殲滅⑤
帰途
ゆらゆら、ゆらゆら、浮遊感。
あれ? なんだろう、すごく暖かい。
確か、ゴブリンナイトを最後に斬り倒して、それから、えっと、記憶が途切れた。目の前が真っ暗になって、え、私、まさか、死んだのかな?
重い瞼をこじ開ける。
「あれ?…」
「ルナちゃん、気がついた? 良かった、気分どう?」
マリ先輩の声がする。
私、歩いてないのに、移動してる。
体が、かっかする。なんか、変。
「あれ?…」
「大丈夫かい? ルナちゃん」
フレナさんの声もする。
よく見たら、私は『紅の波』タンクのサリナに背負われている
「あ、すいません、あ、歩きます…」
もぞもぞするが下ろしてもらえない。
「アルフさん、ルナちゃんが起きましたよ」
「そうか、良かった」
マリ先輩の声に、首をなんとか動かすと、アーサーを背負ったアルフさん。サリナの隣で歩いている。
辺りは、すでに真っ暗に近い。
「ルナ、具合どうだ?」
「なんか、かっか、します」
「レベルが上がりすぎたんだろう。たまにおるんだよ、レベルが上がりすぎて体がついて行かないことがな。アーサーもまだ目を醒まさんしな」
そっか、レベル上がったんだね。
アーサーも上がったからかな? まあ、元のレベルが平均的だったし。最後はゴブリンナイト、ルークも問題なく斬り倒してたしね。
だけど、みんな、いる。良かった。
「これ以上の移動は危険だな。夜営しよう」
マルコフさんの号令で、バーンとララが周囲を偵察。すぐに戻ってくる。
「リーダー、あっちにいいところあるよ」
「よし、行こう」
バーンを先頭で移動する。
少し開けた場所。
やっと下ろしてもらえる。
「ありがとう、ございます」
「いいよ。ちゃんと休みな」
サリナが優しく笑いかけてくれる。
ローズさんがいつものシートを敷き、アーサーが下ろされる。
「ルナちゃん、寒くない?」
リツさんがブランケットを私とアーサーにかけてくれる。
「大丈夫です、ここ、まだ魔の森ですか? ゴブリンの『巣』は?」
落ち着いて、と優しくリツさんはブランケットをかけなおす。
各パーティーが夜営の食事を始める。硬い黒パンだけどね。
リツさんとマリ先輩が鍋やら皿やら出し、ローズさんはマジックバックから簡易コンロを出しお茶の準備。
アルフさんが、それを見ながら説明をしてくれた。
私が最後のゴブリンナイトを倒した後に、生き残りがいないか確認。そこ辺り、なんとなく覚えている。確認が取れたと思った瞬間、安心してまずアーサーが倒れ、直後に私が倒れた。まあ、みんな慌てたらしい。私でもマリ先輩とかがいきなり倒れたら、動揺するよね。アルフさんには検討はついていたらしいが、念のためにヒールをかけて見たが反応なし。切り傷だらけだったが、きれいと治癒。
「恐らく、レベルが上がって、体がついていかんのだろう。しばらくすれば、目を覚ますだろう。皆はどうだ? 熱くないか?」
アルフさんの問いに落ち着きを取り戻したリツさん達。
「確かに、熱いです。心臓がどくどくする感じ」
リツさん、マリ先輩もそんな感じだが、ローズさんは動くのがキツそうだったため、私とアーサーを並べられたシートに横たわるとあっという間昏睡。ローズさんもかなりレベルが上がったみたい。
それからが大変だったと。
まずゴブリンとゴブリンポーンの右耳を切り落とし、アルフさんが魔法で作った穴は次々入れる。ルーク、ナイト、ジェネラル、クイーン、キングはリツさんのアイテムボックスへ。アルフさんが、簡単に説明して下さいが、重労働だったはず、なんせ数が凄かったから。
建物らしきものは壊し、穴蔵を埋め、大量のゴブリンを埋める。リツさんとマリ先輩が出来る限りの浄化をしたのは夕方近く。その頃にはローズさんは目を覚ましたが、私とアーサーはそのままのため、背負って移動になった。ゴブリンの『巣』近くで夜営は勘弁だよね。アルフさんが、私とアーサーを抱える予定だったが、サリナが「命の恩人」と私を背負ってくれた。重かっただろうな私。
「納得したか?」
「ええ、なんだか。迷惑をかけてしまって」
「ルナちゃん、気にしないの、さ、夕飯よ、体が暖まるわよ。食べれる?」
リツさんが心配そうに聞くが、腹はペコペコ。
「何でも食べれます」
キリッ
「うふふ、どうぞ、水餃子のスープよ」
ああ、いい匂い。私がさんざん包んだ餃子が入っている。全員にスープが行き渡る。
いただきます。
まずはスープ。ゴマ油の香りがいい、入っているのは野菜の千切りと私が包んだ餃子。ああ、ホッとする。角ウサギの角入りで、自然と体の奥底から温かくなる。餃子は、皮がツルッとして、口に入れると肉汁が溢れる。うーん、美味しい。
……………視線を感じる。
『ハーベの光』『紅の波』の全視線が集中してる。
あ、スープね、いい匂いだもんね。こんな夜営で本格的なスープなんて飲めないしね。ローズさんはお茶まで、淹れてるし。
ララなんて、黒パン咥えたまま固まっているし。
でも、これはうちらのスープなんだよね。ずー。
結局、優しいリツさんとマリ先輩が、お裾分け。
「うわあ、美味しいね」
フレナさんが驚いている。
「本当だな。絶品だ。そこらの食堂のスープとは比べ物にならない」
マルコフさんも絶賛。
「この白いのの中に入っているの肉? スッゴク美味しい」
エレもあちち、といいながら食べてる。
ふふん、リツさんとマリ先輩のご飯はみんな美味しいだよ。
いいでしょう。ずー。ああ、美味しい。
「ふふ、ルナちゃんって、食べてる時、とってもかわいいわね」
フレナさんが、おかしな事をいう。かわいい? あれ、リツさんやマリ先輩と勘違いしてるのかな?
「確かに、旨そうに食べるな。ちゃんと子供って感じだ。戦闘している時と同一人物とは思えん」
う、確かに未成年ですけど。マルコフさんまで、優しく言ってくる。
「ダメですよ、うちのルナちゃんですからね」
マリ先輩が何故か間に入る。
「そうです、うちのルナちゃんです」
リツさんまで。
嬉しいような恥ずかしいような。照れる。
そんな二人の行動に穏やかな笑い声が上がる。
「くううぅぅぅ、ルナちゃん…」
バーンが空になった皿を抱えて唸る。なんなのこの人。私のスープあげないからね。
「バーン」
アルフさんが、静かに視線が向ける。
「わかっとるな?」
一言。
「ひぃ、アルフが怖いッ」
本当になんなのこの人、アルフさん怒らせて。そんなスープ、美味しかったのかな、まあ、その気持ち分かるけどね。
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