プロローグ
※弟子視点
【戦略】と呼ばれる競技がある
VR技術を用いた電子世界のスポーツで、仮想の自分の身体を用いて様々な目標を達成していく競技だ。
単純に走り続けて様々な障害を乗り越えていくレース形式の物もあればゲームのように様々な武器を用いて対戦をしていく物もある。
人気があるのは対戦形式の物で何の修飾語もなしに【戦略】とだけ呼べば基本的には対戦形式の物を示す。
もちろん対戦形式といっても様々な物があるけれど、何の指定もない場合は1人を1チームとした【基本形式】を指す。
【戦略】は【回路】と呼ばれる装備を使い、銃を作ったり、シールドを作ったり、ブースターを作ったり、とにかく様々な物を作って攻撃したり防御したり移動したりする。
この競技は大人気でアマもたくさんいるけどプロもいる。その1人が私の師匠な訳だけど……
とにかく非常識な人だ。その非常識さは功績を聞くだけでも、現在の境遇を聞くだけでも実際の対戦を一瞥していただくだけでも分かると思う。
眼前に展開されているスクリーンの端に映し出されているポップアップには点滅している青のマーカーが1つ、煌々と輝く赤のマーカーが32、黄色のマーカーが無数おそらく100以上。
これが師匠が検知している現在の戦場。
青のマーカーが師匠を示していて点滅しているのは敵に探知、認識されていないから。
赤のマーカーは【戦術目標】今回は敵プレイヤーを示していて撃破目標。
煌々と輝いているのは詳細検索、ロックオン完了済みなため。
黄色のマーカーは【罠】や【NPC】を示していて各プレイヤーに攻撃してくる何かを示している。
赤のマーカーの数倍の速さで動いている青いマーカーの師匠は赤いマーカーの敵集団の端から少し距離を置いた位置に到達。
攻撃開始長距離からの狙撃を始め一息に3つの赤いマーカーを壊滅させる。
その瞬間、青いマーカーの点滅が終わり敵側に認識されるものの、敵側が殺到してくる前にその戦域を離脱、尋常でない速度で走り抜け敵側の索敵範囲から逃げ切り点滅状態に戻る。
すでに言いたいことががあるけれど状況は次々と移り変わっていく。
圧倒的な速度で動き続ける師匠とその動きについていけない敵プレイヤー群
潜伏が完了し、射撃位置を確保次第即座に狙撃を行い敵の数を削っていく。
徐々に数を削られ壊滅状態になっていく敵プレイヤー群。右往左往としていて様々な情報が錯綜している模様。すでに勝負になっているとは言い難い戦況。
赤いマーカーだけど、最初は80あったんですよ?
全てが敵であったバトルロイヤルでもなんでもなく公式が開催した師匠の実力を見るためだけの非公式なただのハンデ戦。1対無数。
すでに勝敗は見えてきてしまっているけれど……
敵プレイヤーが弱すぎる指導対戦でもない
雑魚みたいに蹴散らされているけれど敵プレイヤーは全員プロ
この業界で選手として活躍しているトップクラスの人材……いや、人財。凄まじく評価されている一流の方々だ。
それがこうもあっさりと蹴散らされてしまう。この実力差が師匠を今の境遇へと追い込んでしまった。
師匠は現役のプレイヤーでもあるけれど公式大会にはすでに参加できない。
強すぎて相手にならないから
1年の間に参加した大会は全て勝利、優勝。
通常の対戦形式以外では参加していないが、どの競技に出してもヤバイのは察せられているのかオファーはない様子。
師匠は競技参加開始から2年目にしてすでに名誉引退させられている。
師匠自身は参加できず、弟子とした人材を戦闘させる指導員の道しかすでに残されていないそうだ。
世の中は無常だ。公式戦初参加の際には美人過ぎる大型新人登場ともてはやされ、連戦連勝を繰り返し続けていた際には連日連夜ニュースで取り上げられ日々お祭り騒ぎだったというのにこの仕打ちである。
インタビューとか一切受けない師匠にも問題はあったとは思うが、あの容姿では仕方ないとも思う。
美人すぎる。どうコメントしても騒がれすぎて面倒な事になったのは間違いない。
インタビューを一切受けない他の方もいるのに師匠だけこの仕打ちとか酷すぎる……
が、あまり文句ばかり言ってもいられないかもしれない。私は師匠に対するこの仕打ちがなければ出会う事すらなかった可能性が高いのだから。
師匠は不本意だと思うけれど
『弟子始めました』