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装備準備⑧

これから

 目を覚ますと、すでに夕方。頭痛はない。

 前世の夢でも見るかと思ったが、何もみてない。なんて残念な脳筋なのだ。

 私はベッドから、起き上がり、ガーディアンを羽織る。あ、ケーキ、食べかけだった。なんてもったい事を。後でマリ先輩で謝らないと。

 階段を降りると、ローズさんが台所から出てくる。

「ルミナス様、お加減は?」

 心配そうに聞いてくる。

「はい、大丈夫です。全然、痛くないです」

「ようございました」

「あの、ローズさん。私寝たあと、何かありましたか?」

 気になっていたことだ。アルフさんと、アーサーに工房での話を聞かれていたから。

「ルミナス様が起きてから、ということになりました」

「そうですか」

「リツ様とお嬢様は台所です。アルフレッド様とアーサーは工房です」

「わかりました。とりあえず台所に行きますね」

「では、私は工房に」

 台所に行くと、リツさんとマリ先輩が私の姿を見て、飛んでくる。

「大丈夫、ルナちゃん」

「頭、痛くない?」

 ローズさんと同じように、心配そうに聞いてくる。

「はい、大丈夫です。でも、アルフさんとアーサーにどう説明します?」

 私が聞くと、二人は一瞬沈黙。話し出したのはリツさんだ。

「正直に話そうと思うの。信じてくれるかわからないけど、これからの事を思うと、いつか話さないといけないしね。アーサー君は奴隷契約で守秘義務があるから大丈夫だけど。問題はアルフさん。でも、アルフさんの人柄なら、理解してくれるって思っている」

「そう、ですね」

 大丈夫、だよね。

「ホリィさんには?」

「時期をみて、説明するわ。今の生活に慣れるのに大変だし。まだ、子供達は手がかかるしね」

「分かりました」

 居間に移動し、程なくして、ローズさんがアルフさんとアーサーを連れて来る。

「アルフさんと、アーサー君、今まで黙っていて申し訳ないけど、今から話すことを最後まで聞いてほしいの」

 リツさんがそう切り出す。

 アルフさんはあまり表情を変えなかったが、アーサーは緊張している。

「まず、私の話ね」

 リツさんは、別の世界から、こちらの世界で行われた勇者召喚に巻き込まれたナリミヤ氏を、助けようとして巻き込まれたこと。マリ先輩は前世で事故死した後に、こちらに転生し、その知識を生かしてクレイハート家の魔道具開発に生かしたこと。ナリミヤ氏がその開発に関わっていたことを説明。そして、ライドエル王国を出た理由を説明。

 私にも、前世の記憶があるが、曖昧であること。前世で関わっている人がまだ存命している可能性があるため、迷惑をかけたくないと言うと、二人は納得してくれた。

 クリスタム王国で出会い、ナリミヤ氏宅で起こった件で、アルフさんの眉間にシワが寄る。

「それでエクストラヒールか」

「はい、あの時、ルナちゃんが一番重症でしたから。でも、私はナリミヤ先輩には、今では感謝してます。錬金術を教えてもらいましたし、アーサー君達を購入できたのも、こんなお屋敷もタダ同然に手に入れたのも、生活費もすべてナリミヤ先輩のお陰ですから」

「そうか、リツがいいならいいが。他はどうなんだ?」

「私はナリミヤ様に対しては、なんとも思ってないんです。ただ、前世で同じ国にいたことを共通の秘密にするくらいの関係ですし。クレイハート家はナリミヤ様に魔道具関連でお世話になってます。錬金術のことや味噌や醤油の再現には、本当にお世話になりましたから、そこは感謝してます。ローズは?」

「特にございません」

「ルナは?」

「私はナリミヤ氏は問題ないかと。ただ、心配なのはダラバに送られた女達です。特に赤髪エルフですね」

 私の言葉に、三人は、ああ、と言う。

「ナリミヤ氏がよく言って聞かせるなんて言ってましたが、正直どうかと思います。まあ、三年で反省すればいいですけど」

 多分、反省してない。逆恨みしてそう。

 そうだ、すっかり忘れていたが、赤髪エルフの問題がある。リツさんを守るためには、アルフさんやマリ先輩達が帰った後も、ここにいて守らないと。安全が確認できるまでは。

「なんで、リツ様をそこまで嫌うんですか?」

 アーサーが不思議そうに聞く。

「それはね。私、初めに変な加護、いえ、呪いみたいのがあって、それが赤髪エルフの加護との相性を拗らせたみたいなの。今はそんな呪いはないけど」

「そのエルフは加護まで持っているのか」

 アルフさんはため息をつく。

「でも、アルフさん強いから、負けませんよね。ルナさんだって、レベル上がったし」

「アーサー、その赤髪エルフね。レベル200越えているんだって。しかもあの最後の剣を扱える高い魔力系スキルを持っているだろうし、多分私達が束になっても敵わない。しかも、見ただけで気が強そうな感じだったし」

