いきて
遅い更新すみません
誤字・脱字がありましたら感想の方にお願いします
……暗い
真っ暗な暗闇の中を自分は漂う。
目を閉じてるのかそれとも開いているのかさえ分からず、ただただ流れに身をまかせる。
不思議と恐怖を感じない。
……暖かい
気づいたら暖かさに包まれていた。
凍えるように芯まで冷えきった身体に暖かな温もりが染み渡っていく。
このまま微睡まどろんでいたいと思えれる程 心地いい。
……明るい
暗闇の中ほんのり僅かに明るさを感じる。
真っ暗から薄暗い程度といったところだろうか。
そこまでいってようやく意識がはっきりとしだす。
…自分は……一体……?
自分がこうなる前のことを思い出そうとする
が
……何も…思い出せない
自分のことに関して何も思い出すことができず愕然となる。
それと同時に少しずつ不安が生まれてくるが、そんなことはすぐに考えられなくなる。
いきなり身体が何処かへと引っ張られるのを感じる。
…いや違う、引っ張るんじゃなく押し出されている感じだ。
押し出されていくにつれて自分の上から光が強くなっているのを感じる。
自分自身もなんとなくその光が差す方向に進もうと身体を動かそうとするが上手くいかない。
動かそうとするにもなんだか狭くて糸に絡まったみたいに動くことができない。
そのまま膠着状態になってしまい無駄に体力の損耗を強いられる状況になってしまった。
先ほどまで押されていたあの感じも今は微弱にしか感じない。
………このままだといけない。
不意にそう思った。
けどどうすることもできずこの状態を打破するような手が自分にはない。
八方塞の状況で心なしかさっき迄暖かだった温もりが感じ取りにくくなっていることに気づく。
…しのごの言ってはいられない。
必死に身体を押された方にへと進むように動かす。
我武者羅に只ひたすら前へ前へと進む。
…今の自分はどうしてこうなっているか分からない、けど今はこの温もりをなくしちゃいけない、光の方に進まなきゃいけないとよく分からない感情を胸にして進んでいたら
ーーーピィェェェェェ……
何処からか鳥の鳴き声が耳を掠める、そうして自分の目の前を眩い光が包みこんだ。
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
「おぎゃー おぎゃー」
産まれた瞬間に感じる外の空気
「---無事元気なお子が御生れになりました」
最初に聞く声は誕生と祝福の言葉
「産まれた貴女に私からの最初の贈り物があります」
初めての貰うものは呪となる名前
「…うぉぅ…?……」
その者の形を創り出す簡単で単純で、だからこそ頑強となる呪い
「ーーー 棗
……これが私が貴女に贈る物、……貴女の名です」
その呪を産まれたばかりの我が子に、祝福と共に優しい慈母の笑みを浮かべた
……あー、何この展開
どういうことなのか誰か説明をしてほしい………
**********
ザワ…ザワ ザワ……
京の都---平安京と呼ばれる都、その西にある一つの山。
都からは近いとされる山、その麓の中腹では濃霧のような濃い霧の出る森がある。
その森には狼や猪、熊といったごく当たり前の獣がでてくる。
そして ”もう一つ” この森には……いや、この森という小さい枠で当てはめるには語弊がある。
正確に ____ ”この世界” には
ガサッ……ガサ ガサッ!
