装備準備②
鋏
それから、リツさん達は工房に籠りっきりになる。私とアーサーはすることなく、庭で剣の稽古をしたり、草をむしって過ごす。
夕方になってアルフさんが帰って来た。何やら布を抱えて。
「アルフさん、お帰りなさい」
「ただいま、ルナ」
その声にリツさん達は顔をあげる。
「あ、お帰りなさいアルフさん。やだ、もう暗いじゃない。夕飯にしましょうか」
「そうね」
リツさんが汗を拭き、マリ先輩が同意する。
アルフさんの抱えている布が気になるが、夕飯です。
久しぶりにブラッディグリズリーのワイン煮込みを出し、ロールパンにカボチャのサラダだ。
相変わらず、グリズリー美味しい。ホリィさんとアーサーには、何の肉か内緒だ。聞いたら驚くだろうからね。
「リツ。今日夜、炉を借りていいか?」
「構いませんよ。何か作るんですか?」
「まあな。出来るか分からんが」
気になる。だけど。
「倒れたりしませんよね? 明日からお仕事でしょ」
つい先日、魔力枯渇を通り越して、意識飛んだのだ、心配。
「大丈夫だ。魔力回復ポーション買ってきた」
枯渇前提だよ。なにするのよ。
「アルフさん、言ってくれたらポーション渡したのに」
マリ先輩が言う。
「そう甘えてはおれん。炉をタダで貸してもらうしな。ポーションくらい準備せんとな」
「アルフさん、大丈夫なんですか?」
私は心配だ。あの真っ青なアルフさんはもう見たくない。
「無理はせんさ。大丈夫だ。お前と約束したしな」
「なら、いいですけど…」
しぶしぶ納得する。後でお茶でも差し入れて、大丈夫が見よう。
夕飯後、リツさんの部屋にマリ先輩とローズさんが合流。アルフさんは工房。私はすることない。
二代目を出し、魔力を流して訓練だ。
しばらくして、私はお茶を淹れる。まず、リツさんの部屋。ローズさんには勝てないけど、喜んでくれた。ちらっと見えたが、床に大量の紙。何か描いていたようだが、見たら失礼だよね。すぐに下がる。次にアルフさんの所。そっと窓から覗くと、魔力回復ポーションを飲んでいる。今なら大丈夫かな。
コンコン
「ルナです。アルフさん、お茶、持って来ました」
すぐに鍵が開く。基本的には工房には鍵が掛かっている。間違ってアンナ達が入らないように。
「ルナ、すまんな」
「いいえ。入って大丈夫ですか?」
「ああ、いいぞ」
お茶を溢さないように、中に入る。
多分、徹夜かな、と思ってポットにも淹れてある。
何を作っているか分からないけど、本当に大丈夫かな。
「あの、アルフさん」
「ん、何だ?」
お茶を飲んでいるアルフさんに、おずおず聞く。
「あんまり、無理しないでくださいね」
「分かっておる。大丈夫だ。お前に泣かれると堪えるからな」
「………朝、倒れてたら、泣きますからね」
「大丈夫だ、大丈夫だから。無理せん」
私はズラリと並んだ魔力回復ポーションを見る。
「こんなにポーション準備して」
「念のため。念のためだ。儂だって魔力枯渇はきついからな」
「なら、いいですけど」
アルフさんは優しく笑って私の手を取る。
なんか、ドキッとした。なんだ? アルフさんの精神打撃か?
