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初クエスト②

胃袋掴まれる。

 満腹。

 うん、満腹。

「ルミナス様、お茶のおかわりは?」

「あ、大丈夫です。ありがとうございます」

 女神、いや、マリ先輩はシートの上で昼寝してる。だからクエスト中で、近くは少ないとはいえ魔物がね、いや、やめよう。何が来てもすべて撃退しよう。コロッケの女神、いや、マリ先輩は私が守るのだ。

「そうだ、ローズさん。コロッケがマリ先輩の発案ならもしかして、唐揚げやメンチカツもそうですか?」

「はい、そうです。それ以外にもマリ様の発案はあります」

 ポテトサラダ、フライドポテト、ポテトチップ、食パン、先ほどいただいたパンはロールパン、他にもグラタン、細かい肉(ひき肉というらしい)を使ったミートソースやミートボールやミートローフ、学園でいただいたことのあるサクッとしたクッキー、クリームを使ったケーキ、さまざまな焼き菓子。冷たい砂糖菓子のアイスクリーム。それ以外にもクレイハート製の魔道具はどこかしらマリ先輩のアイデアが盛り込んである。

「マリ先輩って、天才ですね」

「ええ、皆さんそう仰います。アイデアは確かにすごいですね。再現するのに何人もの錬金術師が苦労しているようですが」

「お抱えの錬金術師いるんですか?」

「はい、砂糖の話はしましたよね。その砂糖を生成するための魔道具も、お抱えの錬金術師とある方のお知恵をお借りしたと聞いてます」

「ある方ね。しかし、クレイハート家はこれだけ特許があれば、さらに発展ですね」

 下衆な話だけど。

「そうですね。コロッケだけでも売り上げ金はすごい額ですし、コロッケだけではなく、唐揚げなどのレシピの使用料だけでも、かなり額がマリ様の元に集まってます。きっと想像以上です」

「え、使用料ってマリ先輩に入って来るの?」

「はい。魔道具関連はクレイハート家ですが、食べ物関連はマリ様に権利あります」

 レシピの使用料はマリ先輩の意向で安価に設定してあるそうだが、それでもかなりの額が自動的に入るそうだ。それ以外はライドエル王国で出したコロッケ屋台の純利益。旋風を巻き起こしたコロッケだ、これだってかなりの額のはず。

「わざわざ冒険者しなくても、生きていけますよね」

「そうですね。そこがマリ様らしいところです」

 ローズさんがカップや皿を片付ける。

「まさかマリ先輩の名前の店があったりして」

「ございますよ。『皆の食堂 マリッペ』『スイーツショップ マリちゃん』 『カフェ マリーナ』後、新店舗もオープン予定です」

「わーお」

 本当にあったよ。しかし気になる。ライドエルには戻らないが、クリスタム王国にも新店舗出してくれないかな。通うのに。

 しかし意外だなぁ、マリ先輩がこんなに誰も考え付かないようなアイデアが出せるなんて。

 そう思っているとマリ先輩が、猫のように身をよじって起き上がる。

「ああ、寝ちゃった」

「おはようございますマリ先輩」

「あ、うん、ねえルナちゃん、午後まで薬草探しするの?」

 聞いてきたマリ先輩に、私は首を振る。

「いえ、魔法の試し打ちをしましょう」

「やった。実戦」

「試し打ちです」

 食器やシートを片付け、さらに移動。

 丁度いい石発見。周りに人もいない。

「あの石に向かって、得意魔法を撃ってください」

 石を指し示し、マリ先輩とローズさんに指示し出す。

「了解、まず私ね。大地の礫よ、眼前の敵を穿て」

 土魔法だね。確かマリ先輩の魔法スキルの中でも土魔法がレベル高かったはず。魔力の流れも悪くない。

「ストーンバレットッ」

 親指を立て、人差し指を突きだし、残りの指は握る。人差し指。先に魔力が集まり、胡桃大の石が飛び出し石に当たって砕けた。思ったより命中率がいい。あの手の形がいいのかも。普通魔法を放つ時は手のひらを対象に向けるか、杖を向けるなど。多分あの手の形はぶれが少ないのだろう。感心していると。

