納品②
テンプレート?
流血表現あります。ご注意ください。
夜営地での朝を迎える。
私は荷台でマントにくるまって寝ていた。
コンッ
小さな音に、私は目を覚ます。
私はそっと動いて、剣、初代を確認し、幌の隙間から外のアルフさんを覗く。
無言で槍を握り直すアルフさん。気配感知を展開すると、あ、いる。
アーサーも起きてる。マルコフさん達も起きてる。さりげなく、武器を確認している。バルハさんまで、メイスを握っている。
【風魔法 身体強化 発動】
【火魔法 武器強化 発動】
よし、準備完了。
アルフさんが動かず小さく槍を地面に突く。
コツン
【風魔法 攻撃 発動】
コツン
朝靄のなか、敵影確認。
コツン
「ウインドスラッシュッ」
「アースランスッ」
「ストーンバレットッ」
「ウインドスラッシュッ」
私の風の刃が、アルフさんとアーサーの土魔法が、イレイサーの魔法が、朝靄を切り裂き、悲鳴が上がる。
私は荷台から飛び降りる。
「ちくしょうッ、殺せ殺せッ」
響く男の声。
汚い成りの男達が、荷馬車を囲っている。
噂の盗賊だろう。
本当にマリ先輩達を連れてこなくて正解だ。
私達は荷馬車の右側、マルコフさん『バーンの光』は左側。
「女がいるぞッ、捕まえろッ、犯せッ」
誰が捕まるか。
私は初代を迷わず振るう。次々に血を噴き出す盗賊。叫んだ男も切り伏せる。
アルフさんも一撃で倒している。ゴブリンジェネラルも一突きできるアルフさんの前に、身体強化もしてない人間はあまりにも脆い。
「死ねッ」
大きな斧を構えた大男が、突進してくるが、アルフさんのアースランスで吹き飛ばされる。首が変な方向に曲がる。
視界が少しずつ広がり、更に飛び出す盗賊を切り伏せる。
「ルナ、近くに」
アルフさんが呼ぶ。
私は後退し、表情一つ変えないアルフさんの隣へ。
対人戦初のアーサーも返り血を少し浴びているが、青ざめながらも薙刀を握り締めて構えを解かない。昨日、安全が確認出来なければ、決して警戒を解くな、とアルフさんに言われていたのを、実践している。
あまり視界がよろしくないため、二代目の衝撃斬刃は使えない。
ジリジリと近づいてくる、盗賊連中。あまり、賢くないな。魔法を使えるのに、放たずに私達が待っていることに気付いていない。
「大地よ、我が意思に耳を傾けよ」
アルフさんが魔力を操る。
「アースフォールッ」
ズガガガガガッ
「うわああぁぁぁぁぁ」
盗賊達の足元の地面がなくなり、大穴が空く。
真っ直ぐ落ちていく盗賊達、鈍い音が響き、悲鳴が上がる。
難を逃れたのは二人だけ。
「アーサーッ」
「ストーンバレットッ」
私の声に、魔法を放つアーサー。石の礫は見事1人の顔面に命中。私は風魔法で強化され、カラーシープのカーゴパンツやグレイキルスパイダーのマントの補助を受けて、一気に距離を縮めて、首筋を一閃。そのまま穴に落ちていく。石の礫も顔面が受けた男も穴に蹴り飛ばす。
よし、こちらは終了。
マルコフさん達も、終わったようだ。
「大丈夫かアーサー?」
薙刀を握り締めているアーサーに、アルフさんが声をかける。
「は、はい、大丈夫です…」
息を整え、アーサーは返事をする。
右ほほから流血している。
「アーサー」
「はい」
「よく聞け。戦闘で決して気を抜くな。こんな連中を後ろに通したらリツ達がどうなるか分かるな?」
アルフさんの言葉に、アーサーは息を飲む。
「はい、すみません…」
ぽん、と、アルフさんがアーサーの肩を叩く。
「アーサー、手当しよう。こっち来て」
私はマジックバックから救急箱を出す。
マルコフさんのほうでは、三人ほど生け捕りにして、縛り上げてる。そちらはお任せします。
「さて、どうするかな?」
バルハさんがメイスを肩に担ぐ。
アルフさんは気配感知と索敵を展開し、周囲の確認。
「近くには、もうおらんな」
「そうか、一人だけミュートにつれていけばいいか。二人はあの穴に放り込むか」
脅しだ。どちらにしても、ミュートの騎士団に突き出す予定だから、今日になるか、明日以降になるかだ。
アルフさんとマルコフさんが一人ずつ片手で持ち上げる。二人ともすごい腕力だ。もう一人は、穴の縁に立たされる。
「さて、アジトの場所を正解に言えるものだけ、連れていこう。さあ、誰が話す?」
バルハさんがメイスで肩を叩く。
「ふざけんな、話せるかッ」
「そうだ、言えるかッ」
唾を吐きそうな勢いで、怒鳴る盗賊。
「そうか。落とせ」
バルハさんが言うと、アルフさんとマルコフさんは持ち上げていた盗賊を、穴に落とす。
「うわああぁぁぁぁぁッ」
残ったのは、縁に立つ一人。
「俺を落としたら、アジトの場所は分からなくなるぞッ」
「構わんさ、アジトの場所なら、お前が話す。アーサー、こっちに」
ポーションを湿らしたガーゼを当てているアーサーを、アルフさんが呼ぶ。
「はい、なんでしょうか?」
アルフさんとアーサーがゴニョゴニョ話している。
「闇よ、覆え、従えよ、我の手駒に成り下げよ」
アーサーが薙刀の先を、残った男に向ける。
男の表情がひきつる。アルフさんの槍の穂先、マルコフさんの剣先も首筋に微妙な位置に刺さる。皮膚に刺さるかどうかの位置。後ろには穴。
「ダークマインドコントロール」
意識を支配する魔法だ。ただ、相手が精神が混乱や低下しているか、闇魔法レベルが高くないと効かない。
なので、アルフさんとマルコフさんが、男を追い詰める。先端が少し刺さって血が流れ落ちる。
薙刀の先から黒い霧が流れて、男を覆いつくす。
男の目から光が消える。
その場に崩れ落ちる。
「よし、効いたようだな。よくやったアーサー」
アルフさんに誉められて、ほっとした表情のアーサー。
「さて、アジトはどこじゃ?」
バルハさんが崩れ落ちた男に聞く。
「ミュートとナインバッハの間、東の森の中、岩山の洞窟、中は地下が広がる」
「目印は?」
「岩山の一ヵ所、飛び出した岩がある。その下」
「残りの数は?」
「50くらい」
「何を奪った?」
「金、もうすぐ獣人の一族が来る」
バルハさんが息を吐き出す。
「質が悪い、奴隷狩りか」
「どうする、ギルドマスター? 話を聞いた以上、ほってはおけん」
「とにかく、ミュートに急ごう。こいつは連れていくぞ。道案内させる」
「分かった」
アルフさんが男を気絶させて、荷台に放り込む。
穴の下で、盗賊が喚く。
アルフさんはもう一段穴を深くし、脱出不可能にする。
「相変わらず、いい腕だ」
マルコフさんが、アルフさんを称賛。
さすが騎士団に駆り出された魔法職。私も誇らしい。アルフさんのことだけどね。
アーサーもそんな感じみたい。
「なんだか、アルフさんが誉められいると、自分も嬉しいです」
「そうね」
「ルナ、アーサー、行くぞ」
アルフさんが呼ぶ。
男を放り込まれた荷台には、『ハーベの光』が見張りとして乗り込んだ。もう一台に乗ると、直ぐに出発した。
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