「心配してくれるんだな。ルナ」
「そりゃ、あんな姿見てますから、心配にもなりますよ」
私は小さい声で答える。
アルフさんの手、大きいなあ。
いかん、心臓が何故かうるさいぞ。
「大丈夫だ、無理せん。約束する」
「……はい」
これ以上はお邪魔だよね。
「あの、私、これで失礼します」
「ああ、おやすみルナ」
握られた手を離され、寂しい感情が沸いたことに疑問を感じながら、私は工房を出た。
次の日、朝、アルフさんは迎えに行く前に工房から出てきた。
いつものように、アーサーと私を相手に無盾で圧倒。
「勝てる気がしない…」
アーサーが項垂れる。
私もだよ。
「一応、儂、お前たちより、レベル高いからな」
そうでしょうね。後は経験の差かな。私は剣だけなら、いい線いけるかも知れないけど、槍や盾は大したことない。
「さ、今日はこれで終いだ。朝飯もらおう」
「「はい」」
台所では、リツさんとマリ先輩、ローズさんが朝ごはんの準備をしている。
ちょっとお手伝いして、いただきます。
今日はサンドイッチだ。野菜のスープ付き。
まず、卵サンドイッチをぱくり。
「アルフさん、出来ました?」
リツさんが紅茶を飲みながら聞く。
「まあな、後で見せる」
「楽しみです。実は私達も昨日、いろいろデザインしたんです。見てもらえますか」
「ん? ああ、いいが」
なんだろう、めっちゃ気になる。
「ルナちゃんもね」
「え、はあ」
なんだろう、すごく嫌な予感。
マリ先輩のうふふな笑顔に嫌な予感。
不安な朝食後、居間に集合する。
まず、リツさん、マリ先輩、ローズさんが発表。
「これです」
リツさんがさっと出した紙には、アルフさんが描かれている。上手い。
「儂か?」
「そうです。で、こうなります」
マリ先輩で更にもう一枚の紙を出す。
「……………これは?」
じっと見て、アルフが聞く。
そこには、全身鎧が盾を持ち立っている。うん、洗練されたデザインだよ。デザインだけど。
「アルフさんの鎧です」
「え、フルプレート?」
「ちなみにアダマンタイトがメインの予定です。ミスリルは魔力を流すために補助的に」
「リツ、ちょっと待て、いくらなんでもそれ来て走り回る自信ないぞ。歩く自信もないぞ。重量相当なものだろうし、そもそも材料どうする? インゴットだけでもとんでもない額だぞ。それにアダマンタイト、まだ扱えんだろう?」
アルフさんは待ったをかける。
「大丈夫です。付与ですよ」
マリ先輩が胸を張る。
「だから鍛治のランクあげてください。アダマンタイトなら、なんとかなる気がしますから。あ、ルナちゃんはこんな感じね。ミスリルがメインでアダマンタイトで硬度を取る感じ」
新たに出された紙には私の姿。軽鎧の私が描かれている。うん、デザイン素敵だけど。
「こちらがミニチュアになります。木製ですが」
ローズさんが小さなトルソーを出す。
「「……………」」
すごい精巧にできたミニチュアを出され、私とアルフさんは言葉が出ない。うん、身長差あるね、トルソーでも。
「マントはこんな感じになるのよ」
マリ先輩がウキウキするようにミニチュアにマントを着せる。
いや、品のいいデザインですけど。
「材質はグレイキルスパイダー」
「いや、あの、まずアダマンタイト扱えないと無理でしょう?」
私が突っ込む。まだ、ミスリルも扱えないのに、何を言っているのこの人達。
アルフさんはため息をつき、布に包まれた何かを差し出す。
「なんですか?」
リツさんが受けとる。
「鋏だ。鋏。これならグレイキルスパイダーでも裁断できるだろう。重量軽減の付与付けとるから、扱いやすいだろう」
「え?」
リツさんが布を取り払う。
そこには、黒く光る鋏。
え、まさか。
「アダマンタイトの鋏ですか?」
私が聞く。
三人は鋏を見て、言葉を失っている。
「ああ、そうだ。昨日作った」
「いや、そんなに簡単に言われても……」
私は戸惑う。
確か、アルフさん、ミスリルが精一杯って言ってなかったっけ?
「ま、ルナのお陰だな。いろいろ思い出せたし。儂、そろそろギルドに行くとするか。ランクの件は相談するが、すぐに上がるとは思わんでくれよ」
「あ、はい」
リツさんがやっとと言った感じで返事をする。
「アルフさん、材料費は?」
リツさんが聞くが、アルフさんは曖昧に笑って出ていった。あ、受け取らない気だ。
読んでいただきありがとうございます




