再び出会う①
「いらっしゃいませ、三名様ですね。こちらのテーブルにどうぞ」
「お待たせしました。ウサギ肉のスープ、オークのステーキ、エールでございます」
こちらルナです。
只今、低ランク依頼の食堂のウエイトレスを、マリ先輩とローズさんが受けてます。薬草採取だけでは、ランクを上げるのに時間がかかり、こうした町の人達からの依頼もこなして評価される。何より確実な収入になる。初回の薬草採取以後、二人が選んだのはこのウエイトレス急募だった。何でもウエイトレスの奥さんが急病らしく困っていたと。
私は台所の隅で皿洗い。マリ先輩とローズさんの近くにいるため、安くでもいいので雇ってほしいと伝えると歓迎された。
マリ先輩は始めはぎこちなさもあったが、今では可愛い笑顔の看板娘。ローズさんは優秀なメイドの能力を生かして、食堂内を動いている。それは惚れ惚れする程の働きだ。注文を受け食事を運び、空の皿を下げ、会計し、テーブルの汚れを取り去る。流れる様な動きだ。美しい。本当に美しい。多分、マリ先輩の三倍以上動いてる。
私はひたすら皿を洗う、洗う、洗う。たまに野菜も洗う。
【風魔法 身体強化 発動】
何やってるって? 魔法の鍛練です。魔力感知の鍛練です。
一度マリ先輩に絡んで来た輩がいたが、これはローズさんが撃退。
「マリ様とお近づきになりたいのでしたら、まず私を飲み負かしてからです。私が負けたら一晩お付き合いしましょう。私が勝ったら私の分もお支払してください」
この条件で男は二つ返事で了承。エールを飲み会うが、開始され始めは余裕を見せていた男は段々その余裕がなくなる。ローズさんが次々エールのジョッキをあけたからだ。大の男が千鳥足になる程にべろべろでも、ローズさんは顔色一つ変わらなかった。心配でこっそりナイフを隠し持って後ろに控えていたのは内緒。挑んだローズさんが請求額を渡すと男の赤い顔が真っ青になった。ローズさんの飲んだ額も含まれていたから。真っ青になって文句を言う男にローズさんは淡々と。
「では、もうひと勝負」
「ごめんなさい。払います」
男は観念して財布を空にし、払って帰った。最後にローズさんが丁寧にお辞儀をしてお見送り。逃げるように帰ったよ。あんな風に撃退できるのだと、学んだが、絶対に真似できない。
そんなこともありながらクエストは無事終了。
「いやぁ、本当に助かったよ。できればずっと働いて欲しいくらいだよ」
食堂の店主は、満面の笑顔。二人を目当てにお客さんがつきだしたこともあったが、やはりローズさんのメイド力。これが、大きいのだろう。
「冒険者が嫌になったらいつでもおいで、うちには子供が独立したから空き部屋あるし、三人だとちょっと狭いけどね、でも夕飯つけるよ」
「ありがとうございます。冒険者に向いていなかったらお願いしますね」
笑顔でマリ先輩で答える。いや、あなたは伯爵令嬢だよ。冒険者ダメなら帰らなきゃダメでしょ。それにウエイトレスなんてしなくても、十分生活できるだけの財力(コロッケとかの特許ね)あるでしょう。
しっかり7日働いてマリ先輩とローズさんは、1人56000G受け取った。私は未成年で無理言って雇ってもらったので35000G、結構頂けました。まあ、緊急依頼で少しお高め、昼前から夕食時間まで働いたが、しっかり賄い付き。
「本当にいつでもおいで」
店主に見送られ、食堂を後にする。
「こうやって、ランクを上げていくのね」
「そうです。ただ魔物を狩ったり、薬草採取だけではありません。冒険者ギルドは生活、社会に密接に接していますから、こうやって、低ランクの時は人々の生活のお手伝いをして、対人関係など学びます。そういった社会に向き合えるかを見るのが、低ランクのH、Gランクです」
「なるほど」
感心するマリ先輩。
「しっかり働いたので明日はお休みにしましょうか?」
「うーん、そうだね。お休みにする。ローズもお休みね」
「でもマリ様」
「ダメよ。うちはブラックじゃないんだから」
何、ブラックって。
少し考えてローズさんもしぶしぶ了承。
私も休むかな、
洗濯や剣の手入れしますかね。
「ねぇルナちゃん、春風亭延長どうする? いっそのこと家とか借りたほうがいいと思うけど」
「この首都を拠点にするなら、それも手ですが」
だからあなた伯爵令嬢なんだから、春風亭に何年でも泊まれると思うけど。いや、もっと高級宿でもいけると思うけど。
「マリ様、部屋を借りるとなればまとまった額が必要ですが、低ランクの私たちでは、保証人や保証金も必要です。もし別の街に拠点を置くことも考えるとしばらく春風亭がよろしいかと思います」
「そっか、分かった」
ローズさんの言葉にマリ先輩は素直に頷く。
確かに、そうだね。低ランクの冒険者の借りれる部屋は、基本的に立地や治安は良くない。そんなところに可愛いマリ先輩や美人のローズさんを連れて出歩きたくない。春風亭くらいが丁度いい。確かに月単位で考えたら、部屋を借りたほうがいいのだろうが、無理をする必要はない。ガイスやマルベールの冒険者ギルドからもらった資金もあるから、しばらくは大丈夫。
「ルナちゃん、それで大丈夫? お金は大丈夫?」
「はい、大丈夫ですよ。少なくとも2~3月は春風亭に泊まるくらいの予算あるので」
「なら、いいけど」
「大丈夫ですよ。そのうち、ゴブリン狩りでもして稼ぎます」
首都だから、冒険者も潤沢にいるから、ゴブリンなんて少ないかと思われるが、そんなことはない。何故か狩っても狩っても、いるのだゴブリンは。巣の討伐とかあればしばらくは沸いて来ないが、気がついたらいるのだゴブリンが。
「危ないよ」
マリ先輩の心配な顔。うん、可愛い。
「10匹くらい出ても大丈夫ですよ。私のレベル知ってますよね」
そう、私のレベルは24。同年代にしたらかなり高い。マルベールに来るまでにずいぶんゴブリンを狩った。旅費のために。気がついたらこのレベルだ。この世界にはレベルが存在する。レベルが高ければ強い、1人の高レベルに、低レベルが束になっても勝てない。一騎当千だ。
「でも、危ないよ。とにかく春風亭は延長だね。ゴブリン倒しに行くときはついて行くからね。私、光魔法使えるから」
「分かっていますよ。但し、戦闘に関しては私の指示に従ってください無理に前に出たり、指示に従わないなら、即帰りますからね」
「うん、分かった」
ゴブリンは一体の強さはたかがしれてる。一対一なら、力のある農夫でも倒せる。しかしゴブリンは単独行動はしない、そしてその怖さは数もそうだが、人間の女性を好むのだ。雌個体が少ないために別の苗床にする。ゴブリンは人型のためにより人間の女性を好む。そんな魔物の近くにマリ先輩やローズさんを連れて行く訳には行かない。そんな私の考えはマリ先輩に悟られないように表情をつくる。
安全策だ。後でローズさんだけには話しておこう。
春風亭に着くまで、これからのことで話が尽きることはなかった。