表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕の夏休み  作者: ウナ
2/3

第2話

「で?店にはもう慣れた?」

カウンターでオレンジジュースを飲みながら、匠がからかうような表情で聞いてくる。

「まぁな」

海音はなるべく音を立てないように気をつけながらカップを洗う。

これもだいぶ上手にできるようになってきた。

あの日から2週間。

初めてこの喫茶店に連れてこられ、のんびりお茶を飲む間もないまま、あれよあれよと言う間にバイトすることに決まったあの日。

その日以来、飽きもせず毎日ここに立ち寄る匠に、暇人はおまえじゃないかと思う。

「板についてきたじゃん」

「そーか?」

手を休めずに相手するのも慣れたものだ。

「楽しい?」

「まぁな」

「怒ってる?」

「まぁな」

「・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・冗談だよ」

本気にすんなって。

だからからかい甲斐があるんだよなぁ、こいつは。

「でもさ、マスターは一体何が知りたいんだろ」

海音が話題を変えると、匠はすぐに乗ってきた。

「さぁ・・・俺にもわかんないんだよねー」

「あ、そろそろだ」

海音は洗剤を洗い流したカップを拭きながら、時計に視線をやった。

視線の先にはアンティークの振り子時計がかかっている。

と同時に、ガチャンとノブが回される音が響く。

重たい扉を開けたのは、背の高い少年。

逆光で顔が見えないけど、海音にはシルエットだけでそれが誰だか分かる。

「いらっしゃいませ」

マスターが浮かべる穏やかな微笑までは行き着いてないだろうけど、にっこり笑顔を向けた。

「こんにちは」

彼は真ん中の大きなテーブル席に腰を下ろした。

「今日も借りるね」

「どーぞ、どーぞ」

お冷とメニューの準備をする。

「しばらくお前の相手はできないけど、拗ねるなよ?」

小声で匠にそう言ったら、「べぇ」とあっかんべえが返ってきた。

「いつも悪いね」

「大丈夫ですよ。ガラガラですから」

彼、桔梗明日佳は海音・匠と同じ高校の1つ先輩だ。

桔梗明日佳。

名前だけ聞くとまるで女の子のようだけど、れっきとした男子生徒。

学内にその名を知らない者はいないだろう。

その整った容姿は、すれ違う人の目を惹かずにはいられない。

明るく屈託ない性格で、学校でも男女の別なく人気は高い。

演劇部、部員。

演劇部員の間では陰の部長と言われている人物。

身長176センチ。体重60キロ。

血液型A型。

匠は生徒手帳に素早く目とペンを走らせる。

(これで顔写真撮れれば完璧なんだけどなぁ)

いつか盗撮でもするか?などと穏やかでないことを考える。

海音は意外に思うだろうが、匠はこう見えて完璧主義のところがあった。

「こんにちは」

桔梗に続き、よく通る声で挨拶をしながら入ってきたのは先矢泉帆。

彼女が演劇部の部長。

スラっとした長い足。

背も高く、舞台映えするその容貌。

顔立ちは整ってはいるけど、どこか人工的で冷たい印象を与える。

サラサラのストレートヘアが肩の辺りまで伸びている。

元々色素が薄いのか、自然な茶髪と茶色の瞳が綺麗だ。

遠慮のない匠は、初めて泉帆を見た時に海音にこそっと耳打ちした。

「整形かなぁ?」

「お前・・・それは言いすぎ」

身長167センチ。体重48キロ。

血液型AB型。

続いて泉帆の親友・森崎奈於が入ってくる。

身長162センチ。体重52キロ。

血液型O型。

彼女は染めた茶髪をポニーテールにしてリボンで結わえている。

奈於はカウンターの方に人懐こい笑顔を向け、「こんにちはー。お疲れ様」と挨拶と共に労いの言葉をかけてくる。

日頃から女の子は愛嬌だと言い切る匠は、奈於に対して好印象を持っているらしい。

「ゆっくりしてって下さい」

女子免疫の低い海音も、奈於にはさらっと言葉を返せる。

彼女には泉帆とは違い親しみやすい雰囲気がある。

「私達だけみたいね」

桔梗の隣の席にかけながら、泉帆が言った。

奈於は並んだ二人を見て、視線を落とす。

「ああ。まだみたいだね」

海音が3人分のお冷とメニューを運ぶ。

「ありがとう」

奈於がグラスを受け取り、桔梗と泉帆の前にも置いてくれた。

こういう気遣いをさらっとできるのが彼女の魅力でもある。

「注文、いいかな?」

桔梗に声をかけられ、メモを取る。

「ホットケーキと紅茶。腹へっちゃった」

海音に向かってクシャッとした笑顔を向ける。

邪気のない、その無防備な笑顔に、一瞬ドキッとした。

明日佳は黙っていれば泉帆に負けず劣らずの容姿端麗ぶりだ。

まさに美少年と言える存在だが、表情がクルクル変わって見ていて飽きない。

「私はクリームソーダお願い」

奈於もお決まりの注文をし、続いて泉帆が「私はレモンスカッシュ」と注文した。

厨房では注文を聞いていたマスターが、既に手際よくホットケーキを作り始めている。

海音はカウンターに下がり、飲み物の準備にかかる。

その間も、耳はしっかり3人の会話をとらえていた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