アップ③
前菜
「斥候の能力は努力すれば、手に入るわけじゃないですからね」
「そうなの?」
「そうですよ。生まれつきの個性です。ほら、魔法と一緒です」
「ふーん」
私の説明に、なんとか納得。
ちなみに斥候に向いているのは、獣人やエルフだ。うちにはいません。ないものねだりだね。
再びマリ先輩が、小さくダンジョン、一階はダメ? て聞かれたが、ばっさりダメと答える。
しゅーんとなるマリ先輩。かわいいなあ。
屋敷に戻り、討伐金の配当になる。
まあ、揉めました。
「私、そんなに要りません。家賃、安すぎる上に服やら靴やらもらっているのに」
「儂も、いろいろしてもらっているからなあ」
キングとジェネラルを私とアルフさんに、と言う話になり、二人で首を振る。まあ、多少もらって、ライドエルに仕送りできればいいしね。
「何を言っているんですか? キングとジェネラルは二人が倒したようなものでしょう? 受け取ってください」
リツさんと私、アルフさんの攻防。
結局、負けました。
キングとジェネラルの討伐金をアルフさんと半分となる。他のゴブリンの討伐金は、さすがに辞退させてもらいました。
1050000です。
…………送ろう。家賃、そうだね、半年分残して送ろう。
次の日。
朝からリツさん達はご招待するためのメニューを確認し、作業開始。
「何に、するんです?」
私がリツさんに聞く。
「ボアをメインにするわ。皆さん、お肉大好きだって聞いたから。まずはメインはローストにして、前菜に色々見映えよく並べようと思うの。スープはコンソメスープ、パンはルヴァンがいいかしら。デザート、マリちゃんにお願いしてもいいかしら?」
「任せて」
おう、今日もご馳走だ。私もありつける。うっふっふ。
コンソメスープ、ルヴァンはリツさんのアイテムボックスにある。
アルフさんとアーサーは、テーブルや椅子を設置。あわてて中古を手に入れたので、アルフさんが微調整。本当になんでもできるね。アーサーはお手伝い。
私はリツさんの指示でお手伝い。野菜切って、形を整えたボアの肉がオーブンに。
断面の美しいスパニッシュオムレツ、ウサギ肉の野菜巻き、カボチャのロースト、エビと白身魚のマリネ、リツさん特製腸詰め、ラタトゥイユ、マヨネーズ付き蒸したブロッコリー、一口大に切られたチーズ。
豪華だ、めっちゃ豪華だ。少しずつ、綺麗に盛られる。
全部絶対美味しいぞ。でも、せっかくだから、綺麗に盛って食べてほしいよね。
「ルナちゃん、あーん」
今日はリツさんからあーんです。ウサギの野菜巻きの端をもらう、うん、美味しい。
「ピィピィ」
ショウまで寄ってくる。いや、あんたのご主人、マリ先輩だよね。
「うふふ、ショウもあーん」
「ピィッピィッ」
左右に体を揺らして、喜んでいるよ。
整然と並んだ木皿に、リツさんが始めに並べて、後は私がせっせと同じように並べる。
朝から昼過ぎまでかかる。
ボアのローストも完成。いい匂い。
どれだけ作ったんだろうなあ。
まあ、いいや。
ホリィさんに配膳の依頼をし、手順の説明すみ。
昼過ぎからアルフさんは工房に籠る。欠けた槍の修理だ。
「どうするんですか?」
リツさんが聞く。
「こいつを溶かして作る」
アルフさんは斧を取り出す。
「もともと、槍を作った時に出たあまりで作ったんだ」
同じ材質なのね。
アルフさんは魔道炉を駆使し、斧の刃を溶かし、槍の穂先を作り上げる。
あっという間だね。
「すごいアルフさん。あっという間ですね」
マリ先輩が、パチパチ拍手。
「何度も作り直したからな、感覚で覚えているんだよ。しかも散々こいつを振り回したからな」
なるほど。
アルフさんは砥石を出し、手際よく刃に当てる。
しゃっしゃっしゃっ
なんか、かっこいいなあ。私もある程度研ぎできるが、やはり本職。敵わない。
「よし、後は付与かな」
寸分たがわない穂先が出来上がる。
