装備準備⑥
尻切れトンボ。
忙しい日が続く。
結局、リツさん達は鍛治師ギルドに通う日を、週に2日から4日に増やした。
三人ともレベルアップしたり、魔力感知スキルが上がってため、付与できる回数が増えていた。特にレベルが20を越えたマリ先輩とローズさんは、補正が係り、今まで以上に付与ができている。
私は本当にすることない。掃除はホリィさんがやってくれるし、ちびっこ達も頑張っている。私はリツさんに許可をもらい、アーサーを借りて魔の森、浅い所を探索。ショウも着いてきたりしたが、探索には問題なし。
武器を入れ替えながら、魔の森でスキルアップを図る。
「ピィピィ」
ショウは魔物のせいか、とにかく感知能力が高い。
お陰で先手を取ることができ、戦闘も難なくこなすことができた。
トレントにも遭遇。前回のブラックトレントより、少し小さい個体だ。リツさんが欲しがっていたことを知ったアーサーは、張り切る張り切る。
薙刀で一刀両断は難しいから、援護に回らせる。
ちょっと拗ねてる。
【風魔法 身体強化 発動】
【火魔法 武器強化 発動】
「ヒートアクセル」
自身の魔法で強化、そしてアーサーの支援。
よし、今回は、行こうじゃない、いける。
私はアーサーに目で合図し、二代目を手にトレントに向かって駆け出す。
トレントお得意の物量攻撃。
うねりを上げて襲いかかる根を、アーサーの火魔法とショウの風魔法が切り裂いていく。
「はッ」
トレントにたどり着いた私は、一気に二代目を手応えと共に振り抜く。
距離を置いて、振り返ると、トレントの顔が表情を失い、轟音と共に倒れて行く。
やはりレベルアップのお陰だ、前回と全然違う。まあ、アーサーとショウの援護もあったしね。
「ルナさん、お怪我は?」
「ピィピィ」
「大丈夫よ。二人ともありがとう。こんなに簡単にトレントが刈れるなんてね。さ、冒険者ギルドで解体してもらいましょう」
私はマジックバックにトレントを入れる。
「少し葉っぱ貰えないですかね? 堆肥にしたいから」
アーサーが遠慮がちに聞いてくる。あ、リツさんの為に花か家庭菜園の為だね。
「そうね、少し引き取りましょう」
そう言うと、アーサーは嬉しそうにはにかむ。
髪を短くしても、こういう所は変わらない。男の子なのに、かわいい。
「ピィピィ」
ショウが私の裾を引っ張る。
「どうしたの?」
私はショウの目を覗き込む。索敵などなら、縮瞳するのだが、していない。
「ルナさん、そろそろ帰らないと、遅くなるかも」
「あ、そっか。じゃあ帰ろう」
魔の森を抜け、トウラの城門で冒険者カードを提示する。ショウは顔パス。
冒険者ギルドでトレントを提出し、鍛治師ギルドに寄ると、ちょうどリツさん達が出てきた。ショウがとことこマリ先輩に寄り添い、手にすりすりしてる。なでなでするマリ先輩。
「ルナちゃん、アーサー君、今帰り?」
リツさんが聞いてくる。
「はい」
みんなで屋敷に向かう。
「アルフさんは?」
多分泊まり込みかな、と思っていたが、一応リツさんに聞く。
「今日は泊まり込みで仕上げるって、だから、夜食渡したわ」
やっぱり。
話を聞くと、アルフさんは最近付与ではなく、鍛治の方に行っていることが多いらしい。まあ、鍛治師が本職だからね。
無理しなきゃいいけど。
帰る途中でトレントの話をすると、リツさんの表情が固くなる。前回のブラックトレントの事があったんだろうけど。
「アーサーもショウもいますからね。あの時のトレントより小さい個体でしたから」
「大丈夫だったの? ケガはない?」
「大丈夫ですよ。レベルあの時より、倍以上ありますし」
しきりに心配するリツさん。
屋敷に帰りつくと、あちこちチェックされました。アーサーも。あわあわしてますよ。
「後は、お風呂でチェックね」
どこまでチェックする気なの?