--奇怪で人から恐ろしくも怖ろしいと畏怖される存在がある
--人の負から生み出されたとされる存在がいる
--人が生き物が生きている限り、”ソレ” の存在を忘れない限り 、”ソレ” は永遠に存在する
そうと云われ続ける ”モノ” がいる
長い時を刻む中いつしか ”ソレ” を人と呼ばれる種はこう呼ぶ
『グルゥゥァァァァァァーーーッッ!』
----『妖怪』と
『グルルルルゥゥッ……ガァァァァーッ!』
森の茂みから熊よりもふたまわりの大きさをもった異形が飛び出す。
姿形は熊に似ているが、その両手両足には長く鋭い鉤爪を持っている。
尾は蛇のように長い尾をし、口元から獲物を噛み千切らんとする牙が覗き、赤くギラついた目をこの森では珍しい滅多にいない ”人間” にへとむける。
そうして目に入った人間ーーー今日の獲物となる肉塊ーーーに対し、己が自慢の鉤爪を振ろうと勢いをつける為、腕を少し鞭のようにそらす。
振るおうとする熊の形をした妖怪は思う。
---今日はついている---。
嗜虐的な笑みを口に浮かべながら、ここ一週間程の貧相な食事---木の実などの植物ばかりで、あまり肉にありつけなかった---に対し、久方ぶりにありつける肉に歓喜する。
__と同時に
---何故人間が………少し普通とは異なる見た目ではあるが子供、それも ”幼い少女” が何故この森にいるのか。
滅多に使うことがない頭で、疑問と何か本能的に危険だと自分の野生の本能が警鐘を鳴らすが、大方 山菜を採りにでもきたのだろうと目の前の極上そうな肉を前に考えが占められ直ぐに気のせいだと蓋をする。
……己の本能的危険の警鐘は正しかったのだが、欲に目が眩んだことにより そのモノ---その妖怪の運命の賽は投げられた。
本来ならば精神に依存する妖怪はそこまで肉に対する執着は必要としない。
しかし獣から妖怪となったモノーーー『妖獣』と呼ばれる妖怪は ”受肉” ーー元の肉体ーーがあるからそれを維持するには微量ながら肉を必要とする。
なので、 ”受肉” を持った妖怪『妖獣』など肉を必要、欲する妖怪はそれが理由だったりするのだが、だからといって普通に襲うやつはいるのでやはりこれと言った理由は無い。
……また稀にだが、肉を食そうとしない必要としない高位の存在や変人(変妖?)という例外も少数だがいたりする。
そういったモノ達はおいおいと……
閑話休題
爪を振りきった後のその獲物が赤い鮮血を撒き散らすのを幻視しながら目の前の肉となる獲物---普通の人間とは異なる焔を彷彿とさせる紅い瞳に白い髪を肩あたりまで伸ばした幼い少女---に思いっきり振り下ろした。
しかし、そう思い浮かべていたことはおきなかった。
幼い少女--- ”少女” ---を引き裂くはずの爪は空をきり、目の前にいた少女はいつの間にか視界から ”消えて” いた。
突然の事で思考が止まりそうになるが、今迄培われてきた己の嗅覚と野生の勘で獲物が背後にいることを知らせる。
何が起こったのかわからないが今度こそは確実に仕留めると少し慌てて背後を振り返ろうとする。
その時、首から鈍い痛みを感じる、同時に後頭部から強い衝撃。
いつの間にか視線が下に落ちていき
顔がいや、頭部が急に熱くなるのを感じる。
同時に目の前が赤に染まる。
そこから目の前が赤だったのが今度は真っ暗にへと染め上がり、僅かに感じていた痛みもいつの間にか消えていく。
己に獲物が消えた後から何がおきたのかわからぬまま、その妖怪の生命活動は電源がシャトダウンするようにそこでブラックアウトとなりきれた。
潤沢のように猪や鹿といった生き物がでてくるこの森は狩りを好む者以外の者でさえも涎よだれものなくらい豊かな森だ。
だが、そんな森にも関わらず狩りにくる人はあまりこず、山菜を採りにくる人もそこまでやってきはしない。
その理由は当然、妖怪がいるからだ。
他にもあるだろうが大体の理由はコレだったりする。
…まぁ人がこないのは自分の都合としては嬉しいかぎりだから別にいいのだがな。
さっき自分を殺ろうとしたのを殺りかえした熊の妖怪をどうするか一考し、取り敢えず爪と皮をとることにする。
牙は頭部ごと文字通り焼失させてしまったので、採取することはできず残ったのは爪と肉塊のみとなったが
「…妖怪の肉って食べれるのかな」
ボーっと目の前にある熊の肉塊を見てふと魔が差す。
そして ハッ と気がついた時は、肉塊の一部を切って血抜きがされ、小さくブロック状にしたのを自分の手持ちである鉄串もどきにぶっ刺して火に焼かれているのが目に入った。
いつの間にか出来上がった熊の焼き肉もどき……
(…もう熊焼きでいいか)
熊焼き---しかも上手く焼き上がっている---をみて自分の食に対するものに眼を見開いて戦慄する
……と巫山戯るのも大概にして、さて目の前にあるコレをどうするか。
いや、焼き上げてしまった以上ただ食せばいい話なのだ。
…のだが、いかせん過去に似たようなことで死にかけることがあり、こんな事でと思えるようなことまでとある。
それこそコレ食べれるかなと思っては火に炙って食し、彼岸にへと行きそうになるのが幾度かあった。