「バレットッ、バレットッ」

 続けて胡桃大の石が飛ぶ。

 え、連発? 普通、ストーンバレットはマリ先輩が放った位の石の礫を一つ、もしくは小さな石の礫を複数飛ばす魔法のはず。連発したよこの人。

「どうルナちゃん?」

「いいですね、連発なんて初めて見ました。何発までなら撃てます?」

「今の三発だよ。もっとたくさん撃てた方がいいよね」

「確かにそうですが、魔法の発動中は無防備に近いですから。ある程度撃った後は周囲警戒し、戦況確認し、援護する魔法や迎撃する魔法か判断しなくては行けません。特に初撃以後はまず状況判断です」

「はい、ルナ先生」

 う、可愛いなぁ。

「では、次、ローズさん」

「はい」

 すっと進み出て、ローズさんは呪文を唱える。

「雷神よ、汝の力のひと欠片を我に与えよ」

 バチバチッ

「サンダーアローッ」

 ドカン、と音がする。見事石に命中し、半分は吹き飛ばしている。

 さすが雷魔法。魔法が飛ばされた瞬間が全く見えなかった。威力も素晴らしい、素晴らしいが。時間がかかりすぎる。放つまでに時間がかかる。魔力を集中させるのに時間がかかっている。上位魔法なため、仕方ないのかも知れないが、実際の戦闘では敵は待ってくれない、いい標的だ。これは魔力感知スキルアップと魔力操作のスキル獲得が必須だな。

 その旨をローズさんに伝える。

「承知しました」

「まず、初撃が肝心です。常に神経を尖らせ、魔力を流し続けると、いざ戦闘になった時、勝敗を左右します、こんな風に」

【風魔法 発動】

「ウインドカッターッ」

 私の放った風の刃が、草を払った。そして「ぎゃっ」という獣の声。マリ先輩とローズさんは訳がわからない顔で、声の方を向く。私は払われた草の近くで、それを掴み上げる。

「ほら、こんな風に。敵を先に倒せるし、動きを封じたり、次の攻撃

を与えやすくなります」

 私の手には角ウサギ。絶命してる。

「す、すごいルナちゃん、いつ気がついたの?」

「ローズさんに説明してる最中ですよ、私には索敵スキルありますから。まだスキルレベルは低いですが」

 このスキルは後天性スキル。家出した直後に手に入れた。

「死んでるの?」

「ええ、血抜きしてギルドに持ち込めば、買い取ってくれますよ」

 ぶら下げた角ウサギに、マリ先輩はドン引きしてる。

「いくらになるの?」

「大きさによりけりですが、そうですね、これ位なら解体代引いて1500Gですね。解体してみます?」

「いえ、結構です」

 丁寧にお断りされた。

「じゃあ、血抜きしますね」

「あ、待って。生きてないならマジックバックに入るよ。ねえローズ?」

「はい、大丈夫です」

「いいんですか?」

「大丈夫よ、時間停止だから」

 そう言われ、マジックバックに角ウサギを入れる。もちろん入れる前にマリ先輩が浄化をかける。

 それから、再度魔法の試し打ち。火と風魔法だが、先ほどの土魔法ほどではなかった。マリ先輩は土魔法の相性がいいんだろう。

「とにかく繰り返し魔法は使ってください。そうすれば魔法スキル自体のレベルが上がります。魔力感知でもです。レベルが上がれば魔法の発動もスムーズになりますし、消化魔力も減ります」

