装備準備③
今は
アルフさんは結局いくらかかったか言わなかった。
「どうしましょう?」
リツさんが悩ましい表情。
「これ、純度、どれくらい?」
マリ先輩が聞き、リツさんが鑑定。
「アダマンタイトが半分、あとはミスリルと魔鉄」
うわあ、めちゃくちゃ高そう。アダマンタイトが少し混ざっただけでも高いのに。
「アルフさん、お金絶対受け取らない気ですよ」
私が言うと、リツさんも頷く。
「あの様子なら、そうかもしれない。よし、なら、一杯美味しいもの作って食べてもらいましょう。後は、真っ先にアルフさんのマントを作りましょう。今はそれくらいしか思い付かないから」
そう言ってリツさん達は台所に籠ることに。
お昼のお弁当です。
「ルナちゃん、おにぎりお願いね」
リツさんがアイテムボックスから炊きたてのご飯を出す。焼いてほぐしたサーモン、ウサギ肉の肉味噌、ゴマと細かくした葉野菜の合えたものも出される。水を手につけ、おにぎりを握る。中身はその三種類。にぎにぎ。ちょっと、サイズがまちまちになる。何故だ、リツさんがすると寸分違わず出来上がるのに。
リツさんは揚げ物の準備。
マリ先輩はお肉を切ってる。
「何のお肉です?」
「グリズリーよ、ロースね。食べやすいサイズにして焼いていれようと思って」
豪華なお弁当になるな。
いつものお弁当に私の握ったおにぎりが並ぶ。
リツさんが唐揚げを次々に揚げ、パン粉を纏ったエビも揚げる。くわあ、いい匂い。
マリ先輩がグリズリーのお肉を焼き、ローズさんがサラダの準備し、出来上がった料理を美しく詰めていく。
卵焼きも出来上がる。
「ルナちゃん、あーん」
「あーん」
はい、マリ先輩からグリズリーをいただきました。あ、いけない、アルフさんのお肉なのに。でも、美味しい、脂が甘い、溶ける。
「美味しい?」
「ばっちりです」
きりっ
唐揚げ、エビフライ、グリズリーの一口ステーキ、卵焼きに鮮やかなサラダ。ローズさんがお茶を水筒に淹れて準備OK。
うん、お昼近い。
ついでとばかりにリツさんは揚げ物を続ける。マリ先輩はその下準備をして、ローズさんは私の身支度。
私は詰襟のワンピースにガーディアン。
「ルミナス様、こちらのお召し物でよろしいんですか?」
ローズさんが他のワンピースを出すが、新しいのもある。だから、いつ作ったの? その深い緑のワンピース。なんでお弁当届けるだけに作っているの。
「私、このワンピースが好きですから、それは、次の機会に」
そう言うと、ローズさんが一瞬笑みを浮かべた。あ、確かこのワンピース、ローズさんがデザインだったはず。気合いを入れて編み込みされました。薄く引かれました、紅を。
マジックバックにお弁当と水筒を入れる。
「じゃあ、行ってきます」
台所で作業を続ける二人に声をかけ、ローズさんに見送られ屋敷を出た。
いつもの鍛治師ギルド。顔見知りの女性職員に声をかけると、すぐに出てきました、おじいちゃんドワーフダビデさん。
「いらっしゃいお嬢さん。さ、こっちにおいで」
「あ、はい」
なんだろう、ものすごい笑顔だ。
いつもの応接間。
「お嬢さん、アルフの奴、いい顔をしとる。きっとお嬢さんかな?」
「さあ、どうでしょう。あんまり関係ないかと」
ダビデさんは私に椅子を勧めて、話し出す。
「やっとあいつもランクを上げる気になったし、ようやく白状したしな」
「白状?」
ほっほっほっと笑うダビデさん。
「アダマンタイトだよ。錬金術を併用したら、あれだけミスリルを簡単に扱える奴が、アダマンタイトが無理なものか。多分思い込みもあったろうがな」
うーん、多分長いスランプのせいだよね。
「今朝見せてくれたよ。昔作ったアダマンタイトの小刀と針を。ランクを上げて欲しいとな。そして実際にアダマンタイトを使ってナイフを作って見せたよ。思ったようにいい腕だ。ほっほっほっ、その内、帰国命令が来るかもな。まあ、儂らが手離すつもりはないがな」
上機嫌にほっほっほっと笑うダビデさん。
帰国命令。私はなんだが、体が冷えていく。
え、アルフさん、帰国しちゃうの? え、会えなくなるの?
「……もし、帰国命令来たら、どうするんですか?」
私の声、震えてないよね。
ダビデさんは優しく笑う。
「断ればいいさ。向こうがアルフを追い出したもんだからな。それに、アルフがここにおることを知ってるのは、あいつの兄弟子だけだ。ここで安定した生活しとるのに、呼び戻すようなことを兄弟子はせんだろう。誰にも話さんように、アルフも言って国で出たようだしな。大丈夫だよお嬢さん。アルフはどこにも行かん。儂らが行かせん。心配せんでも大丈夫だよお嬢さん」
その言葉に、心の奥底から安心感が沸き上がる。ああ、良かった、本当に良かった。良かった、良かった、良かった。
でも、本当に?
そう思うと、不安が沸き上がる。
「ルナ、待たせたな」
「おおアルフ来たか、では、爺はお邪魔だな、ゆっくりしておゆき、お嬢さん」
アルフさんと入れ替わるように、ほっほっほっと、ダビデさんが出ていく。
それを見送る。
「ルナ、どうした?」
いつまでも、ダビデさんが出ていった先を見ていると、アルフさんが心配そうに見てきた。
声に振り返ると、頭にタオルを巻いて、心配そうなアルフさん。
ぼろぼろぼろぼろ。
「ど、どうしたルナ」
アルフさんが動揺する。
何故か、私はぼろぼろと涙が溢れる。
帰国命令。会えなくなる。でも、大丈夫だと言うダビデさんの言葉。
それ、本当?
だって、帰国したら、きっとアルフさんは鍛治師として約束された地位に着くだろう。名誉な地位に。それを、アルフさん、断るのかな? だって、なんと言っても祖国だよね。故郷だよね。話に聞いた兄弟子は、アルフさんを大切にしていたはず、その人達のいる国だ。恋しくないわけない。帰国命令があれば、帰るいい機会になるし。
会えなく、なる。
アルフさんに、会えなくなる。
おかしいな、私、こんなに、涙腺緩かったっけ?
「ルナ、どうした?」
狼狽えるアルフさんは、必死に私の目からだらだら出る涙を拭う。
「だって……」
「ん? どうした?」
「だって、帰国、命令、来るかもって………」
アルフさんは、息を吐き出すようにして肩を落とす。
「はあ、なんだ、そんなことか。儂は、帰らんぞ。まあ、一時帰国はそのうちするかもしれんが、な」
「でも、故郷だし…」
「確かに兄貴達には会いたいが、今は会えん。国を出るときちょっと約束してな。それより、儂はここが気に入っておる。酒の飲めんハーフドワーフを受け入れてくれる鍛治師ギルド、それに旨いメシ、住むには最高な部屋。どこにも行かん。ルナ、お前がいるから、どこにも行かん」
「私、何にも作れない……」
「本当にお前は難儀だな」
そう言って、私をぎゅうと、抱き締める。
「どこにも行かん。儂は、ここにおる。どこにも行かん」
優しく私の背中を撫でるアルフさん。
「どこにも行かん」
何度も言う。
不安が少し溶けていく。でも、何かひっかかる。まるで喉に、魚の骨がひっかかったみたいに。
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