定していた日数は越してるし、トウラまで戻ることを考えると、少し足りない。
どうしよう。あ、ブラッディグリズリーのワイン煮込みならたっぷりある。パンをいくつか買えば大丈夫だね。でも、アルフさんの許可を貰わないと。
よし。
私はアルフさんとアーサーの部屋に。
こんこん
『はい』
アーサーの返事だ。
「ルナよ。アルフさん、いる?」
『あ、います』
ガチャンと鍵が開く。
「どうしたルナ?」
アルフさんは槍を磨いていた。
「ちょっとご相談が」
私は食料事情を説明。
「なんだ、そんなことか、構わんさ。なら、今日はワイン煮込みだな」
アルフさんが嬉しそう。
「ありがとうございますアルフさん、今からちょっとパンを買ってきますから」
「儂も行こう」
「大丈夫ですよ。すぐ近くにマルシェあるって聞いたから」
お断りしたがアルフさんは着いてきた。アーサーは鎧と籠手、すね当ての整備のために残ることに。荷物持ちしますと訴えたが、アーサーはリツさんの奴隷だしね。私はマジックバック持ってるしね。
私はアルフさんとマルシェに向かう。
二人で、買い物なんて初めてかも。ちょっと、ドキドキするかな?
ミュートのマルシェも賑わっている。
「ルナ、パン屋あったぞ」
さすがの身長、見つけてくれた。
私は店を覗く。
うん、ライ麦パン、バケットやカンパーニュ等が並ぶ。いい匂い。
「ライ麦パンが焼きたてだよ。うちの自慢のバケットもどうだい?」
店主の女性が、説明してくれる。
うーん、どうしよう?
「両方買ったらどうだ?」
「そうですね、じゃあライ麦パンを五個、バケット二本ください」
「毎度、ライ麦パンは600、バケットは500です」
私の冒険者ギルドカードを出す前に、アルフさんが自分のカードをかざす。
「私が払いますよ」
「いいって」
笑うアルフさん。
パン屋受け取るアルフさん。
「ふふ、いい彼氏さんだね」
「ぶはっ」
店主の言葉に私は詰まる。
「いくぞ、ルナ。まだ、買うものあるか?」
「あ、えと、リツさんから、もしオークの肉があれば欲しいって」
ミュートの近くの魔の森には、オークがよく出没するらしく、質のいい肉が手にはいるらしい。リツさん、どこからそんな情報ゲットするの?
「そうか、探してみよう」
私はマジックバックにパンを入れて、アルフさんに続く。
人が多い。肩がぶつかる。わたた。
「ほら、掴まっとれ」
アルフさんが手を伸ばしたので、掴まる。いかん、迷子になりそうだ。お言葉に甘えよう。私は子供なのだ。しばらく歩くと、肉屋を見付ける。
「今日入ったばかりのオーク肉だよー、肩、ロース、バラ、どれも新鮮だよ」
よし買おう。
ごった返す中に私は突入する。アルフさんは後方で構えている。
私は色がいい肉の塊を確保する。肩とロースをなんとかゲット。マジックバックに入れて、人垣を抜ける。
「くはあ………」
もみくちゃにされながらなんとか脱出。
よくリツさんやマリ先輩、こんな中を買い物できるなあ。魚の日なんてもっと凄いだろうに。
ちょっと尊敬する。
「凄いなあ主婦は」
アルフさんも人混みを眺めて言う。
少しでも質がよく、少しでも安く、少しでも美味しく作る。家族のために。これが、お母さんだと、リツさん。
わちゃわちゃしている人混み。うん尊敬します。
それから宿に向かう。あんまり遅いとアーサー心配するからね。
「あ、ビルツさん」
宿の前にビルツさんが立っていた。
私の声に振り返る。ほっとした表情だ。
「ああ、良かった、入れ違いにならなくて」
「ビルツ殿、どうされた?」
「実は、総隊長がアルフレッドさんにお会いしたいと」
「儂に?」
なんだろう、嫌な予感。
「鍛治関係なら、鍛治師ギルドを通してくれ」
「いえ、そうじゃないようです。少しお時間頂けませんか?」
ビルツさんがちょっと必死。
アルフさんは少し考えて、息をつき返答。
「伺おう」
アーサーがご迷惑かけたからね、お断りできないよね。
「ありがとうございます」
「ルナ、ちょっと行ってくる。直ぐに戻る」
アルフさんはそう言うが、私は不安だ。
指名依頼の話が出てたから。
「大丈夫だ、直ぐに戻る」
もう一度言って、アルフさんはビルツさんと共に行ってしまう。
私はその後ろ姿に更に不安にかられる。
宿に入り、アーサーの待つ部屋に。
「ルナさん、お帰りなさい。アルフさんは? さっきビルツさんが来て」
「うん、下で会った。アルフさんに総隊長が会いたいって」
「え、それって、自分のせいですかね?」
アーサーがちょっと狼狽える。
「違うでしょ。多分、指名依頼かも」
「指名依頼?」
私は部屋のソファーに座る。
「盗賊の残党狩りの話が出ていて、昨日実はビルツさんから、言われていたの。今、ミュートは近くの魔の森にスタンビードの危険があって、間引き作業大変なんだと思う。つまり人員不足ね。そんな所にアルフさんみたいな魔法は使える、戦闘力のある人が来たら、確保したいんじゃない?」
アーサーは少し考え込む。
「それって、アルフさんにはいいことなんですよね?」
「まあ、そうね。指名依頼なんて、そうないし、騎士団からの依頼なら、依頼料だっていいはずだし」
でも、アルフさん1人加わったとして、そんなに変わるのかな? 騎士隊にだって、アルフさんくらいの人いるだろうに。まあ、アルフさんはスキルレベルが高く、自身のレベルがやっと追い付いている感じだし。普通、スキルレベルが50近くあれば、その人のレベルも三桁にはなるって聞いたことあるけど。うーん。でも、指名依頼なんて、なかなかないし、騎士隊からなら名誉なことだしね。
私は答えながら、不安が沸き上がる。アーサーも不安そうだ。
立ったままのアーサーを対面のソファーに座らせ、アルフさんの帰りを待つ。
しかし、待てど暮らせどアルフさんは帰って来なかった。
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