情報②
メインのボアのローストが登場すると、歓声が上がる。
「ホリィさん、後は私達でするから、もういいから」
「しかし、リツ様」
「ルドルフ君はまだ小さいし、アンナちゃん達だけじゃね。もう、大丈夫よ。あ、主人の命令的な感じかな」
「リツ様…ありがとうございます。下がらせていただきます」
ホリィさんは、頭を下げて、下がる。
その様子を見て、フレナさんが不思議そうに聞く。
「ねえ、リツさん、子供いるの?」
「私にはいません。ホリィさんの子供です。下の子はまだ二才だから、生活リズム崩したくないので」
「え? 彼女、奴隷よね? 奴隷の子供? まさか二人いるの?」
「三人です。特殊奴隷ですね。子供達の身を守る為にですけど」
「三人も?」
「はい、みんな可愛くて、いい子ですよ」
さも当然と答えるリツさん。
「そう…なんだか、ここの奴隷の扱い破格ね」
「らしいですね。私、奴隷がいない所にいたので、よく分からないので。私なりの対応です」
「そう」
フレナさんはなんとなく納得。
リツさんはボアのローストをスライス。お皿に綺麗に並べる。マリ先輩は焼き野菜を添え、私はマッシュポテト、アーサーはソース。ローズさんが配膳。流れ作業です。アルフさんはマルコフさんのグラスにワインを注ぐ。
「すまんな、飲めないお前に酌させて」
「気にせんでくれ。儂の都合だからな」
フレナさんとサリナも、ボアのロースト見て、少しだけと、ワインを飲むことに。ローズさんが、さっとグラスを出し、アルフさんがワインを注ぐ。
「本当に貴族にでもなった気分だ」
ローストを見てマルコフさんが再び言う。
「まだ沢山ありますから、食べてくださいね」
リツさんがそう言うと、一斉にローストにナイフを入れる。
「柔らかい」
異口同音。
確かに柔らかい。ぱくり。
「旨いッ」
「なにこれ美味しい」
「ソース、旨いなあ」
バラックが一声、エレが驚き、イレイサーが呟く。
「ちょっとやめてショウ君、お肉なくなるから」
スルー。
「柔らかい、すごく柔らかい」
「あう、あんまり入らない」
「あんだけパン食べたらねえ」
キャリーは柔らかいと連発、ララが唸り、サリナが呆れる。
うん、美味しい。ぱくりぱくり。マッシュポテトにソース絡めて、ぱくり。うふふ、美味しい。
「食べてるルナちゃんは、本当にかわいいね」
フレナさんがしげしげ見て言う。
何がかわいいのだろう?
「ダメですよ。うちのルナちゃんですからね」
「そうです。私達のルナちゃんです」
マリ先輩とリツさんが言う。
アルフさんも笑ってる。
なんだろう? でも、みんな笑顔だから、ま、いっか。
ぱくりぱくり。
「アーサー君も食べようよ、僕の隣に来なよ」
バーンが皿をガードしながら、次のローストの準備をしていたアーサーに声をかける。
「自分は奴隷なので」
「いいじゃん。一緒に戦った仲じゃん」
「ありがとうございます、お気持ちだけで十分です。どうぞ」
アーサーが新しいボアのローストをバーンの前に。
「やめてショウ君、本当に僕食べれないから」
スルー。
男性陣がそれぞれ追加し、話しが弾む。
「ダンジョンに入りたいの?」
エレとマリ先輩の話し花が咲く。
「そうなんです。でも、ダメって言われて」
ぶう、と口を尖らせる。かわいいけど、ダメですからね。
「此処からならラ・マースね。まあ、あそこはレベル高いからね。斥候はいるの?」
「いません」
「じゃあ、無理ね」
エレがバッサリ。
「ラ・マースはレベルが高い理由に罠があるのよ。しかも、毒のね」
エレがワインを一口。
「ラ・マース以外にもダンジョンあるじゃない。アルフは確か、鍛治師ギルド忙しいから抜きね。だとしたら『賢者マロンのため息』じゃない?」
なんだそれ?
「クリスタムの南、タランス近くね。罠もあるけど、罠が致死性ないもので、ちょっとした落とし穴とか小さな落石なの。初心者向きね」
ぐりん、と私の方を向くマリ先輩。
「ダメです」
「くうっ」
装備がないもん。
「容赦ないわね、ルナちゃん」
フレナさんがちょっと気の毒そうに言う。
ダメなものは、ダメです。流石に気配感知の及ばない罠から、マリ先輩を完全に守る自信ない。
「まあ、確かにあのダンジョンは低レベル向きだけど。彼処は人気だし、入るのに順調待ちだしね。私もパーティー組んだ頃に潜ったわね。ルナちゃんくらいなら、結構深く潜れるんじゃない?」
もの凄い顔で私が見るマリ先輩。ダメですよ。
「潜りませんよ」
「くうっ」
地団駄踏むようなマリ先輩。
装備揃えて下さいよ。ぱくりぱくり。
「でも、タランスには行ってみたいわ。布の産地だし」
リツさんがお願いするように私に言う。
まあ、それくらいなら。
「移動はどうするんです? フレナさんは、乗り合い馬車ならどれくらいかかります?」
「乗り合い馬車なら、1ヶ月ね、片道」
「あ、そうなんですか。そんなに家を開けられないわね。帰って来るときには冬になるのね」
諦めモードのリツさん。
「馬車、ショウ君に牽かせたら?」
バーンが皿を守りながら提案。当のショウはバーンのローストを狙う。
グリフォンが引く馬車か。まあ、あのスレイプニルの馬車見たからなあ。特注しないとね。
「ショウに馬車か。まだショウはまだ若いから早くないか?」
「そうですね。ショウはまだ子供だし、重い馬車なんて…タランスのダンジョンは諦めます」
アルフさんの言葉に、優しいマリ先輩は同意気味。
諦めてくれた。良かった。ぱくり。
まあ、そのうちダンジョン潜りますよ。装備揃ってからね。でも、斥候どうしよう? アーサーの闇魔法に頼るしかないかな。確か『進入』はスキルレベルは30越さないと使えないはず。アーサーの闇魔法スキルは23。
やはり、レベルアップ必要。
当のアーサーはボアをせっせと切り分け、肉の塊がどんどん小さくなる。
最後はバーンに渡される。ショウも興味なくなったのか、お腹一杯なのが、とことこマリ先輩の足元へ。
「ああ、美味しい、お肉、美味しい」
バーンが大事に大事に食べている。
ほとんどの皿が空になり、マリ先輩がデザートの準備を始める。シフォンケーキだ。ローズさんはお茶。
「甘いの、皆さん大丈夫ですか?」
マリ先輩が聞くと、皆さん大丈夫みたい。
シフォンケーキを見た、まあ『紅の波』のテンション高い高い。
本当に、普通の女性だね。
読んでいただきありがとうございます。




