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獣人の三兄妹⑤

「あの、妹を助けてくれてありがとう」

 獣人少年が声をかけるが、アーサーには聞こえていないようだ。

 アルフさんは、奴隷のアーサーに、様々な事をしてくいる。剣術以外の基本の戦闘スキルは、アルフさんによるものだ。フォレストダークコブラの革鎧、アダマンタイトを使った薙刀。全部、アーサー専用。まず、アーサーの装備を優先したアルフさん。

 私は息を吐き出す。

「アーサー、アルフさんは心から怒ってないよ」

 びくり、と、震えるアーサー。

「アルフさんは、心配していた。知ってる? もう君はアルフさんの身内なんだよ。だから、アーサーの事を思ってのことよ」

 顔を上げる。涙でぐちゃぐちゃだ。

「でも、ビルツさんにも、迷惑を、アルフさんが謝って、自分のせいなのに……」

「そりゃ、年長者だしね。後でビルツさんに謝ろう、私も一緒に謝ってあげるから」

 そっと肩もさする。びくり、びくり、と震える肩。小さくしゃくりあげている。

 ヴェルサスさんもやって来た。

「皆さん、もう大丈夫です。我々はクリスタム王国トウラ辺境閣下配下の騎士団です」

 ヴェルサスさんが指示を出す。騎士の一人が枷に手をかけようとして、アルフさんが待ったをかける。

「首の枷に手は出さん方がいい。からくりがあるぞ」

「外せないのか?」

 ヴェルサスさんが聞く。

「おそらく手順を踏めばいいだろうがな」

「鍵穴あるが、ダメなのか?」

 ヴェルサスさんが近くの獣人の枷を見て言う。

「いや、無理はせんほうがいい。あいつに聞いてみてから解錠した方がいい」

 そこに、引きずり出されたのは、例の盗賊。

「な、仲間を殺したら、話さないぞ」

 広間に転がる、死体を見て、虚勢を張ってる。

 アルフさんがため息をつく。

 回りを見渡し、目を止める。アーサーの薙刀だ。

 それを拾い上げる。 

「アーサー」

 アルフさんが呼ぶ。

 びくり、と震えるアーサー。

 私はそっと、背中を押す。

「さあ、挽回だよ」

「………はい」

 ぐいっと袖で顔を拭く。私の手を借りて、アーサーは立ち上がる。

 心配そうに見る獣人三人。

 アーサーは一瞬ふらついたが、自分の足で、アルフさんの元へ。

「ビルツさん、ご迷惑をおかけして、申し訳ありません」

 私も一緒に頭を下げる。

「もう、いいさ、さあ、手伝ってくれ」

「はい」

 アルフさんが薙刀をアーサーに渡す。

「さて、時間はかけん、アーサー、準備しろ」

「はい」

 アーサーは魔法の準備に入る。

 一つ息を吸って、アルフさんが、今朝放った殺気を盗賊に使う。

 近くの獣人は怯えて震えている。感覚の鋭い、獣人だ、自分に向けられなくても、感じているんだろう。

 しかし、本当にすごい殺気、私も怖い。

 盗賊は白目を剥きかける。

「ダークマインドコントロール」

 薙刀の先から、闇の霧が溢れ、盗賊を包む。

「本当に君は冒険者か?」

 ヴェルサスさんが疑いの目。

「まだ。二ヶ月にもなってない」

 アルフさんは、殺気を解除し、盗賊を確認し、答える。

 虚ろな目の盗賊。

「お見事だな。では、あの枷を外す方法は?」

「知らない、わからない」

「知ってる者は?」

「ここにはいない、別の村を襲いに行ってる」

 ここにいる以上の盗賊がいるくのか、かなり大規模だな。

「無理に外せばどうなる?」

「中で刃が、出て、死ぬ」

「本当に?」

「一人が見せしめに殺された」

 ヴェルサスさんの眉間に皺が寄る。

 数人の獣人から悲鳴が上がる。

「なんとことを。手足の枷もか?」

「それには、ない。鍵があれば、外せる」

「鍵はどこだ?」

「別の部屋の奥」

「おい、こいつを連れて鍵を探せ」

 近くの騎士に指示を出すヴェルサスさん。

「それじゃ時間かかるだろう。ルナ、儂の道具袋だしてくれ」

