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初クエスト①

レッツクエスト

「本当にお昼は何も準備しなくていいんですか?」

「お昼くらいこっちで用意させてよ。ルナちゃんには、お世話になるんだから」

 朝早く、ギルドの馬車に向かう前に春風亭でお昼のパンを準備しようとして、マリ先輩に止められた。

 今日はおそらく夕方までかかるから、途中で補給が必要になる。マリ先輩はマジックバックにかなりの食料を入れているとのこと。…本当にいくらするんだあのマジックバック。

 ギルドの馬車が待つ停留所に向かうと昨日の少年達がいた。私達に気がつくと、さっと整列する。

「「「「おはようございます。姐さん」」」」

 やめて、恥ずかしい。色んな人が珍獣を見る目になってる。

「ルナちゃん。慕われてるね」

 マリ先輩の曇りない瞳が痛い。やめて、本当に恥ずかしい。ローズさんは通常運転で無表情。

 色んな視線が突き刺さる中、逃げるように馬車に乗り込んだ。

 馬車料金は500G。首都を出て、周りの開拓された畑を抜けて近くの森まで運んでくれる。夕方にもう一度来て首都まで乗せてくれる。まあ、帰りは歩いてもいいし。

 馬車には私達以外にも、少年達と初心者冒険者らしき少年少女が5人。なんで同じ馬車にいるんだよ。馬車は北、西、南の三方向に出てるのに。東は川があるため馬車は出ていない。なんで同じ馬車。話しかけるなオーラを出していると、恐る恐る、少年の1人が「あの、姐さん」と声をかけるが、ギラリと睨んで黙らせる。頼むからやめて。

 しばらく馬車に揺られるとようやく到着。着いてこようとする四人の少年達に「採取クエストくらい自分たちでやれ」と追い払い、私達も移動する。

「森には近づいてはいけませんよ。あの森はレベルが低くても魔物がでます。今の先輩達のレベルでは、太刀打ちできませんから」

「はっきり言うね」

 そうでも言わないと、ふらふら行きそうだからね。首都近くの森だ、入り口付近は冒険者達が狩をしているため比較的魔物は少なく、また、王国の騎士団も定期的に討伐しているだろう。ここまで畑が開拓されているのだから、心配ないかと思うが。それでも釘を刺しておく。昨日シュタム様に約束したしね。出来る限りの危険は避けないと。

「今日の目的は?」

「薬草採取。えっとクロエ草とライモ草、ホウリン草」

「そうです。ホウリン草は根ごと採取です。気をつけてください」

 はーい、と元気な返事のマリ先輩。ローズさんと一緒に、地面にしゃがみこむ。

 では、私も採取しますか。

 さてさて、さてさて。


「うーん、こんなもんかな。そちらはどんな具合ですか?」

 屈んで薬草探していると、腰に来る。伸びてマリ先輩に声をかける。

「結局見つかったよ」

 えっへんとマリ先輩が差し出した薬草をチェック。

「これは違いますよ。よくホウリン草と間違えるんですが、軽い毒があります。これも違いますよ、裏に白い点々があるでしょ」

 ぽいぽい、違う草を除くと、残ったのはクロエ草12。ライモ草8。

「ええぇ、これだけ?」

 マリ先輩ががっかりしてる。

「ちなみに、今はぶかれたのは、もって行ってダメ?」

「買い取りしてくれるとは思えませんよ」

「くうっ」

 悔しそうなマリ先輩。

「もうちょっと探しましょう」

「わかった、ルナちゃんはどんな感じ?」

「私はクロエ草が10、ライモ草3、ホウリン草5。こんな感じです」

「結構採れたね」

「まだまだ頑張りましょう。まだ、宿代にもなりませんからね。せめてそれくらいは採りましょう。少し場所を変えましょう」

 はーいと元気なマリ先輩。

 少し場所を変え、再び地面にしゃがみこむ。

 さて、私が探しましょう。マリ先輩とローズさんを時折見ながら薬草を探す。

「これかな?」

「違いますよ、マリ様」

 寄り添って探している二人は姉妹のように見える。しばらく薬草探して宿代くらいになった頃、マリ先輩が声をかけてくる。

「ルナちゃんお昼にしよう。お腹減っちゃった」

「あ、はい」

 確かにお腹減った。

 ささっとローズさんが動く。さすがメイドさん、動きに無駄がない。

 まずシートを敷き、ナプキンやカップにポットが出てくる。なんだかピクニック感が出てきたぞ。

「ルミナス様、どうぞ」

「どうも」

 促されシートに座る。

「あの、本当にいいんですか?」

「どうぞお気になさらないでください」

 さっと差し出されたカップには、香のいい紅茶が。うん、美味しい。なんだろう、クエスト中なのに、何か違う。うん、美味しい。

「本日のランチは、ハムと玉子のサラダパンとコロッケパンです」

 上品な白い皿に並ぶそれを見て、思わず含んだ紅茶を噴き出した。

 ごはごはごはっ。

 咳き込む私を心配してマリ先輩が背中をさすってくれた。

 ハムと玉子は分かるよ、ちょっと高級品だけど手に入らないことはない。しかし、そこにあるのはマヨネーズという調味料を使った玉子のサラダが、ピンク色のハムとともに、これまた柔らかそうなちょっと楕円形のパンの切り込みに美しく挟まっている。マヨネーズが高級なのだよ、作り方は知らないが確か玉子と油で作るが、とにかく新鮮な材料でないとお腹を直撃する。なので口にできるのはお金持ちか、わたしみたいなのは奮発したお祝いの席でしか見たことはない。

