獣人の三兄妹②
アーサーです。
流血表現あります。ご注意ください。
阿鼻叫喚。
ルナが二代目を振ると、血が噴き出す。
アルフが斧を振ると、首半分がざっくり斬れる。
多分50人いるかどうかの盗賊は、次々に倒れていく。何人か、生け捕り予定で、洞窟の床に倒れている。
(やっぱり強いな。ルナさんとアルフさん、ん?)
ちょっと笑顔を見せて登場したルナに、ころっと騙された盗賊達。何人か異常と感じた時はすでに遅し、援護魔法を飛ばして、アルフと騎士達が雪崩れ込む。
初撃はアーサーも加わったが、今は混戦しているから、逃げ延びようとする盗賊を迎え撃つ。主にビルツが。そのビルツが途中で聞いてくる。
「あのルミナスという少女はなんなの?」
次々に盗賊を斬り飛ばすルナを指す。
振り返って見ると、誰もいない。
「あれ? アーサー君? アーサー君ッ」
ビルツが慌てて、叫んだ。
探されているアーサーは何となく聞こえた声に惹き付けられるように、奥に進む。
『常に気配関知を』
ルナの声が響く。
誰かいる。奥にいる。沢山いる。
『気を抜くな』
アルフの声が響く。
【火魔法 武器強化 発動】
【土魔法 身体強化 発動】
【闇魔法 身体強化 発動】
立て続けに魔法を発動。
ギリギリ通れる狭い道を進む。
悲鳴が聞こえた。女性の悲鳴だ。
(誰かいる。きっと捕まっている人達だ)
なんとか隙間のような道を抜ける。
抜けた先に、開けた場所。先ほどの広さはないが。
丸い広間のような場所に、壁際には血と土で汚れた人達が鎖で繋がれている。頭に獣の耳。
中央に薄汚れ盗賊が二人と、引きずられている獣人。そして盗賊に足蹴にされている獣人。
「きゃああぁぁッ」
「お姉ちゃんッ、助けて、お兄ちゃんッ」
泣き叫ぶ、子供の声。
『『アーサー、冷静に』』
アルフとルナの声。
アーサーはマントに付いたフードを被る。
「助けてくれッ」
叫んで広間に走り込む。
振り返る盗賊二人。
「ミュートの騎士が流れ込んで来た、今は、下で交戦している。助けてくれッ」
「なんだとッ」
盗賊二人がこっちに向かってくる。
アーサーも走り込む。アルフ特製の薙刀を握って。
「だ、誰だ、お前ッ」
気が付いた時、アーサーの薙刀が盗賊一人の首を斬りつけ、ばっくりとキズが空き、血が噴き出す。
ナイフを残った盗賊が振る。
(ルナさんより、遅いッ)
薙刀を回して、柄で叩きつけ、勢いを殺さずアダマンタイトの刃が首を薙ぐ。
鎖で繋がれている獣人から悲鳴が上がる。
アーサーは事切れたことを確認し、中央にいた二人の獣人の元に。
「大丈夫ですか? 今、助けが来ますから」
引きずられていた獣人は、足蹴にされていた獣人を助け起こしている。
「助け、て、くれるんですか?」
引きずられていた獣人は少女だ。汚れているが、青みがかった銀色髪は残バラ頭だが、綺麗な顔立ちだ。服がびりびりだ。
(あいつらに襲われていたのか、まだ、未遂みたいだ、間に合って良かった。綺麗な子だな。でも、リツ様の方が、綺麗だな)
アーサーはマントを脱いで、少女の肩にかける。
「そうです。今、助けが来ますから。もう大丈夫ですよ」
歓声が上がる。
「兄さん、助かったよ」
「ああ…」
足蹴にされていた獣人が何とか身を起こす。こちらは青年一歩手前の少年だ。顔が酷く腫れてる。
細身だが、鍛えられた体つき。青みがかった銀色の髪。アーサーよりいくつか年上のようだ。
そして獣人全員の首に鉄製の首輪、手首、足首にも枷と鎖。
(なんて酷いことを。きっと妹を守ろうとしたんだな)
アーサーは腰のポーチからルナに持たされたポーションを出す。
「飲んでください」
少女が戸惑っている。
「さ、飲んで」
アーサーはポーションを押し付ける。
(リツ様なら、絶対ほおっておかない)
少女に助けてもらいポーションを飲む獣人少年。
「お兄ちゃんッ、お姉ちゃんッ」
壁際の少女が声を上げる。
「ミーシャ、もう大丈夫よ」
残バラ頭の少女が返事をする。
「他に重症な方は?」
立ち上がると、獣人少年がアーサーの腕を掴む。
「どうしました?」
ポーションで腫れが大分引いた顔に焦りの表情。
「誰か来る」
「きっと、助けに来てくれた騎士の人達ですよ」
「違う。絶対違う。あいつだ、父さんを殺した奴だ。あいつの足音だ」
表情を見る限り嘘を言っているとは思えない。アーサーは立ち上がり、薙刀を握り締める。
少年も何とか立ち上がる。
「アーシャ、下がってろ」
「兄さん…」
「貴方も下がってください」
獣人少年は首を振る。
「多分、一人じゃ勝てない」
「時間稼ぎします。きっと騎士達が来てくれます」
きっと、アルフさんがルナさんが来てくれる。そう、アーサーは確信していた。
「鎖、切ってくれ。俺は水と光の魔法を使える。せめて援護する」
「……援護ですよ。妹さんの近くにいてください」
アーサーは薙刀の先で足と手を繋いでいた鎖を切断、魔力回復ポーションを渡す。
続けて身体強化の魔法を発動。
獣人少年は、盗賊の落としたナイフを拾い上げる。
アーサーの気配感知に反応。
(嫌な予感がする)
掌に汗が滲む。
「お兄ちゃん…」
不安そうな少女の声が、アーサーを立たせている。
アーシャと呼ばれた残バラ頭の少女が、壁際で小柄の少女を抱き締めている。
『アーサー、魔法が使える戦士は、基本的に身体強化を使う。ただ剣を振り回すだけなら誰でもできる。この身体強化を使うだけで、同じレベルの相手でも圧倒できる。いいな、集中力を切らすな。魔力を操れ、お前はそれだけの素質がある』
アルフの声。
『アーサー、君は恵まれた魔力スキルがある。いい、魔力残量に気をつけて。周りに常に気を配って、戦場を把握して』
ルナの声。
前を進む二人の姿が、見えた。
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