獣人の三兄妹①
絡まれる
魔法馬は順調に駆けて行く。
昼近くで休憩。かなり早く駆けたから、おそらく昨日荷馬車で移動した距離以上にすすんだはず。
アーサーが再び闇魔法発動。アルフさんがいい笑顔を浮かべただけで、盗賊は気絶しそうになる。
「アルフさん」
私がこっそり聞く。
「なんだルナ?」
「あの殺気、普通のじゃないでしょ」
「気がついたか。あれはある人の真似をしとるだけだ」
「誰の真似です?」
「秘密だ」
教えてもらえないようだ。仕方ない。
「や、やめてください…」
アーサーが抵抗する声。
振り返ると、騎士の一人にアーサーが絡まれている。薙刀を取られそうになっている。
「奴隷の癖に生意気だぞ、その槍、寄越せ」
向かおうとする私を手で制し、アルフさんが間に入る。
「止めてもらおうか、今はそんなことしとる時じゃなかろう」
「なんだ、お前の奴隷か?」
「いいや。こいつの主人には世話になっとる。他人の奴隷に手を出せばどうなるか分かっておるだろう?」
「奴隷の分際で身分不相応の槍を持たすのが悪いんだ」
まあ、アルフさん特製の薙刀で、付与もがっつり付いているからね。確かに、奴隷に持たせるには贅沢だ。しかも、コブラの革鎧一式、グレイキルスパイダーのマント。材料だけでも高級品。身分不相応と言われても仕方ないかも。
「なら、鍛治師ギルドで注文を受けるぞ。最低予算だ」
アルフさんが付きだした手には、先日ハバルさんがバーンに提示したものだ。
「因みに付与はなし、儂にしか扱えんから指名料もらうぞ。そうさな、お前からはいくらもらおうかな?」
ふっかける気だ。
「ふざけるな、普通の剣の桁が違うじゃないか」
「そうだ」
騎士がアルフさんに掴みかかるが、ヴェルサスさんが怒鳴り声の響く。
「何をしているッ、すまん、部下が無礼を働いた」
アルフさんと絡んできた騎士の間に立ち、謝罪してきた。
「いいさ」
ヴェルサスさんが睨むと、絡んできた騎士はすごすご下がる。
「君は冒険者ではないのか? 武器も作れるようだが」
「ん? ああ、儂は鍛治師が本職なんだ。冒険者はつい最近なってな」
え、そのガタイで、みたいな視線がアルフさんに突き刺さる。
「まさかと思うが、この鎧の作成にも携わっていたのか?」
ヴェルサスさんは、トウラの鍛治師ギルド見た、中隊長の鎧一式を纏っている。昨日納品したものだ。
「そうだ。主に付与だがな」
「そうか」
一息つくヴェルサスさん。
「確かに、彼の持つ槍は素晴らしい。私にも一振り作ってほしいくらいだ」
「アーサーはうちのホープだからな。これが予算。最低予算。ヴェルサス殿なら指名料は割引するぞ」
「………考えさせてくれ」
アーサーが私の袖を引く。
「この槍、買ったらいくらなんですか?」
「分からないよ。知らない方がいいって。私だってもらった武器類の額知らないんだから」
こそこそ話す。
多分、マントと革鎧含めたら、アーサーの奴隷として購入以上の額になるだろう。私の最後の剣の額は、もっとする。あれ? 値段つくのかな?
いかん、いかん。
しばらくアルフさんとヴェルサスさんが話をして再出発。
私の後ろにアーサー。
ビルツさんから姉弟か疑われたが、他人です。髪の色が似てるし、目の色も同じ青だしね。何故かアーサーが弟に勘違いされる。まあ、私も、弟みたいな感じに思えるんだよね。アーサー、時々かわいいから。エリックはしっかり者だ。昔は可愛くてせがまれてよく肩車して走ったなあ。元気かな。
そんな事を思っていると、目的地に到着。
岩山、槍の様に飛び出した岩。
あそこか。
盗賊の話によれば、今日の朝には獣人達が運び込まれていると。
急いだ方がいいな、何をされるか分からない。特に女性は。
何人かの騎士は、荷馬車と共に残り、私達三人と騎士二十五人、盗賊一人で森の中に。
アーサーは生け捕りにした盗賊を精神支配するために、なら、私とアルフさんも当然つきますよ。
私は残るように言われたけどお断り。
「アーサーの同行には、私が条件のはずです。それに、小さな子供や女性には、私が対応したほうがいいだろうし」
そう、女は私だけ。散々怖い思いしているだろう。言っちゃ悪いけど、皆さん顔ごついよ。アーサーとアルフさんは除くけど。そうなれば、一応女の私が役にたつはず。
私は二代目を下げる。盗賊は一刀両断だ。例え殺しても、罪には問われない。相手はそんな奴等だ。
「ルナ、顔」
アルフさんに言われました。
いかん、いかん。
アルフさんがいい笑顔を浮かべて槍で盗賊をつつく。
今は槍の様に飛び出した岩の下。洞窟の入り口が広がる。見張りが二人。
ひぃ、と盗賊は悲鳴を上げる。
とぼとぼと入り口に向かう。
どうした? 一人か? 怪我人がいる、手を貸してくれ。
なんて会話が聞こえる。まあ、殴られたあとあるから、真実味があるだろう。案の定、二人の見張りが私達の方へ。
ゴツン、ゴツン。
あっという間に昏倒する。猿轡にぐるぐる巻き。
中はほぼ一歩道。奥に広く、小部屋がいくつか。入り口に数人置き、中に入る。
気配関知と索敵のスキルが高いアルフさんも参加。私もアーサーも付いていく。
「アーサー、こいつを持っとれ」
アルフさんがアーサーにナイフを渡し、斧を持つ。狭い洞窟内で槍は不向きだからね。
洞窟に入る前に、守護天使バートル様に祈りを捧げる。
アーサーが私とアルフさんに支援魔法発動。自身の身体強化魔法発動。
盗賊を先頭にして、洞窟内へ。
捕らえられた獣人は一ヶ所に集められるらしい。まずは人質と成りうる人達を解放しないと。
そっと、進み、たまに出くわす盗賊をヴェルサスさんや騎士達が始末する。みんな動きがいい。
「よし、アーサー、ルナ、ここにおれ」
洞窟を進み、盗賊が言っていた開けた場所。あちこち灯りもあれば、天井からも光が射し込んでいる。
案内役の盗賊に、獣人の集められるている部屋に、数人の騎士と共に進んでいく。
アルフさんが振り返って言うが、私は首を振る。
「囮になります」
「ならん、ならん、絶対ならん」
アルフさんが鋭く言う。
「大丈夫ですよ、アルフさんが守ってくれるでしょう?」
「………お前なあ」
肩を落とすアルフさん。
「ヴェルサスさん、ということで。アーサー、ここにいなさい」
「君、ちょっと…」
私はマントの下で二代目を抜く。
負ける気がしない。
読んでいただきありがとうございます