納品①
マント
あれから2週間たった。
アルフさんとリツさんはほぼ毎日鍛治師ギルドに通っている。
平行してグレイキルスパイダーのマントの製作も進む。まず、アルフさんのマントができ、私のマントが出来上がる。軽い、そして、動きやすい。
いいのかなあ、きっととんでもない額よね。
もともと、魔鉄も切り裂くような糸でできた布だ。物理的防御力は十分にある。そのため付与は基本的に中の自動修復、魔法防御、空調管理、衝撃吸収、小の結界。魔石を使用し、アルフさんは中の土魔法補助、私は風魔法補助。本当にいくらするんだろう?
アーサーのマントも無事出来上がる。ブラックトレントの魔石を提供した。付与は土魔法補助、魔石のお陰で闇魔法補助付き。
色は私は緑がかった灰色。アルフさんは落ち着いた茶色。アーサーは柔らかい印象を与える黒だ。
「で、皆さんは?」
私が聞くと、止まってました。慌ててサイズ測ってる。
………忘れてましたね。一番装備が必要なのに。
「どうだ? アーサー?」
漸くアーサーの薙刀完成。いつまでも私の薙刀を貸し出しするわけにもいかないからね。刃の部分は私の薙刀と同じサイズ。柄はアーサーの手のサイズに合わせてある。ブラックトレントにフォレストダークコブラの革を滑り止めで巻き付けている。アダマンタイトに芯にミスリル使用したらしい。豪華だよ、とても豪華だよ。付与は中の火・土魔法補助、自動修復、衝撃吸収、重量軽減、小の硬化強化。潜在付与は闇魔法補助。魔石をふんだんに使った様子です。多少重量が増すが、アーサーのレベルなら問題なく振り回せるはずだ。
アーサーの装備、黒ばっかりだ。
だが、アーサーや薙刀の刃で、材料も尽きた。アルフさんが鋏を作る時になんとか手に入れた材料だったが、もうない。
「あの、本当にいいんですか?」
嬉しそうに、薙刀を握り締めて離す気がないアーサーが聞く。
「いいさ、どの道、その刃のぐらいしか材料残っとらんかったしな。リツ達を守ってもらわんといかんしな」
「あ、ありがとうございます。自分、頑張ります」
アーサーは更にやる気が出たのか、興味が沸いたのか、簡単な錬金術にも挑戦。この子、本当にがんばり屋。戦闘・魔力系スキルアップを計り、庭整備をして、開いた時間でリツさんから借りた錬金術資料を読み込む。
………いかん、私も頑張ろう。
出来れば、あの最後の剣を振り回せるくらいにならないと。
更に日数が過ぎ、全員のマントが出来上がる頃に、アルフさんが一年かかる鍛治師ギルドの仕事が終わる。
ファルコの月が残りあと1週間。
終わった時には万歳万歳ですよ。
「いやぁ、本当に世話になったな嬢ちゃん達。出来ればこれからも時々手伝ってくれ。これは儂ら鍛治師ギルドからのお礼じゃ。あ、アルフは適宜来いよ。お前さんにしかできん仕事があるからな」
ギルドマスターバルハさんが、上機嫌でリツさんに白い袋を渡す。
豆か?
いいえ、小粒だが、魔石です。
ゴブリンの魔石が少なくなっていたので、ありがたく頂いてました。
いざ、ミュートへ納品の時に、護衛に『ハーベの光』が付き、アルフさんも行くことになり、私とアーサーも付いていくことに。私はマジックバック持ってますしね。片道2日なのに、リツさん達から大量のお弁当や鍋、マリ先輩のパンやお菓子を渡される。ポーションも渡される。おじいちゃんドワーフのダビデさんからは出発前に、豆を頂きました。
…………どれだけ豆が好きだと思われているんだろう。
「ルナちゃん、気を付けてね」
リツさん、マリ先輩、ローズさん、ショウにノゾミが城門で見送ってくれた。
「どこに行くにもショウを連れてくださいね。ショウ、しっかりお願いよ」
「ピィッ」
「ローズさん、これを」
「はい、ルミナス様、お気をつけて」
ナリミヤ印のナイフをローズさんに渡す。
本当はマリ先輩達も来たがったが、最近ミュート付近で盗賊が出るらしく、今回お留守番だ。それから鉱山に向かうための食料の調達や、調理をすることになった。
朝靄の中で、魔法馬に引かれた二台の馬車は出発した。
「いやぁ、旨いなあ、嬢ちゃんは料理上手だな。いい嫁さんになるぞう。アルフ、いい娘を見つけたな」
夜営地で、夕食を出すと、バルハさんがこんな感じだ。
私はお茶を落としかける。
「私じゃないです。リツさんやマリ先輩が作ってくれました」
説明しなくては、勘違いされたままだと、アルフさんが迷惑だからね。
「嬢ちゃんは控えめなんだな」
かっかっかっと笑うバルハさん。
聞いてよバルハさん。私じゃないですって。
アーサーが卵と玉ねぎのスープをカップで配る。
「ああ、温かいなあ。体が暖まる」
マルコフさんが、ほっとした表情を見せる。夜は冷えるからね。
マリ先輩のみっちり詰まったライ麦パンは焼きたての状態で、ウサギ肉や豆のトマト煮込みもホカホカ。
交代で食事をしていると、目ざとくバルハさんが、アーサーの新しい薙刀に目をつける。
「随分立派な槍だな。アルフの槍より上等だな」
「え、あの、その」
「儂が作ってやったんだ」
アルフさんが、答えに詰まるアーサーのフォローに入る。
「冒険者にするのに、いつまでも借り物の武器じゃあな。こちらから言い出したことだから、武器の一つは持たせんとな」
「いいなあ、アーサー君。ねえアルフ、僕にも作ってよ」
バーンがライ麦パンを食べながら、アルフさんに訴える。
「ギルドマスター、予算を提示してやってくれ」
「材料に拘るなら、これくらいだな。付与は別料金になるぞ。ちなみにアルフにしかできんからな。指名料いれたら、ざっとこんなもんなか?」
「次の機会でお願いします」
バーンが即答する。
いくら提示したんだろう?
マルコフさんも、バラックもイレイサーも沈黙してる。
「ところでアルフ、そのマントどうした? これも随分いい素材だな? スパイダー系の糸か?」
今度はマントに着目。やはりギルドマスター、目利きみたい。スパイダー系と見抜かれている。
でも、材料は言えません。
「ああ、スパイダーの糸が含まれた布だ」
アルフさんが上手く答える。
バルハさんはちょっと疑っていたけど、それ以上は聞かなかった。
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