……何やってるんだコイツは、食い意地の馬鹿か
ん?何か……又、空耳か?最近こんな事があるのだが、…確かこう言うのを『電波』というのだったか、まぁいいか。
さて、そう思ってしまうとどうしても躊躇してしまい手に取ることは
グゥキュゥーーーールルル……
もう本能か無意識かで口に突っ込み、そしてそのあまりの不味さに正気を取り戻すと同時に吐き出す。
見た目も匂いも問題はない、逆に美味しそうにみえるのに味がコレって……
「…調理の仕方か?」
色々と考えてみるが最終的にはやめて、折角久しぶりに肉が食べれると思ったのにと泣き崩れそうになるのを耐えて、そのまま放置に……はないから、埋めるか焼却処分する。
…これには理由があり、実際に思い出したくもないが自分の『彼岸への旅立ちシリーズ』のエピソードの一つとして数えられることがあり、以降 ”関わった” 妖怪の死骸にはこの二択をとっている。
手間はかかるが完全に消すなら焼却にするとして、死骸を中心に円状に堀を作って自分が生み出した火で着火。
死骸は一瞬で消え去り、残ったのは僅かに焦げた匂いが辺りを漂うぐらいだった。
何時までも此処にとどまるのは得策ではない為、移動する。
まだそこ迄、朝日は昇っておらず初夏の肌寒さが自分の肌をしみらせる。
「ふー……」
戦闘で火照った肌はまだ引いておらず、時折り吹く風が撫でていくのが気持ちがよかった。
一度歩みを止めそのまま少し風に吹かれる。
白髪を風に遊ばれるのをよそに、ふと自分がこの世界に生まれてから今までのことを思い返す。
あの時、自分が生まれて幾日かたって
自分がこの世界に産まれてから色々なことがあった……あり過ぎた。
酷く濃厚な……濃厚過ぎる九年間だったと今でも自負している。
長々と話すのはいいがそれは又今度にするとして、さて前書きはこれぐらいにして自分のことや周りのことに関してを簡潔にしようと思う。
まず事項で挙げられるのが
1.自分には知識はあり、記憶がないこと
2.この世界は過去の日本であり、今は平安時代であろうということ
3.妖怪という存在がいること
4.自分のこの知識は不明であること
5.この世界には不思議な力が存在すること
6.自分にはその力があること
7.自分は一応であるが出生は低階級の貴族であったこと
8.父は不明、母は四年前に他界したこと
9.今は産婆を務めていた女性が世話役であること
…とこんなものだ。
少し補足で説明するが1に関しては文字通り記憶がない、詳しくいえば自分の生きた記憶 ”思い出” がないのだ。
あるとすれば知識としての記憶 ”データ” しかなく、父母といった家族、友人、身近な人達とそういった記憶が一切ないのだ。
自分が過去に生きていたという知識だけが残っている、まるでデータの引き継ぎといった状態だ。
因みにこの考えは自分の知識に違和感を覚えて、結果こんな結論がでて冒頭にといったところだ。
2に関しては引継いだ知識から参照した。
3〜6だが、先に言うが凄いややこしいといっておく。
3と5は2と同じように知識からで問題は4なんだが、この知識自分の過去で得た記憶以外のものが混ざっているって気づいたんだ。
まるでこの世界で順応できるかのようにそういった必要そうな知識が入っていることに当初は気づかなかったが、4以外の事柄で確信したんだ。
この知識は一体何なのかは不明だが、利用できるものは利用するので深く考えるのはやめた。
6はこれも知識からだ、というかそうじゃないと気づけなかった。
最後に7〜9は今世の母が低い地位だが貴族である為 必然的に自分もそうなり、産まれてから繋がりで父親という該当する存在に関することは一切知らない為 生存不明の赤の他人と認識、唯一肉親である母は産まれる前から病に侵されていた為 産んで五年後にこの世を去った。
そして最後にいつも母の側におり産婆を務めた女性---女中---は母が他界した後、世話役としてかって出てくれた同居人だ。
これが今分かっている現状だ。
他にも何かあった気がするが頭に靄がかかっているようで、何も思い出せない。
忘れてはいけないことの筈なんだが、この考えが浮かんでは頭の中に焼鏝でも突っ込まれるほど不愉快に警鐘が鳴り響くんだ。
そんな時、きまって胸中に黒いタールのような粘液状が蠢いては不安と恐怖が掻き立てられるんだ。
思い出すことを拒否するかのように……
何かから逃れるように……
過去にあったことを考えてたら、いつの間にか陽が森に差し込み自分の顔を淡く照らしていたのに気がついた。
どうやら深く考え込んでいたらしい。
そう思って歩みを再び再開させようとして
……ん? 陽が差す……
「…って、やば。こんな所でいつまでも突っ立ってる場合じゃなかった」
慌ててその場から全力で都に向かうおうと身体に力を巡らし、そして翔ぶ。
後には森の静寂さと熊の死骸を焼失させた跡だけが残る。
森に風が一陣吹けば少女がいた処に紅い羽が風に乗って空から降ちてゆき地に着くころには幻想のように儚く消える。
まるでそれはこの先の少女を指し示すかのように……