獣人の三兄妹⑥
指名依頼?
獣人達と盗賊達を連れて、森を抜ける。時刻は夕方近いだが、状態を見ながらミュートに向かう。
アルフさんはアーサーと共に荷馬車に乗り込む。枷を外せないが、盗賊のアジトにあった未使用の枷を調べている。私は栗色の魔法馬に乗る。
しばらく進んで夜営となる。
私はマジックバックのスープ鍋を提供した。多分、少しだろうけど、カチカチの黒パンだけよりましなはず。きっとリツさんやマリ先輩なら、許してくれるはず。ただ、器が足りないから、分けあって飲むように言うと、理解してもらえた。何人か泣いてた。助かったという改めての安心感、そしてこれからの不安が溢れて来たんだろうな。
枷のからくりに悪戦苦闘しているアルフさんにも、スープを渡そうとこえをかける。
「どんな感じですか?」
「さあな、やるだけ、やって、あっ」
内側に刃が飛び出す。
なんて悪質なんだろう。
後ろでスープの配布は騎士達が代わってくれた。
アーサーはいまだに眠っている。
「ダメだ、なんかどこかにあるんだろうが、分からん」
アルフさんが天を仰ぐ。
渡されたスープを飲んでいると、ビルツさんがやって来た。
「アルフレッドさん、どうですか?」
「やはり、儂には無理かも知れん。副ギルドマスターに頼んだ方が早いな」
「しかし、アルフレッドさんは何でもできますね。戦闘スキルも素晴らしいし、魔法も使いこなして、鍛治に付与まで」
ビルツさんが感心する。
「まだ、お若いのに」
あ、勘違いしてる。
アルフさんはスープを飲みながら、曖昧に笑う。
見た目二十歳くらいだろうが、その倍近くあるしね。騎士団の遠征に駆り出された経歴に、鍛治師としても優秀な腕。
………手放してはならない人員だ。
リツさん、マリ先輩、ローズさん、アルフさんの胃袋、離さないでね。
「なあ、ビルツ殿、この奴隷狩りどう思う?」
「どうとは?」
アルフさんをスープを飲み干す。
「奴隷狩りにしては、人数が多いし、中にはそこそこの強そうな獣人もおるようだしな。しかも男の数が多い気がする」
私も思っていた。
奴隷が狙うのは、ほとんど女性だ。男、つまり、戦闘出来そうな成人以上は真っ先に始末される。しかも獣人は身体能力が高いことが多く、抵抗必須だ。だが保護された獣人達49人中、成人男性20人。成人女性19人、残り未成年男児女児それぞれ5人。男性が多いのが、気になっていた。
ビルツさんは声を潜める。
「多分、ワイバックかと」
「ワイバック?」
確か、今、内部分裂して不穏な空気が漂っている。
「確か内部分裂してるとか」
「そうです。一触即発な状況で、そのための尖兵に使う奴隷を集めているようです。奴隷なら使い捨てできるし、獣人なら、身体能力たかいですからね。今は枷で拘束し、後で隷属魔法で死ぬまで戦わせる予定だったと。あの盗賊が吐きました。ワイバックの人間に頼まれて獣人の村を襲ったと」
ビルツさんは、息を吐き出す。
「しかし、よく襲ったな、反撃されるだろうに」
「どうやら、麻痺性の毒を撒いて襲ったと。まあ、飛び抜けて強い獣人がいて、ずいぶん盗賊も返り討ちにあったようです。ただ、予定していた人数まで足りずに、次の村を襲いに向かっていると。その事に関しては、早馬を出しています」
間に合うといいけど。
「対岸の火事、という話ではすまなくなってきたな。このクリスタムの獣人にまで手を出すとは」
「閣下が何かしら動くでしょう」
クリスタムに飛び火しなければいいけど。
そうなるなと最前線はミュートか。
「ビルツさん、あの人達はどうなるんですか?」
私の視線の先には、肩を寄せあっている獣人達。
「住んでいた村は焼かれて、畑もだめにされて、家も焼かれ、財産らしいものは根こそぎ奪われて、しかも麻痺毒撒き散らされてますから、住むのはちょっと。ただ、ミュートでは、あれだけ受け入れる住居がありません。枷の件もありますから、一旦トウラに移動でしょうね」
「ワイバックはなぜ内部分裂しとる? 儂は最近こちらに、流れてきてよくわからんのだ」
「北の第三王子と南は第一王女で分かれて争っているようです。第三王子はクリスタムと有効関係を築きたい、第一王女は閉鎖的というか、保守派ですね。第一王女は選民意識が高く、人族以外はあまり待遇は良くなくて、住人や冒険者達も流れ出しているようです」
へぇ。
「今は大きないさかいにはなってないですが、おそらく奴隷狩りまで始めたんです。時間の問題ですね」
あんまり、良くないね、国内でやってよ、まったく。余所の国の住人を巻き込むなよ。
「その盗賊はどっち側の人間が頼まれたんだ? 話の流れからして第一王女か?」
「盗賊はそこまで知りませんでした。今から残党狩りですよ」
「大変だな」
「アルフレッドさんにも参加してほしいですよ。まだ、ソロですよね?」
「ソロはソロだが、儂、ちょっと事情あってな。あまり、ルナ達から離れられん。鍛治師ギルドもあるしな」
あ、ダメですよ。うちのアルフさんなんですよ。
ど、どうしよう、アルフさんの腕にでもしがみつくか?
残念な脳筋で言葉が出ない。
「少しくらいダメですか? ヴェルサス隊長も言ってましたよ。冒険者ギルドに指名依頼を…………」
あ、ヤバい。本格的にヤバそう。
アルフさんは、困った顔。
「あの、アルフさんは、うちのアルフさんですからッ」
ええぃ。恥を捨てて、手をバタバタと上下に振って抵抗。
ビルツさんは一瞬止まるが、直ぐに、笑う。
「失礼しました。ふふ、慕われていますね」
「ははは」
「では、私は失礼しますね」
ビルツさんは笑顔のまま戻って行った。
「ルナ」
「あ、はい」
「儂がおらんと困るか?」
「そりゃ最高レベルだし、武器とか鎧とか、鍛治の事はアルフさんに頼まないといけないし」
「それだけか?」
「だって、指名依頼なんて受けたら、なかなか帰ってこれないし、だって……」
いつか、会えなくなるのに、寂しくなるのに。
私は言葉を飲み込む。
ぐずぐず言ってると、アルフさんは笑って頭をぽんぽん。
「儂はどこにも行かん。リツ達のこともあるし、アーサーも育てんといかんし、お前がおるから、儂はどこにも行かん」
「私は、何も作れませんよ」
「本当にお前は難儀だな、まあ、頼りにされているだけでもましか」
ちょっと寂しそうに笑うアルフさん。
でも、どこにも行かないみたい、良かった。鉱山のこともあるし。うん、良かった。
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