納品③
騎士団
ミュートには夕方到着する。
トウラにも負けない城塞都市だ。
騎士団にギルドマスターとマルコフさんが、説明する。途中でアルフさんも呼ばれる。
しばらくして戻って来る。
中年の騎士が着いてきた。
「明日、盗賊のアジトに攻め混むと。で、アーサーに手伝って欲しいって。まあ、主人のリツと今、冒険者ギルドから連絡はいっとるから、もしリツから許可出なければダメだがな」
クレイハート製の通信用魔道具ね。
「自分ですか? お役に立てますかね?」
中年の騎士はアーサーの奴隷紋を見て、一瞬迷う。
「私は今回指揮を取る、ヴェルサスだ。君は闇魔法が使えるようだな。あの盗賊にアジトの案内をさせるために、力を貸して欲しい」
奴隷相手でも丁寧な対応。
アーサーは考えて返答。
「リツ様の許しがあれば、自分でよければお手伝いします」
「感謝する」
一旦、ヴェルサスさんは戻り、私達は鍛治師ギルドに向かう。
荷台から荷物が降ろされ、運び込まれる。バルハさんがサインして、やっと納品が終わる。
「なんか、大事になったね。アーサー君大丈夫?」
バーンが心配そうに聞いてくる。この人、根はいい人なんだね。
「はい、大丈夫です」
「まあ、リツが無茶なことはさせんだろう」
そうね、リツさんなら、軽く行ってこいとか絶対言わない。行くと許可を出しても、多分私かアルフさんが同行が条件に出すだろう。
バルハさんが手配した宿に入る。私は一人部屋、アルフさんとアーサーは二人部屋。宿の受け付けの人はアーサーの奴隷紋にいい顔はしなかったが、鍵を渡した。食事は付いていたが、お断り。奴隷は食事の為に食堂に入れないからね。それにリツさん達から持たされたお弁当の方が断然美味しいし。
「すみません、夕食、自分のせいですよね、すみません」
しきりに謝るアーサー。
「気にするな。リツ達の弁当の方が旨いしな。さ、頂こう」
アルフさん達の部屋に私が合流し、マジックバックからお弁当を出す。
おにぎりに生姜焼、リツさん特製腸詰め、卵焼き、白身魚のソテー、カボチャのサラダ。うん、豪華。
お昼もそこそこだったし、お腹ペコペコ。
食後にお茶と、マリ先輩のアップルパイを頂く。
ああ、美味しい。
片付けて、さあ、どうしようかと話していると、宿の従業員が呼びにきた。ロビーに降りると若い騎士がいる。
「ミュート騎士団、ビルツです。ヴェルサス隊長からの言付けを預かって来ました」
一礼する。
「トウラのサイトウ殿から奴隷アーサーの作戦参加の許可をいただきました。ただ、アルフレッド殿とルミナス殿の同行が絶対条件ということですが、アルフレッド殿は貴方でよろしいでしょうか?」
若い騎士、ビルツがアルフさんを見上げる。
「ああ、儂がアルフレッドだ」
「ルミナス殿は?」
手を上げると、ん? みたいな顔。まあ、しょうがないよね、いざ、グラウス・バッシュ。私は冒険者カードを出すと、見比べられられた。
「失礼しました」
「いいえ」
「明日の参加、よろしいでしょうか?」
「儂は構わん。ルナは?」
「私も問題ありません」
「では、明朝。あ、最後にサイトウ殿から伝言です。『気をつけて、必ず、皆帰って来て』とだそうです。いい主人ですね」
ビルツはそう言うと、アーサーははみかむ様に笑う。
「はい」
一礼して、ビルツは帰って行った。
「さ、明日の為に休むか」
アルフさんが私とアーサーに声をかける。
アーサーは少し不安そうだったが、私は肩を叩く。
「何が不安?」
「自分が役に立てるか不安で…」
「なんだ、そんなこと。アーサー、君は優秀。大丈夫、大丈夫よ」
「ルナさん…」
私が笑う。アルフさんもアーサーの肩を叩く。
「そうだな、お前は、儂らの期待に応えている。想像以上には。何も心配するな。それに儂らも一緒に行くんだ。心配するな」
アーサーがちょっと泣きそうだ。
「さ、明日に備えて寝るぞ。ルナ、お休み」
「はい、お休みなさいアルフさん。アーサー、お休み」
「はい、お休みなさいルナさん」
