戦いの後
優が黒いドラゴンを真っ二つにするのを見ていた真斗達と冒険者たちは惚けていた。先ほどまで恐怖の対象としていたドラゴンが真っ二つになっているのだから当たり前だろう。
「やっぱりスゲェな」
真斗はこんな言葉を口に出した。
「やっぱり、とは?」
アリス王女や専属の女の子達は真斗の言葉に疑問をもった。
「あぁ、あいつは元の世界でも信じられないくらい強かったからな」
「優さんってそんなに強かったんですか?失礼ですが、そんなに強そうには見えません。
むしろ、真斗さんや恭平さんの方が強そうに見えますわ」
アリス王女の言葉に同意というように専属の女の子達も頷いた。
「あいつは腕っ節が強いってわけじゃねぇ。
どうすれば勝てるか、ってことが分かってるんだよ」
「どういうことですの?」
「優や俺達が使えるのは中級の魔法までだろ?でも、あのドラゴンは中級程度じゃ倒せない。そうだろ?」
「はい、そもそもドラゴンは人族の国にはいません。昔の書物によると100年位前はいたそうですがその時は精霊級を使える魔法師を10人、その人を守る騎士20人の計30人で倒したと記述されてましたわ」
優や真斗達は中級魔法までしか使えない。
アリス王女や専属の女の子達は精霊級は使えるが5人、しかも守ってくれる騎士がいないのでドラゴンにやられてしまうだろう。
「そうなんだな。だから優は残って1人でやった方がいい、って判断したのかもな」
「でも優さんは先ほども言っていた通り中級魔法までしか使えないんではありませんの?」
アリス王女はクレアの方を見る。
クレアは肯定する様に頷く。
「潜在能力的にはSランクまであるんだからその力を全部【英雄の一撃】に込めたんじゃないか?」
「ち、ちょっと待ってください。まだ魔法を覚えたてですので魔法力はまだ良くてCランク程度。ありえませんわ」
「そんな正確には分からないが優はピンチになるほど力を発揮する。昔からそうだったからな。要するに優はスゲェってことでいいじゃん?」
そんな会話を続けていると優が此方に近づいて来た。
そんな優に誰よりも早く近寄ったのはアリス王女とクレアだった。
「怪我はありませんか、優さん?」
「大丈夫でしたか、優さん?」
そう言って2人は優の身体をぺたぺたと触りだした。
突然のことに優はビックリしたが落ち着いて答えた。
「怪我もないし、大丈夫でしたよ。僕の方は攻撃を受けてませんので」
そう言うと2人は安心して優から少し離れる。そして今自分がした事を思い出して顔が真っ赤になる。
「す、すいませんっ優さん」
「も、申し訳ありませんわ」
恥ずかしがっている2人を見て微笑む。
優が微笑むと2人は更に顔を赤くして優から少し離れて俯いた。
そして優は真斗たちの方を向いた。
「思ったより弱いんだね、ドラゴンって」
「あれを弱いと言えんのはお前くらいだろうぜ。俺も流石に今のままじゃ勝てないだろうしな」
「ギリギリ勝てると思うよ」
「お前が言うならそうもしれないが、怪我してまで戦いたくねぇよ」
「それもそうだね」
こんな会話を続けていると冒険者達が話しかけてきた。
「お前スゲェな。俺の名前はオーウェン。ギルドのランクはAだ。俺らはチーム【バスカーバル】って言うんだ、よろしくな」
チームとは冒険者ギルドで登録することでなれるグループで、最大5人のメンバーで構成されている。
自分の名前は明らかに日本人。万が一、『勇者』であると知られると面倒だ。よし、ファーストネームだけを名乗ろう。
「僕はユウです。こちらこそよろしくお願いします」
「おぉ、ユウって言うのか。聞いたことねぇ名前だな。さっきの強さはSランクでもおかしくねぇと思うんだがよ」
「最近ここら辺に来たんですよ。しかも僕は冒険者じゃありませんし」
「おぉそうかそうか。冒険者じゃねぇとは勿体無い。どうだ?冒険者にならねぇか?」
「今度機会があったらギルドに行きますよ」
「おう、そん時は俺の名前を出してくれ。これでも名前が通った冒険者だからよ、ギルドマスターにでも話を通しておくよ」
「はい、分かりました」
そう言うとオーウェン達は王都の方へ帰っていった。
オーウェン達がいなくなって僕達は今後について話し合った。
「おいおい、どーする?」
「一回僕達も王都に戻って王様に報告しないか?」
「明らかに様子がおかしいのでそうさせてもらいませんか?」
そう言って僕等は王都へ戻った。