 私の言葉にアーサーは開いた口が塞がらない。アルフさんは天井を見上げる。

「こりゃ、ナリミヤ殿を信じるだけでは不安だな。装備揃えてダンジョンアタックしてレベル上げんといかんな。儂もそろそろ上がりにくくなるだろうし」

 そうなると、まず、鍛治師ギルドの仕事をなんとかせんとな、と呟くアルフさん。

「あのアルフさん、こんなことに巻き込んでしまってすみません。もし、迷惑なら、私達だけで対応しますから」

 リツさんが遠慮がちに言う。

「何を言っとる。ここまで話を聞いて、知らん顔できんぞ」

「アルフさん、ありがとうございます。あの私達が転生者や前世の記憶があることも秘密にしてもらえますか? マリちゃんやルナちゃんにはライドエルに家族がいますから」

「お前さん達が困るような事は言わん。儂はドワーフだからな。身内に入れたものは守る主義だ。誰にも言わんよ」

 良かった、アルフさんにみんな身内認定されてる。

「ところで、リツには加護があるのか? リリィ様の声を聞いたようだが」

「はい、私にもリリィ様の加護があります」

「はあ? 『私にも』だと。まさか、まだ加護持ちおるのか?」

 あ、ヤバいよリツさん、その言い方だと勘違いされる。誤魔化さないと。

「私『女神から見出だされた者』っていう加護あります。ルナちゃんはバートル様の加護」

 マリ先輩があっさりばらしたッ、ばらされましたよッ、アルフさん固まっているよ。

「世界で数人しか持てん加護を………」

「あの、アルフさん、ご内密に…」

 私がおずおず言う。

「分かっとる、知られたら大事だ。特にマリはな。『女神』の加護だしな。リツも何かあれば、アーサーやホリィ達が路頭に迷うからな」

 加護にも種類があるが、守護天使や女神の加護は最上位。多分女神の加護はナリミヤ氏とマリ先輩くらいしか持ってないだろうな。

 ライドエル屈指の財力を持ち、女神の加護をもつご令嬢。いかん、なにがなんでも守らないと。

「アーサー君、ごめんなさいね。嫌ならはっきり言ってね」

 呆然としていたアーサーは、リツさんに声をかけられ、ぶんぶんと首を振る。

「リツ様、自分、大丈夫です。リツ様は自分がお守りします」

 頼もしいな。リツさんが転生者と知っても、変わらないアーサー。良かった、いい子で。リツさんに惚れた弱味かな。

「ありがとう、アーサー君」

 ほわわ、と花が咲く感じで、アーサーが照れる。

 微笑ましいなあ。

「アルフさん、アーサー君、本当にありがとうございます。これから大変かと思いますが、どうかよろしくお願いします」

「分かっとる。とにかく問題を一つずつ片付けて行かんとな。まず、鍛治師ギルドの仕事だ。それから鉱山だな」

 アルフさんの言葉に全員頷いた。

 

「あの、アルフさん」

 居間での話し合いの後、私はそっとアルフさんに話しかけた。

「なんだルナ?」

「あんまり驚かないんですね。前世とか転生とか」

「まあ、何かあるだろうとは思っておったしな。リツの奴隷に対する態度や、マリの醤油や味噌、お前の戦闘スキル。見たこともない飯、疑えば切りがないぞ」

 確かにそうかな。

「でも、気持ちが悪いとか、変とか思わないんですか?」

 あれ? どこかで、聞いたことがあるセリフ。

「何故だ? ルナはルナだろう? 前世の記憶なんて、今のお前にとっておまけみたいなもんだろう」

 あ。

 あの時。

『ローズ、大好き』

 マリ先輩が、前世の記憶があるとローズさんに告白した時。何も変わらなかったローズさんに、マリ先輩はしがみついていた。

 今なら分かる、マリ先輩の気持ちが。

 溢れるような安堵感、張り詰めていた何かが溶けてなくなる感じ。

 嬉しい、嬉しい、嬉しい。

 ここにいても、いいんだという安心感。

 私も、しがみつきたくなるほど、嬉しい。

「ルナ、どうした?」

 黙りこんだ私の顔を、アルフさんが覗き込む。

「いえ、あの、嬉しくて、ちょっと…」

 上手く言葉にならない。

 アルフさんが笑う。

「これくらいなら、いつでも言ってやるぞ」

 なんで、この人、こんなに優しいんだろう?

 ドワーフの種族性? 身内にいれたら、血が通った家族のように守る。ただ、それだけ? 多分、それだけ? きっとそれだけのはず。そうだよね、私はアルフさんの中で、手のかかる子供の位置だしね。でも、そんな返事を聞きたくない。

 私が小さく頷くのが、精一杯だった。

読んでいただきありがとうございます

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