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序話

 クラウド・B・ムーンスティアは、水色の双眸を目の前に座り込む幼い少女に向ける。ざんばらだった頃の名残が残る長い灰色の髪はクラウドが流したばかりの血で汚れ、年の割に理知的な輝きを灯す赤い双眸は今は俯いた顔の向こうに隠れて見えなかった。それでも上向く額の両脇に生える短い角は、変わらず黒く輝きを放っている。


「すまない、すまないクラウド……っ!」


 しゃくりあげながら、幼い声は何度もクラウドに謝罪を口にしていた。小さな右手が握り締める彼女の左腕からは鮮血が滴り落ちて行く。


「……大丈夫だ、大丈夫だから、泣くな、ディエイラ……」


 クラウドは力が抜けるに任せて首を前に傾けた。いつも後ろでひとつにまとめていた紫がかった黒い髪の先が少女――ディエイラの頬にかかる。それに導かれたように、ディエイラは顔を上げた。宝石のようだと思っていた双眸は、涙に濡れさらに輝きを増したように思える。そうと口に出来ないのは、彼女が自責の念で今にも壊れそうだから。そして、それほどの余裕がクラウド自身にないから。


「すまない、許してくれクラウド。誇り高き吸血鬼の魂を穢すの蛮行を、どうか許してくれ――っ」


 ぼろぼろと大粒の涙と共にディエイラは許しを請い続ける。自身に何ひとつ責任のない追放すら冷静に受け入れた少女が、今はじめて自分を取り巻く状況に抵抗を示した。それを嬉しいと思ってしまうクラウドの感情を、彼女は知らない。


「……泣くな、ディエイラ……」


 もう一度呟き、クラウドは目を瞑る。自身に訪れた〝その時〟は、思ったよりも気分の悪いものではなかった――。



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