装備準備⑦
ばれる
「え、マリちゃんのお家大丈夫なの?」
「はい。裁判にもなりましたが、クレイハート家が勝ちましたよ。模造したのは公爵家でしたから。裁判中にあることないこと、言いふらしていた大奥様がおっしゃったそうです。『クレイハートの魔道具がもっとしっかりしていれば、こんなことにはならなかった』って。それで、公爵家が模造したとなり。多額の損害賠償を求められたそうです」
「その大奥様って、頭足りてないのかしら?」
リツさんの呆れた声。
ずきずきずきずき
いかん、頭が、痛い。
「そんな公爵家の令嬢との婚約なんて、宰相様も考えますよ。きっぱり断れないのは、先代国王の腹違いの妹でもあり、放棄したとはいえ、王位継承ありましたからね。ただ、本当に地位以外、何もありませんし。何よりそのご令嬢にも問題がありまして」
「え、孫にも?」
「はい。なんと言うか、まあ、人を地位や資産、容姿で選別する方で。公爵家のご令嬢ですから、多少下位の貴族にはそういった態度を取ってもしかたなないのですが、行き過ぎていてまして、学園からも注意が行くほどでした。後、ジェイムズ様以外にも親しくしようとしている様子で。正式な婚約者がいる方達にもちょっかいかけようとして、評判はあまりよろしくありません」
「うわあ、嫌だね、それ」
「本当は、そうじゃなかったの」
沈黙していたマリ先輩が、口を開く。
リツさんとローズさんが、マリ先輩の方を向く。
マリ先輩がカップに入った紅茶を回しながら続ける。
「私、ほら、前世の記憶あるでしょ。多分、逆もあると思うの」
「どういうこと?」
リツさんが聞く。ローズさんも聞きたそう。
「私には、お姉ちゃんが三人いて、真ん中のお姉ちゃんがはまっていた恋愛小説の中にあったの。『ライドエル、花の物語』って。私も昔、読んだから分かるけど、その中にクレイハートの名前がでてくるの。当然私やシュタムがね。だから、私やジェイムズ様の事を知っている誰かが、日本に転生して小説にしたんじゃないかって」
ずきずきずきずき
頭が、痛いが興味が沸いてくる。
「あり得ない話じゃないわね。完全に覚えてなくても、夢に見るくらいって、リリィ様仰っていたし。で、内容って?」
「主人公はその公爵のご令嬢。自分に自信がなくて、引っ込み思案の彼女をいろいろな人がサポートしていく話。そのサポートする人達が関係をもつの、まあ、その内容は伏せるけど。ジェイムズ様もその一人よ。で、私はその中で、令嬢に嫌がらせする悪役ね。最後はクレイハート家は断絶、お母様はショックで病気で亡くなり、お父様と私、シュタムは公開処刑、使用人皆は重犯罪の奴隷落ち」
「何それ? 酷すぎない?」
「もしかしてお嬢様、それがあって、婚約者候補から外れたいと?」
「そうよ。だって、私、みんな大好きだもの。そんな目に合わせたくないし。今はその物語と内容が違うけど、少しでもリスクを、あら、ルナちゃん、どうしたの?」
ずきずきずきずきずきずきずきずき
いかん、頭割れそう。堪らず頭を抱えたら、話していたマリ先輩が、心配そうに顔を覗き込んで来た。
「頭、痛い………」
「大変、すぐに横になりましょう」
マリ先輩が優しく私の肩を抱く。
リツさんもローズさんも立ち上がり、私の側に。
「どうしたのかしら、とにかく部屋に」
「冷えたタオルの準備を」
「ルナちゃん、立てる? おんぶしようか?」
「大丈夫です。歩けます………」
私はマリ先輩とリツさんに支えられ、椅子から立ち上がる。
工房も入り口に向かうと、ローズさんが立ちすくんでいた。
「どうしたの? ローズ? あっ」
マリ先輩の声に私は顔を上げる。
「あ…………」
そこには、工房のドアの横に、腕を組み壁に寄りかかっているアルフさんと、土まみれのスコップを持つアーサーの姿が。
聞かれた、え、全部? まさかね。
アルフさんが息を静かに吐き出すように言う。
「おかしいおかしいとは思っておったが、クレイハート家のご令嬢に、前世の記憶、リリィ様の声を聞ける者、一体お前さん達何者だ?」
あ、ほとんど聞かれている。
「そ、それは…………」
マリ先輩が口ごもる。
「詳しく聞きたいが、ルナを先に休ませるか。顔色悪いしな。儂が運ぼう」
アルフさんがそういうと、私をひょいと抱え上げる。あの魔の森で、抱え上げられた時みたい。でも、今日は頭が痛くて騒げない。
アルフさんは私に気を使ってゆっくり歩く。
「ごめんなさい……」
なんだろう、凄い罪悪感が私の胸を締め付ける。咄嗟に言葉が出た。アルフさんは、私に言い出せない時は無理に聞かなかったし、聞き出さなかった。私は、それに甘えていたのだ。申し訳ない気持ちで一杯だ。
「何故謝る? 何もしとらんだろう?」
優しいアルフさんの声。なんだか安心して、涙が浮かびそうだ。
私は自室に運ばれ、ベッドに横になる。ローズさんが額に冷えたタオルを置いてくれる。気持ちがいい。
「ルナちゃん、吐き気は?」
リツさんがベッドサイドに膝を付き、心配そうに聞いてくる。
「ありません…」
「ここに呼び鈴あるから、何かあったら呼んでね」
「はい…」
みんな心配そうに振り返りながら部屋を出る。
それを見届けて、私は眠りについた。
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