 あと、コロッケだよ。コロッケ。コロッケ。何度も言うがコロッケだよ。これが登場するまでじゃがいもは蒸かすかスープに入れるしかなく、どちらかと言いと庶民の食べ物だ。それが数年前、揚げるという調理法でできたそれは、ライドエル王国の首都で屋台で売り出された。そしてあっという間にとんでもない大流行を起こした。貴族だろうが庶民だろうが、長蛇の列を作り、今ではライドエルを代表する料理になっている。ちょっと高いんだよ、1個500Gだよ500G。でも、美味しいんだよ。めちゃくちゃ美味しいんだよ。忘れもしない、11才の秋祭り、その屋台が出てて、家族で並んだ。ぐずるジェシカをなだめすかしてようやく買ってもらった黄金色に輝くそれは、匂いを嗅いだだけで涎が口一杯に溢れた。

 サクッ

 あの、感動を忘れない。サクサクの細かい衣の中は、ホクホクのじゃがいも。じゃがいもが主だか細かく刻んだ野菜やわずかに肉も入っていて、色んな旨味が溢れだした。

 コロッケ最高。コロッケ最強。

 私はコロッケの虜になった。いつかお金を稼いで心置き無くコロッケを食そう。そう決意した11才の秋。

 もともとじゃがいもは好きだったが、これは別格。コロッケ最高。コロッケ最強。神が我らに下さった、偉大なるコロッケ。そうコロッケ。キングオブじゃがいも。今拠点を置いてあるマルベールで、コロッケを扱っている店は見たことはない。まさかこんなところでお目にかかるとは。

「ルナちゃん、大丈夫って、おわうっ」

 私はマリ先輩の両手を祈るように握り締める。

「いただいてもよろしいんですか?」

「ルナちゃん、目が血走ってるよ。どうぞ、たくさん食べて」

「ありがとうございます。どんな手段を用いてもお二人をお守りします」

「大げさだなぁ」

「いただきますっ」

 がぶっ もぐもぐ。

「くう~」

 美味しい。あの、秋祭りで食べたコロッケより美味しい。トマトのソースが少し酸味があってさらに美味しくさせてる。挟んでいるパンは今までたべたことがない柔らかさ。エリック、ジェシカ、ごめん。私1人で味わってしまって。でも、これを考えついた人は神だ。

「そんなに好きだったの?」

 涙を浮かべて食べる私を見て、マリ先輩はちょっと引いている。

「はい、大好物です。これを考えた人は神です」

「えっ、本当? そう言ってもらえると、嬉しいな」

 …

 思わず、咀嚼が止まる。

「はあ?」

「コロッケの発案者はマリ様ですよ。屋台のアイデアもマリ様です」

 ローズさんの言葉にさらに沈黙。

「…これをマリ先輩が」

「はい、そうです」

 神がいたよ、目の前でニコニコしてる、可愛い神、いや、女神が。

「ルナちゃん美味しい? ねえローズ、唐揚げとメンチカツ出して、オーロラソース付きね」

「はい、マリ様」

 何故かノリノリのマリ先輩。てきぱきお皿を出すローズさん。ついていけない私。新しく出されたお皿にはちょっと一口では食べれない茶色の塊と、コロッケよりちょっと茶色で丸いの。添えられたピンク色のソース。

 なんだろう、めちゃくちゃいい匂い。

「あのねルナちゃん。唐揚げはね、鳥に衣を付けて油で揚げたの。メンチカツは豚と牛のお肉を細かくしてパン粉をまぶして油で揚げたの。先ずはそのままで食べて。それからそのピンクのソースを着けて食べて」

 笑顔で説明してくれるマリ先輩。パン粉? よくわからない言葉があるが、いただきますよ。まず唐揚げ。

 パクっ

 くわあ、肉汁が溢れる。しかも香ばしい、あっつい。うまい、うまいよ。ソースをつける、さらにうまい、うまいよ。何このソース。甘いし、ちょっと酸味がある。合うよ唐揚げに。

 一気に食べてしまった。

「美味しい?」

「絶品です。このソースも素晴らしいですね」

「本当? これはね、マヨネーズとトマトケチャップっていうトマトのソースを混ぜたの。メンチカツもどうぞ」

 さりげなく、高級調味料が出てくるが、今はどうでもいいや。

「いただきます」

 サクッ

 ぐはあ、肉汁が、肉汁が、溢れる。あっつい。唐揚げとは違うが、肉を細かくしてるため、柔らかい。しかしうまい。ソースをつける。さらにうまい。

「ルナちゃんどうしたの?」

 私が両目からだらだらと流す涙にマリ先輩が驚く。

 まあ、驚くだろうね。

「すみません。あまりに美味しいので…エリックとジェシカにも食べさせたい」

「ご馳走してあげるよ、いつでも作ってあげるよ」

「マリ先輩、どんな手段を用いてもお二人をお守りします」

 騎士の礼をする。

「だから、大げさだって」

 いいえ、それだけの価値ありますよこれは。

 私は出されたすべてを平らげ、再度、二人を守ろうと誓った。コロッケ、唐揚げ、メンチカツのため、いえ、違いますよ。ほら、ローズさんやシュタム様と約束したしね。決してコロッケ、コロッケ、唐揚げ、メンチカツを食べたいわけではないよ。二人といたら、これらが食べられるから、うん、食べられるから、うん、混乱。オーロラソース、かけたコロッケ、唐揚げ、メンチカツ。いくらでも食べれるよ、いつでも食べれるよ。

 私の頭の中は、コロッケ、唐揚げ、メンチカツ、オーロラソースで埋め尽くされる。それだけ衝撃的だった。

読んで頂きありがとうございます

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