登場したのはブラッディグリズリーの魔石。
「あ、アルフさん、自動修復つけます?」
「儂には、その付与は付けられんし。もとの付与のコストから考えると自動修復は無理だ」
「裏技ありますよ」
リツさんが魔石を指す。
「かなりいい魔石だから行けると思います。魔石に付与を付けると許容以上の付与が付くんです」
そうなんだ、あのナリミヤ氏そんな事してたのね。そういえば、二代目や薙刀、ラウンドシールド、最後の剣の付与も凄かった。そうやって着けたのかあの人。
「魔石に付与? できるのか?」
「質によりますし、付かない場合もありますが」
「へえ、ナリミヤ氏直伝か?」
「そうです、ちょっと貸してください」
「いいのか?」
アルフさんがリツさんに魔石を渡す。
リツさんとマリ先輩が自動修復の付与を付ける。
あ、色が少し変わる。石の奥に光が宿る。
「すごいな、本当にできたな」
「一応、錬金術師ですから」
リツさんとマリ先輩が笑う。
「感謝する。さて、今日は中の硬化強化くらいしかできんな」
アルフさんは魔石を穂先に付け、魔力を流す。
するすると、魔石が穂先に溶け込んで行く。
「ふう、できた。さすがレベルが上がったおかげだな。枯渇せん」
レベル77ですからね。
残りの付与は後日となる。
「そのうち、アーサーに剣と槍、盾つくらんとな。さて、材料をどうするかな?」
アルフさんが長い腕を組む。
「鍛治師ギルドに売ってないんですか?」
マリ先輩が聞く。
「今、材料不足でな。ミュート関連でな」
「あれ、鉱石取りに行けないんですか?」
確かナリミヤ氏がそんな事言ってたし。
「クリスタム国内の鉱山での採掘は制限がかかってる。何でも、何年か前に誰かが、坑道一本堀尽くしたらしくて」
押し黙る私達の頭に、多分、同じ人物が浮かぶ。
あの残念金髪美形、なにしてんのよ。
「アルフさん、制限って?」
リツさんが聞く。
「鍛治師のランクだ。確かBランク以上のものがおらんと入山できんはずだ。後はなんだっかな? すまん、なんかあったが忘れた」
「ちなみにアルフさん、鍛治師ランクは?」
マリ先輩が聞く。
「Eだぞ。最低ランクだからな」
え、嘘でしょ?
アルフさんの答えに全員が疑いの眼差し。
「はあ、鍛治はな、申告せんと上がらんのだ。儂、いろいろあって出来んかったんだよ」
確かスランプがひどくて長かったって聞いたな。
「「申告してください」」
「別に、ランク上げんといかん理由がないし、面倒なんだがなあ。予約すれば、インゴットそのうち手に入るぞ」
サッと、リツさん、マリ先輩、ローズさんが集合。
ゴニョゴニョ。
なんだ、なんだ?
私とアルフさんは、そんな顔で三人を見る。
くるっと振り返る三人。
「最強兵器ルナちゃん起動」
はあ? リツさん、何を言っているの?
「さ、お願いして、ルナちゃん」
ええぇぇぇ、マリ先輩?
「どうぞ。ルミナス様。お嬢様特製ふわふわパンケーキ、特製クリーム、フルーツ盛り合わせでございます」
「アルフさんッ、ランク上げてくださいッ」
私はガシッとアルフさんの手を握る。
「はあぁぁぁッ、ルナァ?」
アルフさんは動揺してる。
「もう一撃よッ」
「追撃よ、ローズッ」
「イチゴとミルクジェラートのパフェでございます」
「お願いしますッ、アルフさんッ、ランク上げてくださいッ、肩、お揉みしますからッ」
ぐわあ、とアルフさんが仰け反る。
「お前らたちわるいぞッ、ああ、わかったわかったッ、副ギルドマスターに相談するッ」
「「「よし」」」
「ありがとうございますアルフさん」
私は額に手を置くアルフさんの手をぶんぶん。
「負けた、ルナの食欲に、負けた……」
スルー。
「ルミナス様、どうぞ。今、お茶の準備を致します」
わーい、いただきます。
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