装備準備①
理解
アルフさんの最後の休み。
朝からリツさん達はマルシェに行った。水の日です。お魚の日です。今回はアーサーが着いていってます。まあ、大丈夫かな?
朝の片付けはホリィさんがしてくれました。
私とアルフさんは窓拭きです。ホリィさんがすると言ったが、私達居候ですからね。押しきってしました。
片足立ちでやっていると、アルフさんが届かない所を拭いてくれた。
「これでいいか?」
「あ、ありがとうございます」
近いって。転ばないか心配なんだろうけどね。
なので、高いところはお任せです。
しばらくして、満面の笑みで帰って来ました。リツさんとマリ先輩が。後ろでローズさんとアーサーが疲れた顔。
「お帰りなさい」
「ただいま。今日もいいお魚手に入ったわよ」
リツさんが笑顔。
今日は魚介の食事かな。
「じゃあお手伝いしますね」
窓拭きを一旦止め、アルフさんと台所に合流。
「ルナちゃん、エビの殻剥きお願いできる?」
「お任せください」
言ったわいいが、こんなに買ったの? 仕方ない剥き剥き。
相変わらず見事な手つきで魚で捌くリツさん。
アルフさんはひたすら鱗を取り、マリ先輩とローズさんは捌かれた魚を更に切り分けたり、内臓の処理をしている。アーサーはリツさんの指示でいろいろ動いている。途中でホリィさんも加わり、殻剥きを手伝ってくれた。
前回より早く終わり、やっと昼食。
「今日はブイヤベースよ。ホリィさん、アーサー君ありがとう。これ、お昼として食べて」
リツさんが小鍋に移したブイヤベースを渡す。
「あのリツ様、お昼は自分達で準備しますので…」
ホリィさんが遠慮してる。
「いいからいいから。手伝ってくれたから食べて。沢山作ったし、ね」
押しの強いリツさんの笑顔に勝てず。アーサーが小鍋を持ち、下がって行った。
普通、奴隷は主人と同じ食事なんて食べれないからね。
まあ、リツさんの流儀だ。従います。
ターシャ、元気かな。
「さ、いただきましょ」
いただきます。
ブイヤベースを一口。お、魚介に旨味がすごい。エビの味がすごい。
「内陸の国でこんな料理が食えるとはな。ここに来て正解だな」
しみじみとしたアルフさんの言葉。私も同意見です。エビ、美味しい。白身魚美味しい。スープ、更に美味しい。
午後からアルフさんとアーサーが、ローズさんに捕まり、散髪。私も前髪を揃えてもらった。
アルフさんもアーサーもこざっぱりとした。特にアーサーは短くして、少年感が抜けた。髪でこんなに印象違うんだね。
「あら、アーサー君、いいじゃない」
「そ、そうですか?」
リツさんに言われて、アーサーは新しい髪型が気に入った様子。
「短すぎないか?」
アルフさんは短くなった髪をしきりに触る。
今まで伸びて縛ってたのが、なくなったから寂しいのかな?