「はい、ルナ先生」

 うん、くすぐったいな。少年達にから「姐さん」と言われた時は、周りの目あって恥ずかしさでいっぱいだったが、なんだかくすぐったい。

 休憩を挟みながら、魔法の試し打ち。

 結局二人はへばってしまい、帰りも馬車に乗った。帰りの馬車の中で二人は爆睡していた。

 朝の少年達もいたがこちらも爆睡。

 ごとごとと、馬車は首都まで運んでくれる。

 無事に首都到着。

 すでに夕方近く。二人を起こして冒険者ギルドへ。

 せっかくだ、冒険者ギルドに薬草を持ち込んだ。時間停止のマジックバックがあっても、持ち込まないとクエスト達成にはならない。マリ先輩とローズさんは共同採取したことにして、薬草を提出することになった。共同にすると、評価が半分になるが、レベルの低い初心者の冒険者はこうやって依頼をこなしてランクをあげる。私は別口、だって未成年ですから。

 馬車で疲れていたマリ先輩も完全に目が覚めたようで、嬉しそうにクエスト報告カウンターの列に並んだ。

 しばらく待っていよいよマリ先輩とローズさんの順番になる。カウンターには、ごついおじさん。

「薬草採取の依頼です。連名で提出します」

「ギルドカードを確認します」

「はい」

 ちゃんと準備していたマリ先輩とローズさんは冒険者ギルドカードを差し出す。

 おじさんはカードをチェックする。

「では、薬草を提出してください」

 マリ先輩は肩掛けの鞄から薬草を取り出す。冒険者ギルドに入る前に、マジックバックから入れ換えたのだ。高級品の魔道具を持っていると狙われる恐れがあるからだ。

 提出したのはクロエ草5束6組、ライモ草5束3組、ホウリン草5束3組。まだ少しあるのだが、端数のためマジックバックにしまってある。

「確認します。はい、確かに。合わせて12000Gです」

 一目で薬草だとわかったよ、このおじさん元冒険者かもしれない。それかベテラン職員さんか。金貨1枚、銀貨2枚。

 硬貨を受け取りマリ先輩の笑顔が咲く。うわあ、まぶしい。純粋過ぎてまぶしい。

「やった、やったよローズ。初クエスト達成だよ」

「良かったですねマリ様、さ、次のルナ様がお待ちです」

「あ、そうだった、ルナちゃんどうぞ」

 興奮気味のマリ先輩を、ローズさんが誘導。

「ルナちゃん入り口で待ってるね」

 嬉しそうにマリ先輩が声を私に声をかけ、ギルドの入り口に向かって行った。

「はい、買い取りお願いします」

「ギルドカードを確認します」

「ありません、未成年です」

 私はカウンターの前に立ち、薬草と角ウサギを出す。

「分かりました。確認しますね。クロエ草5束4組、ライモ草5束3組、ホウリン草5束2組、角ウサギですね。薬草は合計9000Gで、角ウサギは1500Gで、全て合わせて10500です、よろしいでしょうか?」

「はい、お願いします」

 問題ない額だ。ガイスの冒険者ギルドがひどすぎただけか。これが、本来の冒険者ギルドなんだろうな。金貨1枚と銅貨5枚を受けとり、マリ先輩とローズさんのもとへ。良かった、変なのに、絡まれてない。

「ルナちゃん、角ウサギ買い取って貰えた?」

「はい、適正価格で」

「良かったね、うふふ、初クエスト達成だね」

「おめでとうございますマリ様」

「ローズもだよ」

「はい、マリ様」

「さあ、もう帰りましょう。暗くなりますから」

 スキップで帰りそうなマリ先輩を、周りの冒険者達は温かく、もしくは覚めた目で見ている。当人であるマリ先輩は気がついてない。

「ルナちゃん、ローズ、早く帰ろう。お腹減っちゃった」

 マリ先輩を先頭に、大通りを抜け、春風亭に戻った。

 冒険者としての初日が、初クエスト達成し、それ以外にもいろいろあった1日が終わった。

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