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出会い①

始まりです。初投稿なので誤字やおかしな文があるかもしれません。

 私、ルミナス・コードウェルには前世の記憶がある。全ての記憶ではないが、50年前に国王の前で自害した愚かな女騎士と伝えられている。それはまだ小さな頃は違和感位で済んだか、成長するにつれ鮮明になる記憶は支障を来した。そのせいで子供らしくにもなれず、いつも誰かと一線を引いていたのは、前世の記憶があることを知られたくなくて。誰かと親しくなればボロが出そうで怖かった。貧乏とはいえ男爵家の娘だったが望むのはドレスや甘い菓子ではなく剣。回りからおかしな娘と言われても、いつも愛情を注いでくれた両親。姉と慕ってくれる可愛い弟と妹。その優しい家族にも話せないままずるずる生きてきた。だけどきっとこの記憶は、この家族を不幸にする。そうなる前に、私は姿を消した。それは2か月前、14才のまだ肌寒い早春だった。


「ルナちゃーん」

 明るい声が後ろから聞こえた。いつもなら振り向かない。無視だ無視。だって私の本名はルミナスでルナは愛称。この愛称で呼ぶのは家族か極々親しい間柄の人だけ。そう、親しい人。

 この曇りない明るさを持った声。聞き覚えあるけど、ここで聞こえてはいけない声に思わず振り返る。

「もう、勝手に居なくなるんだもん。探しちゃったよ」

「クレイハート先輩、何でこんなとこにいるんですか?」

 まさか、と思ったら茶色の目と髪の可愛らしい少女。その後にも見覚えのある人物が控えている。

「え? ルナちゃんを探して」

「いえ、そうじゃなくて…」

 ここ隣国で同盟国の首都だよ、まだあなたは自国の学園在学中だよね、てか、何で伯爵のご令嬢がいかにも駆け出しの魔法使いの格好してるの、何で護衛もいないでこんなとこにいるの、そもそもあのあなたに執着していた婚約者はどうした。

「すごいワンブレス」

 パチパチと拍手でもしそうな顔をするクレイハート先輩。

 そう彼女は以前私が在学していた学園の先輩。貴族か金持ちか本当に優秀な者が国中から集まる国立の学園だった。いろいろあって私は自主退学しそれを機会に家を出た。優しい両親は最後まで私を引き留めようとしていたけど、勝手に出てきてしまった。家出だ家出。うん、身勝手家出だ。きっと今頃呆れているだろう。

 あ、確か学園を出るとき駆けつけたのは先輩だったな。まさか、あの社交辞令を真に受けてたり、してないよね。

「マリ様、ここで立ち話もなんなので、あちらに広場がありました。ベンチもあったはずです。そちらで落ち着いてお話されては?」

 頭を抱える私と、ちょっと興奮気味のクレイハート先輩に声をかけたのは、見覚えある人物。名前は…確かローズさんだったかな? 緑の目に焦げ茶色の髪をきっちり一つに束ね、すっと背筋を伸ばして立つ姿は、旅装束がこれでもかと似合ってない。

「そうね。その方がいいわ。さすがローズ。気が利くわ」

「いや、そちらの方もなぜここに?」

「どうぞお気になさらずに」

「さ、ルナちゃん行きましょう」

 私は輝く笑顔のクレイハート先輩に手を引かれて、ローズさんの示した広場に連れていかれた。


「何かお飲み物を買って参ります」

「あ、ありがとう、よろしくお願いね」

「いえいえ、お構い無く」

 空いていたベンチに腰かけると、ローズさんが一声かけすっと動いた。屋台の一つに向かう後ろ姿を見送り、改めてクレイハート先輩と向き合う。

「で、何でこんなとこにいるんですか? クレイハート先輩」

「もう、そのクレイハート先輩ってやめて。マリって呼んでよ」

「マリーフレア先輩」

「マリよ、マリーじゃなくてマリよ。はい、練習」

「はあ…マリ先輩」

 ため息が出た。それをつかせた本人は嬉しそうだからまあいいか。名前位で喜んでいるからね。何故かマリーと伸ばすのではなくマリと切りたがる。まあでもこれからマリ先輩にしよう。一応前世を数えなければ、彼女は先輩だ。うん、先輩。

 マリーフレア・クレイハート。私の出身国であるライドエル王国の伯爵令嬢だ。茶色の目と髪の可愛い少女。クレイハート家に今やライドエル王国でも有数の資産を持つ。数年前に開発した魔道具は近隣諸国にも輸出されている。更にその魔道具をある錬金術師のアイディアを組み込んで、発売し販売数は更に右肩上がりらしい。とにかく大富豪だ。超が付くほどの。彼女はクレイハート家の長子だが、こんな感じで貴族らしくない言動を取る。授業に遅れそうになって、ドレスや裾を掴んで全力疾走。調理場に入り込んでお菓子を焼いたり、町娘の格好をして下町を散策。そこで困っている人がいれば誰でも声をかけ何とかしようと空回る。一度足の悪いご老人を背負って家まで送り届けたこともある。おおよそ貴族の令嬢らしからぬ行動で、長い付き合いのある者はなんだか諦めているような顔をしている。貴族の令嬢としてのマナーは一応学んでいるが、あまり得意ではない様子。流石に目上の者には礼節を取っているが、まあギリギリ。だが同年代には気さくに声をかけるし、大富豪だ貴族だと決して鼻にかけることはない。いろいろ学園で浮きまくっていた私に対してもだ。私も裏表なく接してくれて嬉しくて、ついつい『ルナと呼んでください』なんて言ってしまうほどに。なので私のことをルナと呼ぶのは家族以外は彼女だけだ。そう言えば、あの時もらったナッツのクッキー美味しかったなぁ。