「あ、はい」

 私はマジックバックから預かっていた、アルフさんの道具袋を出す。アダマンタイトの小刀や針等が入った筒状に巻かれた布。

 アルフさんは、それを受け取り、近くの獣人の側にしゃがみこむ。

 獣人は怯えた表情を浮かべる。

「大丈夫だ、直ぐに外してやる」

 アルフさんはそう言って、アダマンタイトの針を出し、足枷の鍵穴に入れる

  カチャカチャ、ガチャン。

 足枷がぱかりと開いて、落ちる。

 え、あっという間だよ。

「君は本当に冒険者か?」

 ますます疑いの目のヴェルサスさん。

「昔、奴隷狩りの盗賊達を壊滅させて、その時に錠前を仕込まれてな。その時に、この首の枷と似たものを見た」

 騎士団に駆り出された時だね。

 アルフさんは、答えながら、手首の枷も外す。

「なら、首の枷も外せるんじゃないか?」

「儂の腕では無理だな」

 アルフさんが次々に枷を外す。

 半分近く外して、鍵を持った騎士が合流。

 かなり早い時間で、手足の枷が外される。

「これ、外れないの?」

 獣人の少女の枷を外すアルフさん。

「すまんな。儂じゃ外せん。だが、外せる人を知っとる」

「本当?」

「ああ、そら、外れたぞ」

 手足の枷が外される。

「誰か当てがあるのか?」

 屈んでいたアルフさんが背を伸ばす。ヴェルサスさんが聞いてくる。

「ああ、知っとる」

 アルフさんとヴェルサスさんが話し込んでいる。

 誰だろう?

「トウラの鍛治師ギルドの副ギルドマスターだ。これを外せるのは、あの人くらいだろう」

 おじいちゃんドワーフダビデさんの顔が、ポワンと浮かぶ。

 いつも豆をくれて、ほっほっほっと笑うダビデさん。あの人、すごい人なのね。

「トウラの鍛治師ギルドに正式に依頼してくれ。ただ、副ギルドマスターは結構な歳だからな、リュートまでの移動は厳しいかもしれん。まだ、リュートにギルドマスターにおるかもしれんから相談してくれ」

「分かった」

 良かった外せるみたい。

 何人かケガ人がいたが、光魔法の使える騎士が対応。総勢49人の獣人と、生き残りの盗賊8人連れ、洞窟を出た。

 私はアーサーを気にかけながら歩く。

 あの獣人達が捕らわれていた広間にはいくつもの鍵着きの扉があり、アーサーや私が通った亀裂はショートカットだったようだ、盗賊達も亀裂はしっていたが、通れないと踏んでいたようだ。

 その亀裂もアルフさんの魔法でごり押しされ、大穴になっていた。そこを通って来たんだね。

 流石土魔法スキルレベル47。

 それを見て唖然とするアーサー。

「ね、心配してたでしょ」

「はい……」

 ただ、瓦礫だらけだから、正規ルートになる。

「ねえ、お兄ちゃん、私達どうなるの?」

 不安そうな小柄な獣人少女の手を握って歩く獣人少年。小柄な少女のもう片方の手を、残バラ頭の少女が握っている。

「ミーシャ…ごめんな」

 まだ痣の残る顔で、獣人少年が眉を下げて答えている。

 洞窟を抜けて森を進む。

 その辺りから、アーサーの様子がおかしくなる。

 ぐらぐら、足取りがおかしい。

 ポーションによる負荷が出始めたようだ。

 眠気が差し出したのだ。私も経験あるからね。

「アーサー、私の肩に」

 そう言うが、その前に、アーサーは崩れ落ちる。

 支えきれず、私もバランスを崩しかけたが、アルフさんが片手でアーサーを受け止める。

 微かに、すみません、と呟くアーサーに、アルフさんは穏やかに笑う。

「休めアーサー、よく頑張ったな」

 アルフさんの言葉に、アーサーの眠気に支配されそうな青い目が少し見開いた。うっすら涙が浮かんで、眠気に負け閉じた目から、一筋こぼれ落ちる。

 アルフさんは眠りについたアーサーを背負う。薙刀は私のマジックバックに入る。

 ねえ、怒ってないでしょう。

読んでいただきありがとうございます

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