「お似合いですよ。ね、ルミナス様」
「え、あ、そうですね。すっきりして、いいかと思います」
ローズさんに言われて、感想を述べる私。
うん、似合っている。アーサーより長めだが、うん、似合っている。
「そうか? なら、いいか」
アルフさんも気に入った様子。
散髪後工房に籠ることに。
鉄と魔鉄の合板は何とか成功しているが、アルフさんのブーツに入っているサイズがやっとだ。
魔道炉が起動するが、四苦八苦。
アルフさんがするとあっという間に鉄と魔鉄のナイフが出来上がる。錬金術頼りになるが、やはりレベルアップによる魔力保有量が増えたことと、魔力感知スキルがアップしたため出来るんだろうな。全然疲れていない様子だ。
私はアーサーとお茶を淹れて、テーブルに並べる。相変わらず暑いなあ。
「なんでそんなに簡単に出来るんですか? チートだ、チート」
マリ先輩がナイフを前に悔しそう。
「だからな、儂、ガキの頃から鍛治は身近だったんだぞ。もう20年以上鍛治しとるからな」
ナイフを研ぎながらアルフさんは答える。
「親父の教えだが、繰り返すぞ、金属の声を聞け、理解しろ。だ」
理解ね。
マリ先輩、リツさん、ローズさんが汗を浮かべて悩んでいる。
「金属を理解って?」
アーサーがこっそり聞いてくる。
「さあ? 私は一般的なことしか分からないよ」
鉄。武器や防具にほとんど使用されている。魔力を流せるが、そうすると劣化が早い。
魔鉄。魔力を含んだ鉄。鉄と合金し使用され、魔力の流れをよくし、耐久性がアップする。付与も鉄よりつけられる。
ミスリル。魔鉄より魔力を流がすことに優れている。ただ、軽いが硬度が低く、他の金属との合金が基本。付与は魔鉄以上につけられる。現在、身体強化や武器強化を使う者には、この合金を使った武器や防具は手にしたい。この金属を扱えたら、鍛治師として一人前と言われる。
アダマンタイト。現在、採掘できる金属としては最高硬度と重量。魔力の流れも悪くないが、くせがあり、扱いに注意。ミスリルと合金すれば、魔力を流しやすくなる。アダマンタイトを含む武器や防具は基本高級品。付与はミスリルと同じくらい。この金属を扱える鍛治師は極わずか。
オリハルコン。伝説の金属。硬度、魔力の流れ、最高ランク。ただ、この金属は採掘されていない。ダンジョン等の際奥にあるとされる。扱いには高い魔力系スキルが必要。付与は桁違いに付けられる。今現在、この金属を扱えるのは、あの残念金髪美形くらいだろう。
必死に魔道炉に魔力を流すマリ先輩とリツさん、ローズさん。心配そうに見ているアーサー。ナイフを研ぎながら苦笑いのアルフさん。そして、私。
あ。
「魔鉄が私で、アーサーが魔鉄とミスリル合金で、リツさん、マリ先輩、ローズさんがミスリルで、アルフさんがアダマンタイトですね」
…………………
あれ? 皆、止まっている。私を振り返って。
沈黙が痛い。私、ふと思ったことを口にしたけど、変なこと言ったんだ。こんな時脳筋は困る。どうしよう。何か言わないと。ダメだ、思い付かない。
そんな沈黙も破ったのは、アルフさんの笑い声だ。
「あははは、そうか、儂はアダマンタイトか。そうかそうか。ルナにはアダマンタイトか」
涙まで浮かべそうなアルフさん。ツボに入ったのか?
魔道炉の前の三人はぶつぶつ。あ、やっぱり、私、変なこと言ったんだ。
「ちょっと付け加えるか。自分なりに理解をしろ。他がどう思おうが、自分の感覚信じてみろ」
アルフさんは立ち上がる。
「儂、出かけるがいいか?」
「あ、はい。どうぞ」
リツさんが返事をする。
「あ、あの、アルフさん」
入り口に向かったアルフさんを追いかける。
「どうしたルナ?」
「私、変なこと言って……」
マリ先輩、リツさん、ローズさんが魔道炉の前で、ぶつぶつぶつぶつ。
ちょっと怖い。
「いや、そんなことはない。ルナ、お前の言葉で思い出せた。儂がどうしてアダマンタイトを扱えたかな。ありがとう、ルナ」
う、言われて恥ずかしい。嬉しい。嬉しい。嬉しい。
アルフさんは赤い目を細めて、優しく頭を撫でてくれる。
慣れたけど、慣れたけどさ、いつまでも私はアルフさんにとって、子供なんだろうな。
ふっ、と手が離れる。そして、少し屈んで私の顔を覗き込んで。頬に手で触れる。
顔、近い。心臓、飛び出しそう。
「ルナ」
「はい」
ゴツゴツした親指で、私の頬を触るアルフさんが続ける。あんまり頬なんて触れないから、嬉しいやら、恥ずかしいやら。顔に血が昇る。
「お前、儂にとっては、オリハルコンなんだがな」
「私、そんな、上等ではないです」
何を言っているんだろう、私なんていいとこ魔鉄だ。魔鉄なら、代わりはいるからね。視線を反らして返事をする。
「本当にお前は難儀だな」
アルフさんは少し困った顔でそう言って、体を離す。
「出かけてくる」
「はい。行ってらっしゃい」
視線を反らしたままで、私はアルフさんの足元だけ見て、見送った。
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