「それでは改めて、先輩は何故ここに? 私だけが原因ではないでしょう?」

「あはは分かった? でも大部分はルナちゃんだからね」

 てへっと笑うマリ先輩。うん、可愛いから許しましょう。

 マリ先輩の説明をかいつまんでみると、こうだ。

①自分は貴族の生活が合わない。

②このままだと婚約者と上手く行かず。破滅する。

③狭い世界に囚われていたくない。もっと世界を見て回りたい。

④私が学園にいるときに、いつか『冒険者』になって一緒にいろんな所に行きましょうと言ってくれたこと。

⑤学園はちゃんと卒業の単位は取ってある。今自国ではマリ先輩はひどい皮膚病で別荘で療養中になっている。

 うん④に関しては私だね。私の社交辞令のせいだね。確かに私が言ったけど、あまりにも希望に輝く瞳を見て社交辞令だなんて言えなかった私のせいだね。まさか国を越えて追いかけて来るとは。

 ①も確かに彼女は縛りのある貴族社会は窮屈だろう。③も気持ち分かるかな。だけど。

「でも、婚約者は確かジェイムズ様でしたよね。マリ先輩のこと執着、じゃなくて大事にされてましたよね」

 マリ先輩のいるところ必ずジェイムズありと言われ、甲斐甲斐しくエスコートしたり、お茶に誘ったり、回りの牽制(これが主ね)したり。私の目から見るとジェイムズ様はマリ先輩にベタ惚れしていたようだが。

「駄目なのよ。私は悪役だから、下手したら家が没落、いいえこれ以上になるの。お父様もお母様もシュタムにも迷惑をかけれないから」

「んん? マリ先輩、言っていることが理解出来ないんですが?」

 悪役? なんのことだ? シュタムは確かマリ先輩の弟だったはず。一度見かけたことがあるが確か苦労人気質の美少年だった。

「どうぞ、お飲み物です」

 ローズさんが木のコップを二つ差し出した。甘い桃の匂いがする。お金を取り出すがローズさん受け取らなかった。

 お礼を伝えて一口含むと甘い味が広がる。

「ローズさんって確かクレイハート家のメイドでしたよね。悪役ってなんです? あのジェイムズ様がマリ先輩を諦めるとも思いませんが。何より付いているのが貴方だけっていうのも」

 私の問いにローズさんはマリ先輩に目配せすると、先輩はコップを傾けながら頷いた。

「はい、ごもっともです。クレイハート家でも色々ありまして、暫くマリ様のお好きにさせようということになりました。私はマリ様専従メイドですか多少戦闘ができますし、何よりマリ様のことを理解しているだろうからと護衛に選ばれました。悪役については私には解りかねます。婚約に関してはもともとマリ様は候補者の一人のため病気を理由に破棄方向に進んでます」

「そうなんですね。クレイハート家に不利にならなければいいですが。しかし、女二人の旅は危ないでしょう?」

 マリ先輩は可愛い系、ローズさんもキリッとした美人だ。しかも駆け出しが冒険者感が半端ない。襲ってくださいと言っているようなものだ。このローズさんがどれくらい戦えるか分からないが、伯爵令嬢の護衛にメイド一人は少ない。

「ここまではクレイハート家がかりた馬車できましたので」

 ああ、それで。馬車に護衛がついていたわけね。ここまで無事に到着したのはそれか。

「なのでこれからよろしくお願いいたします」

「はぁ?」

 ローズさんが一部の隙のないお辞儀をする。私はなんのことやらと間の抜けた返事をする。

「ルナちゃん、言ってくれたよね。なんのしがらみもなくなったら一緒にいろんな所に行きましょうねって」

 キラキラ、そんな音が聞こえそうな瞳。希望に満ち溢れた輝いている。う、ちと眩しい。

「ねえルナちゃん、そう言ってくれたよね」

「いやぁあれは社交辞令…」

「嘘、だったの?」

 輝いていた瞳がどんどん曇っていく。あ、うるうるし始めた。

「いや、あのですね」

 あ、泣きそう。

「……グズッ」

「パーティ組みましょう。そうしましょう」

「わーい、ルナちゃんありがとう」

 く、やられた。なるべく人と関わらないようにしてたのに。まあ、マリ先輩も気がすんだら、国に帰るだろうし。ローズさんは私が断らないこと分かっていたんだろうな。私の両手をしっかり掴んでブンブン上下に振るマリ先輩に、ローズさんが声をかける。

「マリ様、そろそろ今宵の宿を探した方が」

「そうだね。さ、行こう。ルナちゃん」

「いや私は別の」

 とてもじゃない。大富豪の泊まる宿なんて無理です。いろんな意味で予算的とか、精神面とか、予算とか。結局連れていかれたのはとても良心的宿で逆にマリ先輩とローズさんに大丈夫かと二度も聞いてしまった。

読んでいただきありがとうございました

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