殲滅⑥
ホープ
夕飯の終わり頃にアーサーが目を覚ました。
「なんか、体、熱いです」
ちょっとふらふらしているアーサー。元のレベルが平均値だったからね。いろいろついて行かないんだろう、恐らくスキルレベルもかなり上がっているはず。
「アーサー君、大丈夫? どこか痛いとこない?」
優しいリツさんが顔を覗き込む。アーサーはアワアワ。うん、かわいいリツさんのドアップ、アーサーには十分精神打撃だね。
なんとか落ち着いたアーサーが水餃子のスープを、ほーっとした顔で食べていると。
「僕、男の子でもいけそ、げふぅッ」
アルフさんの槍(柄の部分ね)がバーンを突き飛ばす。
「ショウ、つつけ」
アルフさんの指示でショウがバーンをつつく。
あれ? 主人はマリ先輩だよね? 何故?
「ピィッ」
つんつんつん。
「痛い、痛いってッ」
づんづんづん。
「冗談だよ、僕、女性大好き、かわいい笑顔の女性は種族問わずにウェルカムッ」
「すまない、うちのバカが」
マルコフさんが謝ってくる。デジャブ。
ショウが逃げるバーンを追いかける。
「メエメエ~」
何故かノゾミまで。微笑ましいなあ。当のアーサーは分からず、首を傾げている。
「本当に懲りないね」
フレナさんがスープ皿を拭きながら呆れている。
「でもあんたかわいいね。ちょっとお姉さんとお話ししない? その槍持って」
エレがウインク。
「あんたも懲りないね」
「だってこの子有望よ。顔だっていいし、2~3年もしたら、絶対いい男になってるよ」
「うちのホープなんだ、手を出さんでくれ」
アルフさんがエレにため息混じりに言う。
アーサーはそう言われ恥ずかしそうにしている。
「でも、こんな子、よく手に入れましたね。支援魔法なんて、奴隷にするには勿体ない位の魔法センスです」
さすが魔法職のキャリー、気が付いている。
「いろいろありまして」
リツさんが言葉を濁す。それ以上は聞かれなかった。
いざ夜営の番をどうするかで、ちょっと揉めた。
私の最後の剣、二代目、ナイフの鞘には結界の効果あるから、回りを囲むように地面に刺す。最後の剣は抜き身のまま、マジックバック内です。しかし、マジックバックって便利。これと思うものだけ出てきてくれる。
「アルフさん、自分起きてますから」
「いや、儂が番をする。儂はドワーフだからな、徹夜くらい大丈夫だ。お前まだくらくらするだろう? 明日も歩かんといかんから、寝ろ、いいな」
結局、アーサーはリツさん達のテント前で、ショウに寄りかかって寝ていた。はじめは起きていたけどね。
リツさん達は明日の食事頼むと言われ、テントに入る。
各パーティーから1人、番を出すことに。
私も起きていたけど、レベルアップの影響でうつらうつら。
テントにはノゾミが入り、ショウが頭を突っ込んだので、私の入るスペースがなくなった。テントの入口でショウのお尻だけ出てる。私は眠くないと言って、心配するリツさんとマリ先輩をテントに押し込んだ。
「ルナ、こっち来い」
眠い。アルフさんに呼ばれ、隣に座る。
「少し寝ろ、後で起こす」
はい。
返事したけど、聞こえたかな?
「ルナちゃん、寝た?」
アルフレッドが自分の外套を、寄りかかって眠るルナの肩にかける。小声でフレナが聞く。
「本当にこの子の素性知らないの?」
「ああ、知らん」
「呑気ね」
フレナが呆れる。
「だが、あの剣さばき、常人じゃないぞ」
焚き火に新しい枝をいれながら、マルコフも言う。
「お前も強いが、この子も別格だ。あんなゴブリンの群れに怯みもしないし、ジェネラルにも臆しない」
「しかも、右翼に左翼って何よ。まるで指揮官じゃない。ちゃんと状況見て割り振ってたし」
「さあ、ルナには才能があるんだろう」
フレナが再び、呑気ね、と呟く。
冒険者ギルドで初めて見た時、どこかの商会のお使いと思っていたが、なんとJランクの冒険者。冒険者副ギルドマスターが保証人と聞いて驚いていたが、今日の殲滅戦で度肝を抜かれた。武器もすごいが、それを躊躇いなく使いこなすルナに、フレナは一瞬、恐怖すら覚えた。
しかし、夕飯のスープを口にしている時のギャップが激しすぎて、言葉を失ったのはついさっきだが。
「いつか、話してくれるだろう。儂はそれまで待てばいい」
フレナがアルフレッドの言葉にため息。
「ベタぼれね」
「そうか?」
「そうよ、あんた、今の顔、鏡で見てごらん」
「いい顔しているぞ」
マルコフがフレナの言葉に頷く。
寄りかかって眠るルナを気遣うアルフレッドは、いつにも増して穏やかだ。愛しくて、愛しくて、堪らない。そんな顔。いつも、どこか一線を引き、トラブルを恐れ、つかみ所がない顔をしていたアルフレッドから想像がつかない。
「お前は誰かと距離をおきたがっていたのにな。まあ、いいことだ。改めて、トウラの冒険者として歓迎する。もちろんルナ君や、彼女達もな」
「そうね。ようこそ、トウラに、だね」
「二人ともありがとう」
「ふふ、いいわよ。でもアルフ、ルナちゃんまだ未成年よ。分かっているんでしょうね?」
フレナの言葉にアルフレッドは肩を落とす。
「それ以前に、ルナにとって、儂の立ち位置がおかしい感じなんだ。まったく気がついてくれん」
ああ、とフレナが気の毒そうに呟く。
「これからよ。これから」
「そうだな。これから」
「二人とも、慰めるならこっち見て慰めてくれんか?」
読んでいただきありがとうございます