青年マジック
売り場では中年のオタクっぽい太り体型の男がサバイバルナイフと思われるナイフを泣き喚く女子高生の首に突きつけ、非常にざわざわしていた。その目の前には若い雰囲気の男の子の書店員と店長が居た。店長は犯人と大して距離があるわけでもないのにメガホンを持っていた。絶対に必要ないだろう。何がしたいのだろうか。
店長はメガホンを構えた。
「直ちに人質を解放しなさいー。親御さんが悲しむぞー」
とんでもなく棒読みだった。やる気が無い上に発言がありがちな刑事ドラマだ。開放させる気はあるのだろうか。
「う、うるせぇ!父も母も死んじまったよ!」
「あー、こりゃ失敬」
こら、少しはやる気出せ。
「まぁ、その…あれだ。落ち着け」
「てめぇ、人の命関わってんだぞ!少しは動揺したらどうだ!?」
うん、確かに。
「いいから道をあけろ!さもないと」
「はぁ…テンプレの犯人ですか。あなたは」
店長の隣にいた若い男の子書店員は深くため息を吐き、そっと口を開いた。
逆上するように犯人は声を荒げた。
「んだと、てめ」
「万引きに加えて脅迫罪、営業妨害と…」
言葉を遮断させた彼は後ろを向くと私を見た。恐らく私だろう。万引き犯(仮)なため、思わずビクッとしてしまった。しかし彼は私の顔を見るや否、にこっと笑ったのだった。
とても安心するような笑顔だった。
もう一度犯人と目を合わせる。そして左手の親指だけ私に向けて再開した。
「彼女への冤罪行為」
中年男性の目は大きく見開いた。心当たりがあるのだろう。私も驚いた。
こいつが犯人らしい。
事実を知った店長は顔を顰めた。
「あぁ!?てめぇ、そんな容姿でよくうちの商品に手ぇつけたなぁ!おい!今すぐその汚ねぇ顔面を切り刻んで」
「店長、うるさいです」
ばっさりと私の心の声を彼は放った。そして言い直した。
「これ以上の罪重ねは己を殺すだけです。直ちに降伏することを提案します」
「ぐ…」
犯人は歯軋りをたてると、ナイフを持つ手が震え始め、力が入っていることに気づいた。
「うあぁぁああああぁああああ!!」
犯人の叫びと同時に傍観していた老若男女は悲鳴を上げる。しかし、書店員の彼は冷静だった。
そして、私はとんでもない光景を目の当たりにする。
彼の右手を黒く輝く光のエフェクトが包み込み、やがてエフェクトは漆黒に包まれた拳銃が現れた。
それは手品ではない。
魔法だ。
構えられた拳銃は犯人のナイフをロックオンし、爆音と共に放たれた銃弾はナイフのみを弾いた。
「くっそ…」
人質の女子高生を解放した犯人はその場で右手を押さえ込む。書店員の彼は躊躇なく犯人に銃口を向けた。
「次は眉間をぶち抜きます」
先程の笑顔から感じた優しさとは程遠い、私は背筋を凍らせる恐怖を感じた。それは犯人も同じようだ。身体がガクガク震えて止まらない。犯人はそんな身体を無理矢理動かし、全力で逃げた。が、そんな行動は不要な時間だった。
彼は犯人の逃げた先に電光石火で立ちふさがった。
「ひぃい!」
目の前のありえない行動に追いつけない犯人に彼は冷酷な目つきで静かに告げた
「被害者側の心の傷、思い知っていただきますっ…よ!」
振り上げた右足で下腹部を蹴り飛ばした。
「がはぁ!」
吹き飛ばされた犯人はもう抵抗をしなかった。
0.1%の魔法使い。
世界人口の0.1%は魔法使いであるという現代で初めて出会った魔法使い。
そんな彼との出会いが、私の人生を左右させる。