トレントを解体してもらって回収。トレントの葉も半分回収。
今は忙しいので、後日、家具や馬車を作ることに。
リツさん達は、鍛治師ギルドに朝、アルフさんと向かい一旦お昼帰って来る。魔力の回復の為に休憩し、午後から再度ギルドに向かう。
季節は秋を通り過ぎていく。昼も過ごしやすくなる。
ファルコの月だ。
去年から、いろいろあったなあ。
マリ先輩は時々携帯電話で、ライドエルのクレイハート家と連絡してるみたいだけど、未だに帰る気配はない。
たまにローズさんが悟りの表情をしている。
今日は鍛治師ギルドが休み。工房で久しぶりに四人でお茶をしている。
ローズさんの美味しいお茶、うわあ、相変わらず、香りがいい。
ドライフルーツの入ったパウンドケーキに、アーモンドの粉を使ったケーキ、うふふ、マリ先輩に渡して正解だ。アーモンドケーキには、トレントの実も砕いてかかっている。うん、美味なり。
「まだ、婚約者候補から外れてないんですか?」
私はドライフルーツのパウンドケーキを食べながら聞く。
結構経つのに、まだマリ先輩はジェイムズ様の婚約者候補のままらしい。
「そうみたい」
マリ先輩が言いにくそう。
やはり、ジェイムズ様がマリ先輩に拘っているみたい。後、クレイハート家の財力に父親である宰相が、どうしても手に入れたい為に難航していると。
「お父様もお断りしているみたいだけど、受けてくれないって。皮膚病が治れば、問題がないって言われて」
まあ、そうだよね。クレイハート家の資産っていくらなんだろう? 想像つかない。
「公爵の令嬢は? ジェイムズ様に入れ込んでいるって」
マリ先輩が黙り込む。
あ、あんまりよくない感じ。
「………あることないこと、あちこちで触れ混んでいるようです」
ローズさんが代わりに応える。
「主に皮膚病を揶揄しているようです。後、学園でのお嬢様の過ごし方をあからさまに悪くいい広めているようです」
うわあ、最悪。
「クレイハート家の財力に、公爵家は太刀打ちできませんからね。格下の家に負けなくないのもありますが、今、公爵家の大奥様の経歴詐称疑惑が沸き上がっています。それを払拭し、宰相の子息との婚約を成したいのでしょう」
「へえ、なんだか、どろどろね。経歴詐称って、学歴詐称みたいな?」
「いいえ、騎士位です。大奥様は、在学中に騎士位を得ています。当時大奥様がとりわけ優秀だと理由で」
ずきり
あれ? 頭、痛い。
「違うの?」
ローズさんは、聞いてくるリツさんに答えている。
「騎士になるには方法は二つ。騎士学校を出て二年の見習い期間を経て、正式になります。もう一つはその学校を出られない人が、騎士補佐として五年以上勤めて、最低限の試験に合格すればなれます」
ずきりずきり
「なので在学中に騎士にはなれないんです。これは慣例で、例え王の子息でも避けられないことなんです」
「でも、騎士位、もらったって、あ、賄賂的な?」
「そうです。あくまで噂ですが。これ以外ありませんからね。大奥様は、将軍の姪にあたる方で、コネや賄賂でなったと、当時からもっぱら噂でした。実際に大奥様の武勇伝はありますが見たものはほとんどいません、学園在学中にまともに戦闘スキルを学んだ記録はなく、何より、今のライドエルの騎士団は公爵家を毛嫌いしてますからね」
ずきりずきりずきり
「その大奥様が、クレイハート家と宰相に言いがかりをつけているようです。自分は稀代の才能を持ち、孫娘、つまり公爵家のご令嬢ですね。その才能を引き継いでいる孫娘を何故選ばない。下品な成金貴族め、みたいな感じです。クレイハート家が魔道具で財をなしたので、公爵家も手を出したのですが、大失敗したそうですから。宰相様の財力はクレイハート家に次ぎますからね。それを狙っているのは、あからさまに分かっています。最近はクレイハート家の魔道具は公爵家の魔道具を模造してる、なんて言いがかりを言いふらしているようです」
ずきりずきりずきりずきり
頭、痛い。
読んでいただきありがとうございます