私達は、それぞれの部屋に戻り、明日に備えて就眠した。
次の日の朝、早起きして、アルフさんの部屋で朝食を採る。
マリ先輩特製のバケットに、野菜やチーズ、ハム、卵、様々な具材の挟まったホットドッグだ。なんだろう、魔物の名前みたいだけど、食べると美味しい。カボチャのスープ付き。
「さ、アーサー、しっかり食べて」
私が緊張気味のアーサーにホットドッグを渡す。
「あ、ありがとうございます」
私もせっせと食べる。
カボチャのスープ、自画自賛だけど、美味しい。リツさんのレシピ、完璧だ。
朝食を食べて、準備して、ロビーで待つ。
「おはようございます。準備はよろしいですか?」
ビルツがやって来て、私達は城門近くの詰所に。
昨日の盗賊が縛られている。
「俺は何も話さないぞッ」
殴られた後があるけど、吠える盗賊。かなり気がたってる。
私達を見ると牙を剥かんばかりの顔だ。
ヴェルサスさんが、渋い顔で、アーサーに聞く。
「ある程度の場所は分かっているが、地下となると案内がいる。闇魔法で、こいつをなんとか出来るか?」
かなり興奮しているから、効かないかも。
「ちょっと、自信がありません。昨日はアルフさんやマルコフさんが追い詰めてくれたから、なんとかなりましたけど」
「痛め付けても、こうだからな」
ヴェルサスさんが、更に渋く困った顔。
「何も痛みだけが、追い詰めるわけではなかろう?」
アルフさんが前に出る。
「時間が惜しいだろう? ちょっとやってもいいか?」
「何をする?」
更に渋い顔のヴェルサスさんにアルフさんはゴニョゴニョ。頷くヴェルサスさん。
「アーサー、準備してろ」
「はい」
アーサーは薙刀を構える。
アルフさんは、盗賊の前に立つ。
ゆっくり、アルフさんを中心に空気が凍りついて行く。
ああ、これ、殺気だ。
周りの空気を、震わせる程の殺気。
普通、こんなに明らかな殺気なんて出せるのは、よほどの高レベルじゃないと無理。アルフさんのレベルだと、ちょっと厳しいはずなのに。何かからくりありそう。
………でも、本当に怒らせたらいけない人だね。
盗賊の顔から、血の気が、引く。
あら、漏らしましたね。
「ダークマインドコントロール」
アーサーの薙刀の先から、闇の霧が流れる。
盗賊の目から光が失われる。
「よし、アーサー、よくやった」
アルフさんから出ていた凍りつく空気が、なくなり、いつもの顔で振り返る。
ヴェルサスさんが、驚いた表情だ。
「なんて殺気だ。君は一体」
「秘密だ」
アルフさんは答える気がない。
ぐったりした盗賊を数人の騎士がかかえる。
外に出ると、魔法馬がずらりと並ぶ。あれで移動か。二頭立ての荷馬車もある。盗賊は荷馬車に放り込まれる。昨日の状況から、2~3時間はこのままだ。覚醒する前に、再び魔法を発動する予定、まあ、また精神的に追い詰めてからだけど。自決でもされなら、いろいろわからなくなるし。
「馬に乗れるますか?」
ビルツが聞いてくる。
「まあ、一応。ルナは?」
「乗れます。アーサー、私の後ろに乗って。腰に手を回して、しっかり持ちなさいよ。振り落とされたら大怪我ではすまないからね」
「いや、儂の後ろに」
「重量オーバーでしょ」
何故か、ぐさり、みたいなアルフさん。
だってあの背丈に、あの筋肉だよ、絶対私の倍は体重あるはず。
いくら魔法馬でも、少しでも軽い方がいい。
栗色の魔法馬を貸してもらい、鞍に跨がる。アーサーを引き上げて、おっかなびっくり私の腰に手を回す。アルフさんは黒い馬だ。
バルハさんとマルコフさん『ハーベの光』が見送ってくれる。
「アルフ、嬢ちゃん、坊主、気を付けてな」
「俺達は昨日の盗賊回収に回る。アルフ、大丈夫だと思うが、気を付けて、ルナ君、アーサー君もな」
マルコフさんにも言われて、私達は頷く。
城門が開き、ヴェルサスさんを先頭に、私達を乗せた魔法馬が駆け出した。
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