獣人の三兄妹③
アーサー続きます。
流血表現あります、ご注意ください。
短いです。
広間の入り口に現れたのは、ガッツリとした大男だ。手にはハルバート。
「ストーンバレットッ」
アーサーは石の礫を放つ。
一発、二発、三発、四発、五発。
連射できるのは、マリから聞いて知っている。後はどれだけ魔力を操れるかだ。
一発、二発目は命中する。
残りは、叩き落とされる。
おそらく、向こうも身体強化で、防御力が上がっている。ハルバートの刃に僅かだが、魔力を纏うのが分かる。
『先手を取れ』
アルフの声が響く。
『いい、相手が格上の時は、一対一では、絶対に接近はダメよ。槍は近接戦には弱いから。必ず、援護をもらって』
『お前が言うか?』
『う』
ルナとアルフの声。
(絶対に一対一なら勝てない)
アーサーは魔力を操る。
「ウォーターアローッ」
獣人少年の援護射撃。
「闇よ、抉れ、心を折り取れ」
時間を稼ぐ。
まずは相手の精神を少しでも削り取る。そうしなければ、対戦なんてできない。
「ダークランスッ」
黒い魔法の槍が、大男を直撃。
肉体的ダメージはないが、この魔法は相手の高ぶった精神を削る。大男の顔が一瞬、表情を失う。
(よしッ)
アーサーは薙刀を構えて、大男の横から斬り込む。
薙刀の先が脇腹を薙ぐが、硬い。
ちらりと見えた、多分、金属製の鎧だ。
魔法金属を含む鎧。
だが、魔力を纏ったアダマンタイトの穂先が負けることはない。鎧はばっくり割れて、大男の体を傷つける。
「くそがッ」
表情の戻った大男は、巨大なハルバートを振り回す。必死に刃を避ける。一撃でも喰らったら終わりだ。
距離を取るため、後ろに飛ぶ。
タイミングよく、獣人少年の水を矢が飛ぶ。
「ストーンバレットッ」
走りながら再び魔法を放つ。
大男の顔が怒りに染まる。
放たれた石の礫を物ともせずに、ハルバートが唸りを上げて襲いかかる。早い、避けるだけで精一杯だ。
そう、精一杯。
すぐ後ろで悲鳴が上がる。
知らず知らずに壁際に追い詰められていた。
避けたら、悲鳴を上げた人の体が引き裂かれる。
咄嗟に、左腕を出し、魔力で覆う。
【無属性魔法 覚醒】
【盾術 覚醒】
ごうんッ
アーサーの体が吹き飛び、岩壁に叩きつけれる。
魔力の盾が、大男の一撃に耐えきれず、弾ける。
肺が押し潰されるような感覚。息が、出来ない。薙刀が手から離れる。左腕がおかしな方向に向いている。焼けるような痛みが走る。
「手こずらせやがってッ」
いきり立った大男はハルバートを持ち、倒れたアーサーに向かう。
「人殺しッ」
かつんッ
石が、大男に投げられる。
獣人少年が拾った石を投げつける。魔力が底をつき、石を投げる。
「よくも、父さんを殺したな、許さないぞッ」
ナイフを構えて、牙を向く獣人少年。
イライラした大男が振り返ると、四方八方から石が飛ぶ。
「お母さんを返せッ」
「死んでしまえッ」
「村を焼きやがってッ」
「サーシャ、敵を撃ってくれッ」
「うるせいッ」
アーサーは獣人達の声を聞きながら、顔を上げる。
「水よ、流れよ、傷つきし者を満たせ、アクアリカバー」
ふわっと体の中を流れる感覚。
そこには、残バラ頭の獣人少女だ。
視界の中で、獣人少年が身を低くし、必死にハルバートを避けている。
「くたばれッ」
「みんなの敵だッ」
獣人達の罵声が続き、石が投げられる。
気配感知に、何かが引っ掛かる。アーサーは何とか体を起こす。左腕は動かない。全身の痛みが僅かに引いている。
右手に魔力を操る。
「ファイヤーボールッ」
ちょっと小さな火の玉が、天井に向かって放たれる。
「はッ、下手くそがあッ」
「時空よ、力を導け、リードッ」
天井に向かったファイヤーボールに、軌道を曲げて、大きな弧を描き、滑るように着弾する。大男の後頭部に。
「くそが、くそが、くそがあああぁぁぁぁッ」
完全に頭に血が登った大男は、獣人少年を蹴り飛ばし。
アーサーは近くにいたアーシャを右手で突き飛ばす。
「死ねッ」
唾を飛ばしながら、ハルバートを振りかざす大男に、アーサーは笑う。
だって、すぐ後ろに、いたのだ、小さい体で剣を持ち駆け寄る、黒髪の少女が。
二代目と名付けられた剣で、大男の足を狙う。がっかり鎧で守られているため、致命傷ではない。
「ルナさん……」
アーサーと大男の間に立つ少女に、獣人達は戸惑う。
ゴンゴンゴンゴン
岩の地面が揺れる。
ルナは揺れを気にすることなく、二代目を振るう。風魔法の加速され、ハルバートの刃を掻い潜り、二代目で大男の金属の鎧を切り裂く。
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