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黒角のディエイラ  作者: 若槻風亜
第4話
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第4話-5


 ほとんど実害を被らず一同は倉庫に辿り着く。各々が各々の装備を回収し始める中、特に何も取られなかったディエイラとミッツアは倉庫の入り口近くで留まっていた。


「おまたせ~」


 機嫌よく近付いて来たのはファラムンドだ。身につけているのは白を基調とした袖がなく裾が片方だけ長いシャツと、同色のゆったりとしたズボン。丸くつなげられた黄色の縁取りがされた茶色にも見える深緑の生地を脇のすぐ下に通し胸の前で交差させ首にかけている。


「やっぱりこれが落ち着くね」


 続けてやって来たのは緋色を基調に黒が随所に入る重装鎧を身につけたナリステアだ。背には大剣を背負っており、腰には一角がついた兜が下げられていた。がしゃりがしゃりと音を立てて歩いてくる彼女を見上げ、ディエイラとミッツアは本当にどうして彼女は捕まったのだろうと疑問を露にする。それに答えたのは本人ではなくご機嫌な様子で文字通り跳ねてやって来たジルヴェスターだった。


「凄いねナリステアさん。村人さんたちを人質に取られなかったら絶対捕まりそうにないね」


 まあね、とナリステアは苦笑する。一方、納得したディエイラはジルヴェスターに視線を向けた。彼は褪せた茶色のシルクハットに金色のゴーグルをつけ、肩にパットが入った帽子と同色のコートを身につけている。その下には彼が言う所の「機械」なる物があり、胸には鈍い金色や銀色が輝いていた。色々と身に着けているうえにコートの下にも何か隠しているらしい。彼が動くたびにがちゃがちゃと見た目に反する音がする。また、耳には同じく機械製なのかごつすぎる耳飾りがついていた。


 全員が自分の装備や服を取り戻すと、一同は倉庫を出て再び先に進もうと歩きだす。その直後、廊下中――いや、この建物中に響いているのではないかというほどけたたましく警報が鳴り始めた。


「脱走がばれたの?」

「気絶させた奴が起きたのかも」

「とにかく早く先に進もう」

「急げ急げ!」


 捕らえられていた者たちは口々に叫ぶと廊下を駆け出す。先ほどよりも騒がしい行軍は相手にもばれたらしく、様子を見に来たのかこちらを疑って来たのか単純に騒ぎすぎて気付かれたのか、倉庫に至る前とは比べ物にならないほど敵の数が増えた。それなりの広さはあるとはいえ結局は建物内。狭い中での交戦は互いに負傷者を多く出し、ひとり、またひとりと血に塗れる者が増えて行く。そもそも戦えぬ者や魔法を主体で戦う者がいるため戦力が少ないのがディエイラたちにとっては痛手だった。


 それでも何とか進むと、一同の足が止まる。分かれ道だ。


「……どっちからも外の匂いはするから、多分出入り口がふたつ以上あるんだろう。ただ、どちらも敵は来てるだろうだね」


 ナリステアが鼻をひくつかせ言うと、同意するように獣人など鼻の良い者たちが頷く。


「でもあっちの方が吹き込んでくる風が多いです! あっちの方が広そうですよ」


 後ろから分かれ道に飛び出した、ディエイラより年上・ミッツアより年下といった年頃の紫のローブを着た少女が左の道を示した。迷うところではない、と、一同はナリステアを先頭に走り出す。向かった先には、少女の言う通り広間があった。数段の段差をのぼりきった先にあるそこは天井が高く、見上げれば吹き抜け構造になっていることが分かる。どうやら今までディエイラたちが駆け抜けてきたのは地下二階で、ここは地下一階と二階の両方につながるという不思議な造りのようだ。


「見ろ! 出口だ!」


 誰かが叫ぶのに引かれる様に一同の視線が斜め上方向に集まった。階段をのぼり、地下一階の床に相当する吹き抜けからさらに階段をのぼった先に、確かに入り口がある。大きな物を運搬する時に使うのか、その横には昇降機の乗り場も設けられていた。


「誰もいない……? おかしい、これまでの様子だとここに敵がいてもいいはず――あ、待ちなあんた達!」


 立ち止まり訝しむナリステアに焦れた者たちが、彼女の制止などお構いなしに一斉に走り出す。しかし直後その疑惑は正しかったことが明らかになった。ぐるりと囲むように一定の間隔を開けて吹き抜けの壁部分に隠れていた敵たちが、弓矢を構えて姿を現す。即座に躊躇なく放たれた矢の雨が先に進んだ者たちに降り注いだ。悲鳴が響く中、咄嗟に飛び出したディエイラは力の限りに叫ぶ。


「やめよっ!!」


 焦りと怒りを孕んだ声と同時に放たれたのは術ではなくただの魔力。だが強烈なそれは強い圧となり周囲を薙ぎ払った。落ちてきていた矢は壁に当たり、弓を構えていた敵たちはころころと人形のように転がって行く。弊害は、敵だけではなく味方も吹き飛ばしてしまったことだろうか。負傷した者たちも同時に床の上を転がされてしまった。


「ばっか! ちびっ子お前何で術使わないんだよ! 指向性持たせなきゃお前の力はただの無差別兵器だっての!!」


 身を低くしてミッツアを抱えていたファラムンドが怒鳴りつける。


「す、すまぬ。此が覚えている攻撃の術は大掛かりなものばかりだからつい――!」


 仲間まで吹き飛ばしてしまい、流石に慌てたディエイラが言い訳した。黒角を持つ者の「大掛かり」への恐怖を多少の差あれ皆が胸に抱く。しかし、今こそ好機と取ったのか、気を取り直した面々も広間に駆け出した。それぞれに盾や剣などの武器を掲げ矢を警戒し、道すがら転がり唸っている者たちを拾い上げていく。すぐに回復出来そうな者はファラムンドや回復術を使える者が治した。


 だが、一同が広間を抜け切るよりも敵が体勢を立て直す方が早い。再び複数の弓が一同に狙いをつける。


 放て、と命が飛ぶ最中、異変は起きた。


「うわぁっ、何だこれ!?」

「蝙蝠!?」

「くそっ、どけっ!!」


 突如現れ敵の周りのみを飛び回るのは大量の蝙蝠だ。敵が混乱に落ちる中、一体何がと脱出者たちは困惑する。その中ふたりだけ、その顔に安堵の表情を浮かべる者がいた。ディエイラとミッツアだ。


「――来て、くれたのか」


 ディエイラが空を見上げて呟けば、答えるようにその姿が現れる。


「待たせた。無事か、ディエイラ、ミッツア」


 心配そうな響きをこめるその問いかけに、ディエイラとミッツアは同時に微笑んだ。冷静そうな顔に声通りに心配そうな表情を浮かべる吸血鬼に向けて。



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